西廣智一が3rdアルバム『Rock on.』を分析
バイリンガルシンガー・ナノが新作で“真のデビュー”に到達ーー初ライブからの2年を振り返る
その後ナノは同年5月にドイツ・デュッセルドルフで開催されたジャパニーズカルチャーコンベンション「DoKomi」に招待され、初の海外ライブを敢行。CDリリースのないドイツで約1500人もの観客を前に大健闘ぶりを見せた。さらに8月には東京と大阪で初の単独ツアーも実施。翌2014年6月には東京・日比谷野外大音楽堂でMY FIRST STORYとのツーマンライブ、9月には東名阪Zeppツアーも実施され、ステージを重ねるごとにシンガーとしての実力を高めている。
ここまで読んでお気付きの方もいるだろうが、前作『N』までの2作と今回のアルバム『Rock on.』との大きな違いは「ライブを経験しているか否か」。つまり「ネットを活動の基盤にしてきたシンガーが、リアルな世界で生身の人間と演奏し、生身の人間を前に歌う」経験を得たことで、制作に対する姿勢も変化を迎えた。実際ナノ自身も「自分の音楽活動の中で一番大きな影響を与えたのがライブ活動」と公言しており、そういった経験で得たものをすべて注ぎ込んだのが2年ぶりのアルバム『Rock on.』なのだ。いや、もっと言ってしまえば、ライブでの興奮が忘れられないロックキッズがバンドを辞められない感覚が、ここに表現されているのかもしれない……そういう意味では、3作目にして“真のデビューアルバム”がここに完成したとも言えるだろう。
“これぞナノ”と言えるストレートな『identity crisis』からスタートし、壮大な世界観を持つタイトルトラックで締めくくられる構成からも強い信念が感じられる今作。既発のシングル曲を軸にしつつも、「ステージで歌いたい曲」「ライブに必要な曲」に焦点を当てた結果、過去2作以上に純度の高い、濃厚な1枚に仕上がった。従来のファンはもちろんのこと、先のMY FIRST STORYをはじめとするエモーショナルなロックサウンドを信条とするバンドのリスナーにも存分にアピールするはずだ。
この勝負作を携え、3月下旬からは北海道や福岡といったライブ初開催地を含む全国5都市でのライブハウスツアーも予定されている。純度の高いロック作品がキャパの小さいライブ会場で鳴らされることで、どういった化学反応を起こすのか。そして2015年の音楽シーンに何をもたらすのか。戦闘モードに入ったナノが歩んでいく今後の動向を、じっくり見守っていきたいと思う。
■西廣智一(にしびろともかず) Twitter
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。