岡村詩野と田中宗一郎が語る“音楽ライターのあり方” 「自覚と見極めがないまま文字だけが増え続けている」

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『YEBISU MUSIC WEEKEND』ロゴ。

「文章そのものに100円でも200円でも支払う意識を持ってもらうために我々はどうすればいいのか」(岡村)

岡村:今日は極端に長い原稿をタナソウさんの直近の仕事の中から選んできました。その中で最近話題になったくるりの原稿2つについて伺います。まずフリーで読めるnote。それからくるりのニューアルバム『THE PIER』に封入されている極端に長いライナーノーツです。前者は、くるりがデビュー前に作ったカセット音源『くるりの一回転』のダウンロード販売に伴って執筆されたものという位置付けですね。そして後者は10月リリースの『THE PIER』のライナーノーツ。つまり、最初期と最新作の音源のライナーノーツということなのですが、これはどういった経緯で書くことになったのですか。

田中:くるりは今年事務所を独立して、社長である佐藤(征史)くんが陣頭指揮を取りながら、今回のアルバムを作りながら、同時にマネージメント体制を固めなきゃいけない、という状況だったんですね。で、その一貫として、noteというプラットフォームをいろいろと活用しようと考えていた。そのアイデアのひとつとして、文章と音源の両方をそこで販売したり出来ないか? っていうアイデアを温めてたみたいなんです。それがきっかけ。

岡村:タナソウさんはほかにも、スプーンの国内盤に書いたライナーノーツをOTOTOYで販売するといった、音源に自動的に付いてくる解説の概念を変えるようなことをしていますね。

田中:僕は以前『snoozer』という雑誌の編集長でした。今も『the sign magazine』というWebメディアのナンバー2として17歳年下のボスにこき使われてる(笑)。だから基本的にはライターというよりは編集者であり、運営側の立場なんです。なのでずっとライターさんに仕事をお願いして、原稿を買い取ってきたわけなんですけど、そこにはちょっとした罪悪感のようなものがあった。雑誌は売れれば儲かりーーまあ、ほぼ儲かりませんが、ただ、その中の記事に取り上げた作品が売れれば、アーティストもレーベルも喜んでくれます。しかし、それを促した記事を書いてくれたライターさんにはギャラを支払って終わり、というのはちょっと不条理だなと思っていた。とても説得力を持ったテキストによって作品やアーティストが世の中にきちんと広まった場合に、書き手にも固定額のギャランティではなく、ロイヤリティが支払われるような仕組みが作れないものかと、ずっと考えていたんですね。つまり、エンドユーザーが直接、ライターさんにお金を払ってもらえるような仕組みを作りたい、そのテスト施策としてスプーンのOTOTOY独占ライナーノーツのようなことをしたり、同じようなアイデアを持ったくるりのnoteのアイデアに加わらせてもらったところもあります。

岡村:タナソウさんが言いたいのは、「文章は、雑誌の中に複合的に販売される形であったが、ひとつひとつロイヤリティとして支払われるべきだ」ということですか。

田中:でも、正直、現状だと、夢物語だとも思うんですね。スプーンの文章はインタビューを含めた2万字くらいの内容で、単体で買えば200円、ハイレゾ音源と一緒に買ってもらえれば100円です。200円といえばLINEのスタンプや缶コーラと同じような金額なんだけど、正直、文章にその金額を出すのは躊躇するでしょう?

岡村:そこは書き手や内容によるんじゃないですか。

田中:そこに関しては、読み手からの信頼性を個々の書き手が築き上げていくためのサポートをメディアがしてこなかったことが大きいと思う。書き手たちもただ仕事をこなすことに流されている場合もなくはない。『snoozer』の場合は、例えば、岡村詩野という書き手のもっとも優れた側面や新しい顔を読者に訴えかける場所をそれなりに用意したつもりだし、書き手としてのブランディングの手助けが出来たと思う。『the sign magazine』のボスの小林祥晴は『snoozer』で何年か書くことで確実にキャリア・アップ出来たと思うしね。『the sign magazine』もそうなれるといいんだけど。

岡村:『the sign magazine』は立ち上がって2年ですが、成果はどうですか?

田中:俺、年明けから10ヶ月以上は身体の不調で、ほぼ何にもしてないの(笑)。

岡村:もう時効ですけど「どうなっちゃったのか?」という話はたくさんありますよね。2013年のベストディスクとか(笑)。

田中:まあ、年内には書くんじゃないの?(笑)。(少し間があり)うん、でも、やっぱりね、文章にお金払うのってきついでしょ? 馬鹿らしいでしょ?

岡村:ここに何を言いに来たんですかあなたは(笑)。でも、情報としての文章がインターネット上では概ねタダで読める、という状況が定着してしまった今、それでも文章そのものに100円でも200円でも支払う意識をどこまで持てるのか、あるいは、持ってもらうために我々はどうすればいいのか、というのは大きな課題ですね。

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