市川哲史が語るリスナー視点のポップ史「シーンを作るのはいつも、愛すべきリスナーの熱狂と暴走」

ーー亀田誠治さんやマキタスポーツさんらが「J-POP」をテーマにした著作を出版していますし、今って「J-POPを語ろう」みたいな雰囲気もあると思うんですよ。

市川:ですね。ただ社会学的な分析って昔からあるじゃないですか、V系とジェンダーを関連づけたりとか。ああいう無理矢理学問化するパターンって、人の無限の妄想力やその産物が権威づけられることで逆に矮小化されるだけなんじゃないかと。どう聴こうがどう解釈しようがリスナーの自由なんですから、本書では作品の内容は論じてない。あくまでもそのムーヴメントやスタイルを面白がって解釈してるだけです。V系や多人数アイドルブーム以外に、過去のビーイング&小室哲哉によるCDバブルやバンドブームにまで触れてますけど、そういう意味では<大学の教科書>という表テーマを設定したことで、単なる想い出本にはならずにすんだかな、と。

ーーリスナーが作り出したコミュニティの話も愛おしいですよね。

市川:いつの時代も日本の音楽シーンを形成してきたのは愛すべきリスナーの熱狂と暴走なだけに、音楽が消耗品に過ぎない現状には「ヤバい!」と焦りますよね。だからジャニーズのファンの子たちを見てると微笑ましいんです。『PATiPATi』やら音専誌を読み、ライヴに足繁く通い、仲間同士でやたら盛り上がってたようなあのバンド少女たちはどこに行ってしまったんだろうかと。いまどきのV系バンドのファンの子たちなんか、徹底的に上から目線だもんね(失笑)。そういう意味では、最後の砦はジャニオタたちかもしれないという。年間100本近くジャニーズのコンサートに行ってる学生がいるんですけど、その子に訊けばジャニーズの誰が今いちばん人気があるのかすぐわかる。昔はダフ屋に聞いてましたけどね、人気のあるバンドを。あれと一緒(笑)。

なぜV系はロックフェスに出る機会が少ないのか

ーー色々論じられる中でやはりヴィジュアル系は外せませんよね。ギャル文化と重ねているのも面白かったです。

市川:読者モデルとV系は似ているんですよ、両者共日本固有のヤンキー文化の産物ということ以外でも。ほとんどの読モが本職のモデルやタレントになれないように、V系の枠を超えて市民権を得るようなバンドにはなれないという。というかこれだけロックフェス文化が定着してるのに、なんでV系バンドってフェスに呼ばれないんだろうねぇ? 10年前と較べたら女子アイドルまで出演するほどハードル低くなったのに。今年のサマソニにはTOKIOも出るんでしょ?(愉笑)。

ーー今年は「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」にゴールデンボンバーやPlasticTreeが出ますし、SUMMER SONICにはthe Gazetteが過去二度出演してますね。でもまあ割合は低いですね。

市川:まあその被差別感が、逆にアナクロで気持ちよかったりするんだけども。くくくく。かつてのキリト事件(=マリリンマンソンのフェスに出たPIERROTのキリトがMCで「あなた達の大嫌いなヴィジュアル系バンドです!」と洋楽ファンを挑発した事件)が逆にロック的で痛快だったように、そもそも「一般の人」に聴いてもらうことが良いことなのかって話なんですけどね。大学の講義でももちろんV系は取り扱ってますけど、「V系? 嫌です!」みたいな未体験学生が当然多いわけ。でも実際にライヴ映像を見せると、皆やたら面白がるわけです。決して熱心なファンになることはないけれども、愉しめる感性はあるわけじゃない? V系に限らず様々な流行音楽を独自の視点で面白がれるような、そんなセンスを持ってもらいたいと思って教えてるし、本書を書きました。はい。リスナー冥利のプレゼンというか。(後編【「hideは新しい音楽を見つけるのが本当に早かった」市川哲史が振り返るhideの功績】に続く)

(取材・文=藤谷千明)

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