吉井和哉は昭和の名曲をどう解釈したか? 世代・男女・ジャンルの境界を越えた選曲を分析

 また、「おまえがパラダイス」にしても、80年当時、すでにオールディーズと呼ばれていたタイプの50年代風の曲だった。80年前後のロックのニュー・ウェイヴのなかには、古典的ロックンロールのリヴァイヴァルもあったし、沢田の曲もその一例だった。吉井のカヴァー集は副題が「此レガ原点」になっているから、過去の特定の時点にルーツがあるように考える人がいるかもしれないが、必ずしもそうではない。むしろ、世代をまたいで聴かれた楽曲や曲調を「原点」として再発見したのが、今回のカヴァー集である。

 収録曲のオリジナルを知る世代、吉井の同世代、吉井の音楽を聴いてきた世代が本作に興味を持つのは当たり前だが、フェスで吉井和哉を知ったとか、最近のロックからさかのぼってTHE YELLOW MONKEYを聴くなどした若い世代にも、時代の垣根を越えて伝えたい。そういう内容になっている。

 選曲の特徴の一つは、荒井由実(松任谷由実)、弘田三枝子など女性シンガーの曲や、「噂の女」など女性視点で男性が歌った曲の割合が大きいこと。特に興味深いのは、「夢の途中」だ。姉の来生えつこが作詞し、弟の来生たかおが作曲して歌ったものだが、ほんの少し詞が違う異名同曲「セーラー服と機関銃」を薬師丸ひろ子がヒットさせたことでも知られる。これら2ヴァージョンはどちらも81年11月に発売され、はじめから男女に共有される歌だった。

 吉井和哉は、音楽性がハード・ロック寄りだったTHE YELLOW MONKEYでデビューしたが、このジャンルにありがちなマッチョ的なタイプではなく、初期には両性具有的なヴィジュアル・イメージを打ち出してもいた。そんな時期から現在に至る吉井のフェミニンな部分を持ったキャラクターが、『ヨシー・ファンクJr.』にも反映されている。

 選曲の特徴のもう一つは、ジャンル同士の接点になった曲やアーティストへの関心である。「真っ赤な太陽」は、60年代後半に流行したグループ・サウンズで人気のあったジャッキー吉川とブルーコメッツを、美空ひばりがしたがえて歌った曲だ。演歌の女王が突然、ミニスカートでGS寄りの曲を歌い出したのだから、インパクトは強かった。一方、「襟裳岬」は、演歌スターの森進一が、人気フォーク歌手の吉田拓郎が作った曲を歌って話題になったのである。どちらも、ジャンルの越境や融合がポイントになっていた。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アーティスト分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる