映画『ハートブレイカー[弾丸より愛をこめて]』DVDリリースインタビュー
m.c.A・Tが証言する、90年代日本語ラップの興隆とその手法「ラップとメロディの融合を試みた」
「94年はヒップホップにとってエポックメイキングな年だった」
ーー「Bomb A Head!」はその後、注目を集めるわけですが、もともとメジャー志向を持って作られた曲だったのでしょうか。
A・T:そうですね、僕の作る物は常にメジャー感があるものだと自分では思っていて、アンダーグラウンドなものにはしないようにしています。あえて作ることもできるし、サントラではそういう曲もあるんだけど、自分で歌うものに関しては、ダークにならず、必ずポップでなければいけないと思っていました。ただし今回の映画に入っている「Bomb A Head!」に関しては本当のオリジナルなので、多くの人が知っているそれとは少し違います。オリジナルの「Bomb A Head!」は町田のavexのスタジオでレコーディングしていたところ、エンジニアの方が「これは面白い」と言って松浦勝人社長に聴かせて、そこからトントンとm.c.A・Tとしてのデビューの話が決まったのですが、ただこのままだとポップさが足りないということで、ラップのパートを減らしたり、メロディーを変えて増やしたりして、より多くのひとに届きやすい形にしました。去年リリースした『Bomb A Head!生誕20周年記念盤~ありがとう編~』には、映画の楽曲と同じバージョンも入っているので、聴き比べてもらえると面白いかもしれません。
ーー90年代前半から半ばにかけては、メジャーシーンにもラップが浸透していった時期かと思います。m.c.A・Tさん含め、当時活躍したラッパーは後の音楽シーンにどんな影響を与えていきましたか。
A・T:僕がデビューしたのは1993年12月で、翌94年にブレイクしたのですが、その年は日本のヒップホップやラップにとってエポックメイキングな一年でした。僕だけではなく、スチャダラパーは小沢健二と「今夜はブギーバック」を発表して知名度を上げましたし、East Endは東京パフォーマンスドールの市井由理を加えて、EASTEND×YURIとして「DA.YO.NE」で一大ブームを巻き起こしました。まさに日本のヒップホップの当たり年だったわけです。そして、その流れは後の日本のヒップホップにも受け継がれていきます。スチャダラパーは一聴するとコミカルに聴こえるけど、ライムや内容について素晴らしく研究していて、後学のラッパーに大きな影響を与えましたし、EASTENDのGAKU MCが得意としていたメロラップーーラップなんだけどメロディもあるスタイルは、同じFUNKY GRAMMAR UNITのRIP SLYMEやKICK THE CAN CREWにも受け継がれていったと思います。僕の場合はひとりで打ち込みもやるし、歌も歌っていて異質だからか、純然たるフォロワーというのはいないのですが、97年にDA PUMPのプロデュースを手がけて、彼らにはダンスもあったので、やりたかったことのひとつがそこで結実したんじゃないかと。最近だと、avexで頑張っている若手、とくにAAAなんかが僕のことを慕ってくれているので、これまでやってきたことは間違ってなかったなと、いまは思っています。
ーー同じくavexのEXILEに関してはどう捉えていますか。
A・T:彼らがJ Soul Brothersのときから知っていて、コーラスにも参加したことがあるし、HIROさんも友達ですから、もちろん好感を抱いています。ダンスに力を入れていて、avexとタッグを組んでダンススクールを展開したりしているのも、すごくシーンに貢献していると思うし、文化的にも素晴らしいものだと思います。ただ、初めてEXILEとして彼らを見たときは、目から鱗が落ちましたね。というのも、僕はDA PUMPを育ててきたので、 “歌って踊れる”というスキルをすごく重要なファクターとして捉えていたんですね。そのために、ダンスと歌のアクセントを揃えたりして、メンバーが無駄なく踊れるように研究して曲を作っていました。また、ダンスミュージックを作る人はクラブに行って自分も身体を動かさなければいけないし、グルーヴ感を体得している必要があると考えていました。だけど、EXILEの場合はシンガーとダンサーを別々にして、しかもシンガーはダンスミュージックの出自じゃないひとを起用している。日本の歌謡曲とダンスミュージックを融合させるのに、極めて画期的かつシンプルな手法で、これは僕からは絶対に出てこないアイデアでした。そういった意味でも彼らは新しかったですね。ダンサーのHIROさんがリーダーだからからこそ、既存の枠組みにとらわれないカルチャーを展開できたのかもしれません。
ーーカルチャーというところで『ハートブレイカー』に話を戻すと、映画はクラブカルチャーよりディスコカルチャーに近いものだったと思います。改めてその違いを教えてください。
A・T:ディスコはみんなで同じことをして楽しむカルチャーで、クラブは個人技を見せるカルチャーじゃないかと。ディスコの時は、鏡を見てみんなで同じステップを踏んでいましたし、DJはジャンルレスに流行している音楽をかけて、それをみんなで共有するという感じでした。いっぽうでクラブは、ハウス、ヒップホップ、トランス、EDMと、ジャンルが細分化されていて、選曲は流行よりもそのDJのセンスに依るところが大きく、箱自体にも得意ジャンルというものがあります。ダンスに関しても、みんなで一緒にというよりも、訪れたひとがそれぞれ自由に踊っている感じで、やはり“個”での楽しみが大きい。たとえてみると、原宿と裏原宿の違いみたいなところがあるんじゃないかと思います。
ーーなるほど、より個人の趣味嗜好に依って多様化しているという意味でも、クラブは昨今の風潮に合っているのかもしれませんね。では最後に、いま『ハートブレイカー』が再び世に出ることについて、一言お願いします。
A・T:『ハートブレイカー』は本当にカルト映画だと言われていて、多くのダンスミュージック愛好家に影響を与えてきた作品です。これまでVHSとレーザーディスクでしかリリースされていなかったので、今回やっとDVDになったことを喜ぶ方は多いと思います。小松監督は若いときの作品だから照れくさいって言いますけど、これに出ているダンサーにはすでに亡くなった方もいますし、日本の音楽ダンス映画の原点としても価値のある作品だと思いますので、当時を懐かしく思う人はもちろん、ダンスミュージックに興味がある若い子まで、ぜひたくさんの方に観てもらいたいです。
(取材・文=松田広宣)
■リリース情報
『ハートブレイカー[弾丸より愛をこめて]』
発売:11月7日(金)
価格:2,500円+税
尺:本編74分
販売:東映
発売:東映ビデオ
キャスト:田所豊、アンナ・バナナ、GWINKO、市村聡、ブラザー・コーン(特別出演)
スタッフ:脚本=小松壮一郎、青柳初郎/監督=小松壮一郎
製作年:1993年作品
■m.c.A・T関連情報
・現在、DA PUMPのアルバムをレコーディング中。来年初頭にリリース予定。
・2015.2.21(土)舞浜アンフィシアターにて『21th ANNIVERSARY 2015 m.c.A・T祭 俺フェス!』開催。詳しくは公式HPで。(12月中旬発表)
・毎週月曜23:00~CX系列にて『マネースクープ』レギュラー出演中。