ザ・スミスの後継者はなぜ生まれない? 伝説的UKバンドの「特異な音楽性」に迫る

――ああいう繊細なプレイは音の反響の多い大会場や、スタジアムの大雑把な音響では伝わりにくいかもしれませんね。

筒井:はい。スミスって音が結構詰まってる曲が多いですから。

ヤマジ:アルペジオ弾きまくってるもんね。

――おふたりが両方、好きな曲として挙げられているのが、「How Soon Is Now?」です。

The Smiths「How Soon Is Now?(1985)」

ヤマジ:イントロで持っていかれるよね。あれ、何回も何回も弾いてるんだよね。ツインリバーブのトレモロ使ってるから時間がどんどんずれてっちゃうから、ちょっとずつちょとずつ録って。

筒井:へえ…。

ヤマジ:…って、ギターマガジンに出てたけど(笑)。あと、ボ・ディドリーのリフをイメージしてるようなところもあるらしいね。

BO DIDDLEY「55 Bo Diddley」

――当時としてはすごく革新的な音でしたけど、これはまだ85年、セカンド・アルバム『Meat Is Murder』が出る前なんですよね。でもシングルをたくさん出していたぶん、成熟の速度が速かったのかもしれません。60年代のバンドみたいに。

筒井:そうですね。すごいスピードで進んでたバンドだと思いますね。この曲がジョニーの実験精神がよくでた曲ですね。

ヤマジ:アイディアがいいよね。

筒井:けっこうジョニーって新しいもの好きなんですよ。ファッションなんかも一番うるさかった人だから。最先端でありたいという意識は強く持ってたんじゃないかな。エレクトロニック(ニュー・オーダーのバーナード・サムナーとのユニット)をやったのもわかる。おしゃれというか…。

Electronic「Getting Away With It(1991)」『Getting Away With It』収録

――なんでもできちゃうから、いろんなことをやってみたい。けど、スミスの場合は、ヴォーカルが良くも悪くも強烈すぎるから、やれることはある程度限られてる。そのなかでも「How Soon Is Now?」みたいな実験もやっていた、という感じでしょうか。

筒井:うんうん、そうかもしれません。

――次にセカンド・アルバムの『Meat Is Murder』(1985)からは、「Barbarism Begins at Home」をおふたりとも選んでいます。

The Smiths「barbarism begins at home(1985)」『Meat Is Murder』収録

ヤマジ:ギターに目がいきがちだけど、特にベースがいいよね。

筒井:ファンキーですよね。ちょっと跳ねる感じのビート。そこにギターのアルペジオとカッティングが乗る、というパターンがスミスには多い気がします。

ヤマジ:ベースとドラムスがしっかりとしたリズムを刻んでるから、ギターがいろんなことをできるんだね。

筒井:ジョニーのカッティングっておしゃれですよね。アルペジオが鳴ってても、いいタイミングでカッティングがチャッチャッ…って入ってるんですよね。それにちょっと跳ね気味な、硬いベースの音が加わるのが、スミスのサウンドの肝なんじゃないか。それを象徴してるのが、この曲ではないかと。

――ほかにアルペジオを多用するロックってどんな例があるんですか。

ヤマジ:テレヴィジョンの『マーキー・ムーン』に入ってる曲とかは。バッキングでアルペジオを弾いて、そのうえにトム・ヴァーレインがいろいろ入れるって感じ。でもジョニー・マーはそれをひとりでやるのがすごいよね(笑)。

Television「Marquee Moon(1977)」『マーキー・ムーン』収録

筒井:バート・ヤンシュ(ブリティッシュ・フォークの代表的グループ、ペンタングルの辣腕ギタリスト)の60周年記念のライヴでジョニーが一緒にやってるんですけど、あの複雑なわけのわからない曲で、アルペジオでやってて。ああこの人ってなんでもやれるんだなあと。

Bert Jansch with Johnny Marr「It Don't Bother Me」

ヤマジ:確かにペンタングルに近いノリがあるかもね。

筒井:ジョニーはザ・バーズの『Fifth Demention』を一番影響を受けたアルバムとして挙げてるんですが、ファンのためにわかりやすい例として挙げてるのであって、実際はペンタングルの影響も大きいんでしょうね。ああいう超複雑なフォークも顔色一つ変えずにできちゃうわけで。

――そういえばジョニーはバーズのロジャー・マッギンみたく12弦ギターもよく使ってますね。

Byrds「Eight miles high 1966」

筒井:そういうタイプのギタリストは同時代ではあまりいないですよね。ギター・ソロをあまり弾かないというのも特徴ですね。あっても、そんなに音数がない。

ヤマジ:きっと、「ギター・バンド」って感覚がないんだろうね。

筒井:そうですね。あくまでも歌を聴かせるバンドであり、ギターはその伴奏であると。

――それも3分間のポップスの範囲内で聞かせる、という意識が強い。

筒井 はい。実験的な曲はいっぱいあるし、アレンジも年々研ぎ澄まされていきましたけど、基本的なところは全然変わってない。スミスでやる役割みたいなものは、たぶん自分であらかじめ決めてたんじゃないかな。

ヤマジ:でもあれだけ弾いてたら、ソロ弾かなくてもプレイヤーとして満足してるよね(笑)。バッキングといってもソロ弾いてるようなもんだからさ(笑)。

――次に3作目『The Queen is Dead』(1986)ですが、スミスの最高傑作と言われています。タイトル曲は強烈ですね。

The Smiths「The Queen Is Dead(1986)」『The Queen is Dead』収録

ヤマジ:最初はドラムの音が軽すぎて好きじゃなかった。いま聴くとかっこいいけどね。ベースラインがいいね。

――歌詞が辛辣ですね。そこらへんもスミスらしい。

筒井:主張がはっきりしている歌詞が多いですね。「The Queen is Dead」「Meat is Murder」…政治的な曲も多いですよね。

――文学性の高い歌詞ではありますが、持って回ったような表現をあまりしないですよね。意外と直接的な言葉や表現も多い。怒りの理由や対象が明確だから、共有できる人とそうでない人ははっきりわかれますね。

筒井:そうですね。このアルバムあたりから、モリッシーは頑なに自分の世界を守ろうとして、ジョニーはもうちょっと売れたいという欲が出てきて。もっと売れたい、もっと大きくしたいって欲が。

――モリッシーの書く政治的だったり攻撃的だったりという歌詞は、売れるためには好ましくないと思ってたということですか。

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