秋元康と中田ヤスタカの作詞術はどう違う? プロデューサーが生み出す言葉を読み解く

「サビにはタイトルになる言葉か、歌詞を通して伝えたいことを入れる」

――この二人だからこそという部分も大きいのかもしれませんね。

zopp:ぼくたち職業作家は、与えられたメロディの数を守るというのがプロとして最低限の仕事だと思っているので、それは許されないんですね。それがこの2作品の比較というか、この二人とほかの作家の違いだと思います。普通なら「いや、君は作詞の仕事さえしっかりしてくれればいいから」と言われますから(笑)。

――秋元さんの歌詞で、他に気になるものはありますか。

zopp:最近ピンと来たのは、乃木坂46の「何度目の青空か?」です。もちろん曲として非常にすぐれているということがあるのですが、<校庭の端で反射してた 誰かが閉め忘れた蛇口 大事なものがずっと 流れ落ちてるようで 風に耳を塞いでいた>という一文の<端で>や<反射してた>に、主人公の学校内での立ち位置を上手く表現していますし、一曲を通して作詞をする人はこれを参考にすればいいのにという綺麗な物語性がある。乃木坂46はAKB48に比べると、比較的に詩的な歌詞が多いという印象もありますし、「君の名は希望」と同じ視点に思えますね。普通に生きていても<何度目の青空か?>という言葉は使わないし、思わないことをわかっていて、歌詞の中ではその“わからない人”の視点からしっかり表現している。

――タイトルも捻っていて、つい歌詞を見たくなる感じですね。

zopp:「これはなにを言いたかったんだろう」と思うと、つい歌詞まで見てしまうので、そこはすごく大事でしょうね。「制服のマネキン」はタイトルもそうですが、サビのフレーズで使われている<恋をするのはいけないことか?>や<若過ぎる それだけで 大人に邪魔をさせない>に驚きました。これも「なんてったってアイドル」に通ずる、秋元さんならではのタブーの入れかたですよね。作詞クラブでは、よく「サビにどういうフレーズを入れればいいんですか?」という質問がありますが、基本的にはタイトルになる言葉を入れるか、歌詞を通して伝えたいことをワンフレーズで入れたほうがいいと教えています。「暴力反対」とか「私は君が好きです」とか、そのふたつの要素がサビには入ってないとダメだよ、と絶対に言いますね。

――J-POPとしては、どこがサビかわかることも重要なんですね。

zopp:そうですね。それと近年の音楽はサビ至上主義でもあるので、さらっと始まると聞き流してしまう。ここ最近、音楽を聴く人がすごく減っていると言いますが、電車の中でイヤホンをしている人は多い。これって、好きな曲だけを垂れ流して聴いていると思うんですよ。そういう状況で、街で曲をプロモーションしたときに、いかに印象を残すかというのが、曲のサビや頭のところの強さなんですよね。サビにタイトルになる言葉が入っていたほうがいいのは、聞いた曲をどこかで字面で見たときに、リンクするから。作詞クラブで宿題を出したときに、タイトルになった言葉が歌詞のどこにも出てこない人もいます。その時に「なぜ入れないの?」と訊くと、生徒から「映画とかでも本編にタイトル出てこないことって、あるじゃないですか」と反論されたりするんですが、「いや、そんなことはない。絶対にどこかに出てきてる。見過ごしてるか聞き過ごしてるかだけで、どこかにタイトルを思わせるフレーズとか、タイトルがキーになって物語が開けたりするから」と投げかけています。

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