岡村詩野と田中宗一郎が語る“音楽ライターのあり方” 「自覚と見極めがないまま文字だけが増え続けている」

「くるりの新作は『リスナーに考えてもらうべきレコード』」(田中)

岡村:くるり『THE PIER』のライナーノーツについては、noteで執筆した『くるりの一回転』の流れでお願いされたんでしょうか。

田中:繁くんや佐藤くんには、何年かに一度、天啓のように「田中宗一郎に話を聞けば、何かいいヒントがみつかるんじゃないか?」という勘違いが起こることがあるみたいで(笑)。特に今回の『THE PIER』の場合、なんかすごいものを作ってしまったような気がするものの、それをどう世の中に説明していいかわからないって感じてたんですよ。で、この『THE PIER』にはいろいろな時代の音楽やいろいろな国の音楽からの引用がたくさんある。すごく古いものをかき集めているんだけど、とても新しくもある。なので、俺が「わかった、これはスチームパンクなんだよ」という話をしたら、メンバーたち的にはすごく腑に堕ちたみたいで、すごく喜んでくれたんですよ。でも、スチームパンクなんて言葉で説明しても、SFファンくらいにしか伝わらない。なので、まずレーベルのスタッフにアルバムの内容をプレゼンするための12ページくらいの企画書を作ったんです。

岡村:音楽雑誌でレビューを書いたりする場合には、いわゆる紙資料というものを事前に受け取ります。その企画書がそれですね?

田中:元々は社内スタッフ向けのものだったんだけど、その一部がライターとか、メディアにも配られるようになったっていう。

岡村:基本的に紙資料というものは、制作サイドからのセールスポイントを書かれています。誰がプロデュースしている、こういうものがコンセプトだ、というものから、全曲の歌詞、場合によってはアーティストの一言コメントもあります。『THE PIER』の紙資料には歌詞以外そういうものが一切なくて、その代わり社内プレゼン用に配るようなキーワードの羅列や、コンセプトを図形化して示すようなものでした。

田中:一般的なJ-POPからすれば、かなりエクストリームな作品なので、当初、繁くんは何かこれにジャンル名が付けられないか?って考えてたみたいなんですね。でも僕は、「これは説明しちゃいけないし、出来ない、けど説明したくなる。だから、そこはリスナーに考えてもらうべきレコードだ」って話をして。で、インタビュー取材をする人たちにとっても「これは一体何なんだ?」と混乱させるような資料をわざと作ったんです。このアルバムとどこかシンクロしてるような映画や小説、人物、固有名詞がたくさん出てきて、情報がオーバーロードしたような不思議な資料を。その方が想像力を掻き立てるし、メディアもクリエイティブに聴いて、書いてくれるんじゃないかと思ったんですね。で、ライナー原稿自体は、それの出涸らしというか。ただすごく自由に実験的な文章を書かせてもらいました。

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