サザン桑田佳祐の名曲はなぜ切ない? ミュージシャンが"歌う和音"と"シンコペーション"を分析
今年でデビュー35周年を迎え、夏には35万人を動員する大規模なスタジアムツアー『灼熱のマンピー!! G☆スポット解禁!!』を成功させるなど、“国民的バンド”としてますます精力的に活動するサザンオールスターズ。年末には、リーダーの桑田佳祐が『昭和八十八年度! 第二回ひとり紅白歌合戦』の開催を決定するなど、その勢いはとどまらない。
「いとしのエリー」「涙のキッス」「愛の言霊 ~Spiritual Message」「TSUNAMI」など、歌い継がれる名曲を数多く残し、いまや日本のポップスのスタンダードとなったサザンだが、桑田佳祐が生み出す楽曲はなぜ、これほどまでに多くの人の心を掴むのだろうか。
5年ぶりに活動を再開し、再び注目を集めているサザンの名曲、とりわけ「桑田節」の音楽的な特徴を、トレモロイドのキーボード・小林郁太氏に語ってもらった。
流れるようなコード展開
小林氏によると、桑田節の音楽的な特色はなんと言っても「流れの良さ」にあるという。桑田の楽曲にはブルースや60年代のロックのフォーマットを使った泥臭いものもあるが、いわゆるポップソングでは、スタンダードなコードを流麗に組み上げて、桑田流の“切なさ”を醸し出しているのだ。
今なおサザンの代表曲で、小林氏が「J-POP史に残る美しいコード展開」だと言う「いとしのエリー」の歌のAメロは下のようなコード展開だ。
| D | F#m | D7 | G | Em7 A7 | D E9 | G A7 | D |
*キーは「D(レ)」
最初の3つのコードは「D F#m D7」とあるが、小林氏によるとこれは要するに「ファ#とラは固定のまま4つ目のGの構成音である『シ』に向かって『レ ド# ド』と半音ずつ下がっていく」ことを意図しているという。「泣かしたこともある」「冷たくしてもなお」「寄り添う気持ちがあれば」と歌詞のストーリーと呼応するように半音ずつ下がっていくラインが「いかにもどこかに向かう途中の不安定で感傷的な響き」を奏で、4つ目のG「いいのさ」の調和的な開放感につながる。
しかし小林氏は「そのGもいくらか調和感があるものの決して安定的なコードではなく、先の展開への緊張感をはらんでいる」という。そして、次小節ではG(ソ シ レ)に「ミ」を足しただけのよく似たEm7(ミ ソ シ レ)が続くことで、前半の4つのコードが作ったストーリー性を引き継いでゆき、Em7からは、コードの変化が早くなり、より安定的なコードになっていくことで「ミニマムな世界に収縮していくような感覚」を与え、最もベーシックな1度のメジャーコード「D」に落ち着いた直後、E9という2度のメジャー系コード(通常2度はマイナー「Em」歌詞では「Lady」のところ)で「ふわりと宙に投げ出されるような響き」を作る。そして最後は、ポップスの王道展開である4度、5度、1度の流れで締めている。