東大准教授の美学者が語る、ももクロの魅力(第3回)
ももクロとは笑いであり、戦いである――美学者が指摘するその多面的構造
――最後に、楽曲についてもお聞きしたい。安西さんのベストソングは何ですか?
難しいですが、「DNA狂詩曲」ですかね。「ねぇ キミといるだけで なんか遺伝子が笑う」などの歌詞に身体性を感じる、ということが理由のひとつ。また、「泣くのは自分次第 笑うのも自分次第 さぁどうすンのか決めな」と決断を迫るフレーズがあり、セカイ系の雰囲気があるのもいいですね。音楽的なことを言えば、五度圏進行のサビがバロック音楽のようで美しい。クラシック的な色があるところも気に入っています。
――安西さんは、ジャズフルート奏者としてライブ活動をされていますよね。ジャズで好きなものは? また、ももクロとの共通点はありますか。
ジョン・コルトレーンが好きですね。敢えてももクロとの共通点を挙げるとすれば、ある種の宗教性を帯びていることでしょうか。
彼の音楽には、常に「大きなもの」が常にあるんです。自分が神だとは思わず、何か大きなものに捧げているようなスタンスなんです。バッハ的とも言えるかもしれませんね。探求を続けていて、それは終わりのない戦いなのですが、しかし「そんな俺を見てくれ!」と前に出てくることはない。自分のことを無視して、大きなもののことを考え、「とにかくいいものを作ろう」という頑張っているようなひたむきさがある。
ももクロも謙虚に、いい音楽を作ろう、いいステージを作ろうとしていますよね。コルトレーンは悲愴で鬱屈したところがあり、逆にももクロは健全そのものですが、そういう「無私」なひたむきさは似ているかもしれない。......こじつけかもしれませんが(笑)、己を無にして尽くしているところがももクロの魅力であるとは言えると思います。
本でも強調しましたが、ももクロの魅力は一言では語りきれません。そして、そこが魅力なんです。決め付けることができませんし、決め付けないことが、ももクロを論じる上で重要。多面的な要素を多面的なまま見る必要がある。ファンの人たちは、どうしても自分の好きなところだけを見ようとしますが、僕は学者として、そうはならないように『ももクロの美学』を書き上げました。そのために文章からファンとしてのパトスが失われてしまってもしかたがない、と。また「内容が難しい」というご指摘もありましたが、ももクロが学問的に議論にも耐えうることを示す1冊になったと自分では思っています。
安西信一
あんざいしんいち○1960年生まれ。千葉県出身。東京大学文学部美学芸術学専修課程卒業。1991年、東京大学大学院人文科学研究科(美学芸術学専攻)博士課程修了。博士(文学)。広島大学総合科学部助教授を経て、現在は東京大学文学部・大学院人文社会研究科准教授(美学芸術学専攻)。著書に『イギリス風景式庭園の美学――〈開かれた庭〉のパラドックス』(東京大学出版会)、『ももクロの美学――〈わけのわからなさ〉の秘密』(廣済堂出版)、共著に『日常性の環境美学』(勁草書房)などがある。ジャズフルート奏者としてライブ活動も行う。