金子ノブアキ『Historia』インタビュー(前編)
「やっちゃいけないことは無いと感じた」金子ノブアキがソロ制作にのめり込んだ理由
金子ノブアキが、ソロ名義としては約4年半ぶりとなるアルバム『Historia』を完成させた。自らトラックを作り、楽器を鳴らし歌い上げ、ときには自らドラムも叩いている、非常にフリースタイルのアルバムだ。
筆者が5年ほど前に取材したとき、彼は「自分はミュージシャンである」ということに、強くこだわっていた。しかし、久しぶりに会った彼は、様々な領域を横断しながら活動する自分を、むしろ楽しんでいるように思えた。
スタジオやライヴハウスはもちろん、ドラマや映画といった様々な“現場”を通して、彼の中でじっくりと湧き上がって来た音楽。あるいは、その彼が多くの人たちと分かち合いたいと強く願っている音楽。そんな音楽が詰め込まれた本作『Historia』について、金子ノブアキ自身に大いに語ってもらった。
2009年以来、むさぼるように音楽を作り続けてきた
――RIZEのドラマーとしての活動はもちろん、ここ数年は役者としての活動も積極的に行っていますが、そういう中で今回のソロ・アルバムというのは、どんな位置づけになるのでしょう?
金子:もちろん、バンドでやれないことをやるっていうのが基本的にはあるんですけど、バンドのカルチャーは、俺はそこでも育って来ているし、でもやっぱりそれだけじゃない部分もあるんですよね。それを出すタイミングと方法論が見つからなくて、自分のスタジオを持つようになってから、それがパッとできるようになって。それが、2009年に出したソロ・アルバム『オルカ』の頃だったんですよね。で、それからはもう、むさぼるように音楽を作り続けていて。
――本作『Historia』は、金子さんのプライベートスタジオで、かなり時間を掛けて制作したようですね。
金子:基本的に音楽は、ずっと作り続けているんですよ(笑)。映画の撮影が終わった後とかに、楽器の練習をよくしていたりもするので。地方とかのロケだったら、町の貸しスタジオとかに普通に入っちゃったり(笑)。やっぱり、自分をニュートラルに戻す方法っていうのが、俺の場合は音楽なんですよね。だから、そうやってコンスタントに自分の音楽をやれる環境っていうのを、この3年ぐらいかけて作って来て……。
――この3年って、役者としての活動が忙しくなって来たのと重なっているんじゃないですか?
金子:うん、面白いもんで、その両方がピッタリ同時に始まったんですよね(笑)。
――役者の仕事が増えるにつれて、自分の音楽を作ることの意味も変わって来た?
金子:うーん、どうかな? やっぱり、音楽を作るなら発信するべきものにしたいし、出来た音楽に対しては親心がありますからね。ちゃんと誰かに聴かれることによって、報われて欲しいっていう。だから、それをパッケージして行く際に、どんなスタッフと一緒にやるかっていうのも、すごく大事なんですよね。
――今回、共同制作者としてクレジットされている、Hamuroさんと草間敬さんですね。
金子:そう。だから、そういう意味では、バンドと近いかもしれないですよね。やっていることとしては。もちろん、サウンド的にはバンドと全然違うものになっているけど、バンドならではの歪んだ音と今回のソロでやっているような透明感のある音って、力学的にはほぼ一緒のことだったりするんです。たとえば、シューゲイザーが生まれた理由とか……マイ・ブラッディ・ヴァレンタインとかモグワイとかって、音の歪みの果てに透明感を見ているわけじゃないですか。
――轟音の中にある静けさみたいな?
金子:そうそう。グワーッて、その奥行きが見えるというか、ピントが合う瞬間みたいなのがあるんですよね。だから、そういう意味では同じなんだけど、バンドじゃないからこういう音になっているっていう。あと、バンドじゃ使えないけど、好きなコード感とかってあるじゃないですか。俺は、フォークとかもすごい好きなんですよ。じゃ、それを鍵盤だけでやってみようとか、そうやって作って行ったものが、今回のアルバムなんですよね。
――なるほど。
金子:あと、我々みたいなバンドマンっていうのは、どこかアスリート然としたところがあって、すごく動物的だし、肉体的に音楽を捉えているんですよね。で、そういう音楽も大事なんだけど、今みたいにテクノロジーが発達していると、そっちの楽しみもあるわけじゃないですか? テクノロジーを使えば、表現の幅がほとんど無限大になるわけで。今はソフトやプラグインもすごい充実していて……不景気だ不景気だって言うけど、作り手にとっては、こんなに景気のいいことはないんですよね。だから、そういうものは積極的に取り入れたりしましたね。