BiSが地下アイドルに与えた衝撃(前編) 姫乃たまがオーディション体験を振り返る

 このオーディションには募集要項を完全に無視して、男性や犬からも応募があったそうですが、私が集団面接した回は全員同世代の女の子でした。

 本名のため背負うものがなく、逆にリラックスしていた私は、BiSの楽曲を歌ったり踊ったりしている受験者の中で、「大熊かばん店」という福岡ローカルCMソングをアカペラで歌ったり、ブリッジをしながら谷山浩子の「素晴らしき紅マグロの世界」を歌ったりしました。逆さまになった私の視界の中で渡辺淳之介さんの顔が、あらんかぎりの微妙な表情になっていきます。

 しかし、その後、彼の表情をさらに微妙にさせる子が現れました。なんと歌唱テストで「歌いたくない」と言う子が出てきたのです。受験者も私も、全員が驚きました。

 その子はみんなが見守る中で「私、BiSには加入したいですけど、歌いたくないし、踊りたくもないです」と、小さな声で、しかしはっきりと言ったのです。

 これでは審査にならないので、渡辺さんが巧みな話術でなんとか説得すると、その子は古典の授業で暗記したという物語を小さな声で語り始めました。

 きっとこの子は、他のアイドルオーデションなら参加していないはずです。ただ、歌でも踊りでもない、自分が持っている他の何かで勝負できる可能性の広さをBiSに感じていたのだと思います。私は彼女のお経のような語りを聞きながら、BiSの凄さを感じ始めていました。

 その後、なぜか二次審査を通過した私は、三次面接に進み冒頭の面接を受けて、不合格となりました。そしてこのオーディションから合格者が出ることはありませんでした。

 一方でこの頃の私は、ずっと携わっていた『インディーズアイドル名鑑』という写真集の出版を記念して、インディーズアイドルのトークショーを頻繁に開催していました。司会者として、アイドルになったきっかけなどを聞くのですが、このあたりから一気に「BiSのヒラノノゾミちゃんに憧れて」という女の子が増えたのです。いよいよBiSはファンのみならず、地下アイドルから見ても無視できない存在になってきました。

 BiSに憧れてアイドルになった女の子はみんな楽器やイラストなど、はっきりとした特技を持っている子が多かった印象があります。ただ残念なことに、私の知ってる限りではみんな活動を辞めてしまいました。地下アイドルは始めやすいのと同時に、すぐ辞めていってしまうのも特徴なのです……。

 ちなみに後日、由芙ちゃんから「オーディション受けてたんですか? 知ってたら絶対推薦したのにー!」と屈託のない笑顔で言われて、本当に本当に恥ずかしかったです。

■姫乃たま
1993年2月12日下北沢生まれの地下アイドル。2009年より都内でのライブ活動を中心に地下アイドル活動を開始、2011年よりライターとしても活動している。他に司会やDJ、イベンターなど活動は多岐にわたる。
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