栗本斉の「温故知新 聴き倒しの旅」
山下達郎や大瀧詠一もリスペクト アカペラ界の大御所ザ・キング・トーンズの色褪せぬ魅力とは?
1981年に発表された『Doo-Wop! STATION』は、なんと大瀧詠一がプロデュースを担当しています。もともと大瀧は、自身のソロアルバム『ナイアガラ・ムーン』(1976年)などで彼らを起用するほどの入れ込みようでしたが、ついに全面的に彼らをプロデュースする役割をつかんだわけです。このアルバムのユニークなところは、架空のラジオ番組仕立てになっているところ。曲間にはディスクジョッキーによる英語のナレーションが入り、インタビューなども挿入される他、ジングルもすべてオリジナルという凝りようです。
そして楽曲もバラエティ豊かで粒ぞろい。「涙のチャペル」や「アンチェインド・メロディー」といったオールディーズのカバー曲を中心に、自身のヒット曲「グッド・ナイト・ベイビー」の英語バージョン、そして日本語詞のオリジナル・ナンバー「DOO-WOP! TONIGHT」や「エンドレス・サマー」なども披露されます。なかでも特筆したいのは、「ラストダンスはヘイ・ジュード」。タイトルから想像される通り、ザ・ドリフターズの「ラストダンスは私に」とビートルズの「ヘイ・ジュード」をマッシュアップしたおそるべき一曲なのですが、何なんの違和感もなくスムーズにつながっているのは、真面目におふざけするのが得意な大瀧の面目躍如といったところでしょうか。
『Doo-Wop! STATION』は、音楽的にはオールディーズなスタイルですし、ラジオという衰退しつつある世界観をコンセプトにしていることもあって、いわゆるノスタルジックな聴き方をされるアルバムであることは確かです。でも、今時のアカペラやボイス・パーカッションにいそしんでいる若者たちも、職人芸のコーラスワークを聴けば学ぶことも多いはず。ぜひともザ・キング・トーンズの音楽に触れて、先輩方への敬意を忘れず、そこからまた新たなスタイルを生み出してほしいなと願っております。
■栗本 斉
旅&音楽ライターとして活躍するかたわら、選曲家やDJ、ビルボードライブのブッキング・プランナーとしても活躍。著書に『アルゼンチン音楽手帖』(DU BOOKS)、共著に『Light Mellow 和モノ Special -more 160 item-』(ラトルズ)がある。