作詞家zopp「ヒット曲のテクニカル分析」 第1回(後編)
秋元康と中田ヤスタカの作詞術はどう違う? プロデューサーが生み出す言葉を読み解く
「尾崎豊さんに検索順位で勝てるわけないですから(笑)」
――あと、近年だと「ネットで検索して初めの方に出てくるかどうか」も大事なのでしょうか。
zopp:「I LOVE YOU」とか、尾崎豊さんに検索順位で勝てるわけないですからね(笑)。僕らプロの作詞家は、タイトルを決めたらたいてい検索して、被らないようにしています。作詞家を目指している若い子によく言うんですが、若者は時間というハンデが圧倒的にあるわけです。たとえば、秋元さんはぼくらより30年近く長く生きているわけで、その時間を埋めることはできない。だったら、自分が得意なことをやるのがベストではないかと思います。近年、作詞家として活動している方はほとんどが何かの仕事と兼業だったりします。なので、今までの自分の人生や職業を生かした歌詞を書けば個性に繋がると思います。それと、時流を掴むことも大事だと思います。昔、ぼくが家族で住んでいたマンションの横に三浦徳子さんという有名な作詞家さんが住んでおり、母とすごく仲が良かったのですが、三浦さんは必ずファミリーレストランで歌詞を書いていたそうです。ファミレスはお年寄りも子供も高校生の話も聞けるので、そこにいるだけで話のネタがいっぱい入ってきますし、大半の方は何かを食べに行くというより話をしにいく場所だったりするので、勝手に世間でいま何が起こっていて、どういう時流が来ている・来ようとしているのかがわかる。そういう心がけも大事なんだと思います。そういう意味では、阿久悠さんは王貞治を題材にしてピンクレディーの「サウスポー」を作るなど、曲に時代の背景が反映されていますよね。
――言葉を乗せにくいメロディについてはどう解釈しているのでしょうか。
zopp:K-POPの潮流などにあるダンスビートを軸にしたポップスは、言葉の強さよりメロディにどれだけ乗っているかが重要になるので、作詞家としても歌詞で使える言葉が制限されてしまい、レパートリーも少なくなるので難しいですね。そのなかでは少女時代やT-araが個人的に秀逸だなと思います。たとえば少女時代の「FLOWER POWER」は、一聴すると言葉の座りが良い造語のように聴こえますが、慣用句で「愛と平和」とか「愛による社会変革」という強いメッセージ性がある言葉になる。同じものでT-araの「Roly-Poly」は「起き上がり小法師」という意味だけど「ロリポリ」と言葉にしたとき座りも良いし、「くびったけ」という意味の「Lovey-Dovey」も、「ラビダビ」という愛称で親しまれています。日本人にはなじみが少ないけど、韓国のアーティストは英語で韻を踏んだり、擬音語・擬態語みたいなのをとくに使う傾向があります。最近は日本でもSTYさんやH.U.Bさんなど、英語を得意にする作詞家さんも増えてきていますし、ダンスビートでも中田さんとは違った日本ならではの歌詞が書ける人が次々と現れるのかも。作詞家にとってはここがいま勝負すべきフィールドなのかもしれませんね。
(取材・文=中村拓海)