コレクターズ、怒髪天、真心……「恋チュン」動画で錚々たるミュージシャンが踊ったワケ
今や、世代を越えて愛される楽曲となったAKB48「恋するフォーチュンクッキー」。スタッフで踊った「STAFF Ver.」を皮切りに、企業や地方自治体など様々な人たちが全国各地で色々な趣向を凝らしたシチュエーションで踊る動画が溢れ返っている。
同曲は、3月21日より開催された「第86回選抜高校野球大会(春の甲子園)」の行進曲にも決定。それに合わせて、有志のロックミュージシャンが高校球児を応援するために踊った「Rock Musician Ver.」が公開され、話題を呼んでいる。
真心ブラザーズ、MO'SOME TONEBENDER、カジヒデキ、白井良明(ムーンライダーズ)……錚々たる国内ミュージシャンの面々が参加した本MV。発起人となったのは、ザ・コレクターズの加藤ひさしと怒髪天の増子直純だ。
恐らく彼らは、ブームだからといって軽い気持ちやったわけではないだろう。冒頭のトレードマーク、いや、正装とも言うべきユニオンジャック柄に身を包んだ加藤ひさしのステップからも、その本気度が伝わるはずだ。
加藤は自身の番組、“極悪ポッドキャスト”の愛称で人気の『池袋交差点24時』内で、「恋チュンは良い曲」と幾度となく口にしている。熱く語るわけでもなく、しみじみと「良い曲」と発言する口調には、妙に説得力があった。相方であるギターの古市コータローは地元CDショップで盤を購入。ロックバンドにとっては馴染みの薄い複数形態盤に戸惑いながらも「指原さんがセンターの曲だから、それにならって指原さんのジャケットのヤツ」を手にしたらしい。
今回の動画で中心となっているコレクターズは、1987年のメジャーデビュー以来、“モッズ”という硬派なブリティッシュロックスタイルを四半世紀以上に渡り、貫き通しているバンドだ。
参加者の片寄明人(GREAT3)は、加藤がコレクターズ以前に組んでいたTHE BIKE時代から彼の大ファン。會田茂一は古市のローディーを務め、「ライブ中にコータローくんが倒れたら、いつでもリッケンバッカーを弾ける状態でいました」という旧知の間柄だ。加藤曰く「オレにとっては2人共(片寄・會田)、親戚の子供みたいなもんですよ」とのこと。
山中さわお(the pillows)はコレクターズについて「自分の人生を変えた」と称え、自らの選曲でコレクターズのベストアルバム『OH! MY MOD!』を作るほどのファン。ROLLYは大のコレクターズマニアとして知られ、ウエノコウジ(the HIATUS)はバンドTシャツを着てライブに参戦している。……数多くのバンドマンに愛される逸話はキリがなく、まさにミュージシャンズ・ミュージシャンといえよう。
そう、この動画は日本のロックミュージシャンの共演の縮図であると同時に、コレクターズの人望の厚さも垣間見ることの出来る映像作品でもあるのだ。
動画には他にも、ファンや“P”(極悪ポッドキャストリスナーを指す)には非常に馴染みの深い人たちも登場している。
サイドプロジェクトでもある“コータロー&ザ・ビザールメン”の中に、古市がデザインした日本製ビザールギターメーカー・テスコのゆるキャラ“テッシー”が混ざっていたり、加藤との親交も深い台湾のバンドWon Fu(ワンフー)や、日本エアギター協会幹事であり、ビザールメンのライブでは手品を担当する宮城マリオ、ポッドキャスト内でも度々ネタになり、いつの間にか自分の経営するライブ会場でもないのに前説として借り出される渋谷クラブクアトロ高橋店長などなど、ファンだからこそわかる小ネタも随所に挟み込まれており、思わずニヤついてしまう。
バンドブームを駆け抜け、今なお日本の音楽シーンを牽引していくオヤジ世代が、普段の硬派な一面とは裏腹に、アイドルソングを楽しそうに軽快に、時にたどたどしく踊る。それはJロックオヤジたちによるひとときの戯れか。
うん、日本のロックシーンはまだまだ大丈夫だ。
(文=冬将軍)