「宗像明将の現場批評〜Particular Sight Seeing」第3回 大森靖子『☆2日間で超楽しい地獄をつくる方法☆』
大森靖子、「個」によるメインシーンへの挑戦ーー東京キネマ倶楽部で圧巻のステージ
弾き語りに関しては、関係者に配布されたセットリストにも一切曲名の記載がなかった。大森靖子がその場で決めているのだろう。彼女は会場の波長を正確に読み取り、完全に会場の空気を自分のものとしてコントロールしていた。
最初に弾き語りで何を歌うのだろう? そう思っていると「ここは君の本現場です」と歌い出した。いきなり未CD化の「ノスタルジックJ-POP」だ。そして弾き語りが続き、「PINK」での絶叫の後、アコースティック・ギターの弦の響きも鳴り止まないうちに、大森靖子はiPhoneを手にした。自撮りだろうか? いや、それは突然の文章の朗読であった。ここまでの過程を大森靖子ならではの言葉で語った後に、メジャー・デビュー・アルバム『洗脳(※正式なタイトルは未定)』の2014年12月3日発売が告げられた。
弾き語りパートで特に印象的だったのは、『絶対少女』収録曲である「ミッドナイト清純異性交遊」だった。通常はオケで歌われることが多いし、今日の絶対少女バンドで歌うにもふさわしいはずの楽曲だ。しかし、それをあえて大森靖子は弾き語りで歌い、彼女の中でも特にキャッチーとされる「ミッドナイト清純異性交遊」からメランコリックな面を引き出して見せた。かと思うと、曲中でまた突然の告知だ。2015年4月26日に中野サンプラザでワンマンライヴをするという。「ネタバレしないようにすげーがんばってました」とのこと。そんな流れも含めて、今夜の「ミッドナイト清純異性交遊」は大森靖子の真骨頂を感じさせるものだった。
バンドが再登場したパートでは、本編最後の「音楽を捨てよ、そして音楽へ」に圧倒された。大森靖子が囁くように「音楽は魔法ではない」と繰り返しながら始まり、演奏はジャジーなアレンジに。そしてファンにも「音楽は魔法ではない」と合唱させながら、大森靖子はフロアの柵の上に立ち、ファンの頭を撫でながら、そのまま柵の上で絶唱する。そして柵から崩れ落ちてファンにリフトされ、今度は柵の上に座りながら、バンドのメンバー紹介をした。ほとんど聴き取れないような絶叫で。そして楽曲の終わりとともに、大森靖子はステージの床に倒れた。
アンコールは、一段高いステージでの大森靖子によるキーボードの弾き語りとともに始まった。最初に歌われた「The End of Summer」は、カーネーションのトリビュート・アルバム『なんできみはぼくよりぼくのことくわしいの?』で大森靖子がカヴァーしていた楽曲だ。バンドもまた登場し、3曲を演奏。ときにノイジーな音も鳴らされる激しい演奏とファンの合唱による「あたし天使の勘忍袋」で幕を閉じた。
2回目のアンコールは、大森靖子がぬいぐるみのナナちゃん(ヤリマンバンギャという設定)とともに登場。インディーズ時代から撮影を担当してきたスタッフの二宮ユーキにマイクを渡して、突然会場にいる交際中の女性にプロポーズをさせる展開となった(終演後に確認したところ無事OKをもらえたとのこと!)。さらに「お茶碗」では、歌詞を忘れたからと二宮ユーキにも歌わせて、結果的にふたりでデュエットすることに。大森靖子は「内輪ノリと言われる」と笑っていたが、晴れの大舞台でこういう気負いのない一面を見せてしまう姿もまた大森靖子が大森靖子たる所以なのだ。最後の最後となった「さようなら」は、モニタースピーカーに座りながらアカペラで歌った。しかも、ファンのひとりひとりと目を合わせながら歌うのだ。そこには、会場が大きくなろうと聴き手と一対一の関係であろうとする大森靖子の姿勢が如実に表れていた。
これからも大森靖子という「個」によるメインシーンへの挑戦は続くはずだ。いや、むしろこれからが正念場だろう。
10月3日の公演2日目は、バンドが変わり大森靖子&THEピンクトカレフが登場する。もし当日券がアナウンスされ、まだあなたが大森靖子を見ようかどうか迷っているのなら、必ず見たほうがいい。大森靖子は、あなたの予想を裏切るステージを平然と見せてくれるはずなのだから。
■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter
■リリース情報
2014年12月3日(水)発売
NEW ALBUM 「洗脳(※タイトル正式表記未定)」
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