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松本人志「キム兄は怒り続けるしかない」 『ワレワレハワラワレタイ』が切り取る、芸人の生き様

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「生まれ変わったら、(芸人とは)違うことをやると思うな。大変なのと、振り返ってみて、怖いのとね。もうすぐ60になるねんけれども、芸能生活を振り返ったときに、うわぁ、よう(やってきたな)って。振り返って、怖い商売はやっちゃいけない」

 明石家さんまが、木村祐一監督によるドキュメンタリー映画『ワレワレハワラワレタイ ウケたら、うれしい。それだけや。』のインタビューに応じた際の言葉である。さんまがインタビューに応じることは非常に稀で、普段から懇意にしている木村がインタビューをするなら、との条件で実現したようだ。この貴重なインタビューでは、かつてさんまが肩に「笑」という文字のタトゥーを入れようとした際に木村が止めたこと、若手時代の苦労、女優・大竹しのぶとの離婚をネタにする理由、島田紳助との関係性、師匠・笑福亭松之助について、その他、さんまにまつわる噂話についての真相など、その波乱万丈な芸人人生が明け透けに語られている。前述の言葉は、木村がこの『ワレワレハワラワレタイ』のインタビューの際に、必ず最後にしている質問、「生まれ変わっても芸人になりますか?」との問いに対するものだ。

 明石家さんまほど成功した人間でさえ、生まれ変わったら別の人生を歩みたいと考える“芸人”という生き方ーーもちろん、木村の最後の質問に対する回答は様々で、生まれ変わっても芸人になると答える者も少なくない。ここに、芸人という職業の“業”の深さが見え隠れする。移りゆく時代の流れの中で、人々が常に求めるものにも関わらず、評価は極めてシビアな“笑い”を追求すること、そのいばら道に正解はない。そんな“笑い”の持つ抗いがたい魅力に憑かれた者たちが目にしてきた、悲喜交々の物語。木村はそれを柔和な笑顔と語り、そしてその奥に光る鋭い観察眼によって紐解いていく。

木村祐一監督/メイン写真とともに、初日舞台あいさつより

 2012年、創業100周年を迎えた吉本興業が、次の100年へと思いを受け継ぐべく始まった『ワレワレハワラワレタイ』。木村祐一が吉本興業所属の芸人106組180人にインタビューするこの企画は、製作期間5年、250時間を超える大作となった。笑福亭仁鶴、西川きよし、桂文枝、明石家さんま、ダウンタウン、板尾創路、東野幸治、今田耕司、雨上がり決死隊、千原兄弟、ナインティナイン……吉本興業の黎明期を支えてきた伝説的な落語家から、今なお絶大な影響力を持つ大御所芸人、そして気鋭の若手芸人まで、貴重なインタビューの数々はそれ自体が吉本興業の、そして日本の芸能の歴史を鮮やかに照射していく。

 TOHOシネマズ新宿にて、10月21日から公開されている本作は、これまでも『沖縄国際映画祭』や『京都国際映画祭』など、吉本興業主催の映画祭などでたびたび上映されてきた。出演する106組のインタビュー映像から数組分を1本として上映しており、上映前には木村ら出演芸人によるトークショーも行われている。先週末の10月27日の回は、『間寛平 / あべこうじ&井上マー / 笑福亭松之助 / 明石家さんま 編』で、あべこうじ、徳井健太(平成ノブシコブシ)、そして木村が登壇していた。自ら106組にインタビューした木村は当日、あべこうじ&井上マーの回に触れて、「不思議なことに、コンビで話を聞くでしょう? 俺が話しかけるとひとりが喋って、もうひとりが黙るんです。普段は“コンビネーション”いうくらいやから、ふたりで喋るんですけれど、それがまったくなくなる。ところがピン芸人同士で話をすると、俺がいるにも関わらず、お互いに相槌を打ち合うんです」と、取材を通して発見したことを明かす。また、明石家さんまの師匠に当たる笑福亭松之助について、「雰囲気が板尾(創路)さんとカブるところがあるんですね。掴みどころがない感じ。冗談の塊というか、落語家の生き様そのもの」と、その印象を語る一幕もあった。インタビュー本編と合わせて、実際に木村や出演者の話を聞くことができるのも、今回の上映の大きなポイントといえよう。芸人の生き様に思いを馳せる上で、これ以上に説得力のあるイベントはほかにない。

10月27日の模様

 上映作品の中でもひときわ反響が大きかったのは、やはりダウンタウンの回だという。木村が吉本興業に入ったとき、ダウンタウンのふたりはすでに劇場の人気者で、木村は羨望の眼差しで見つめていたそうだ。ところが本人たちは、同期が次々とテレビに出演しているのにも関わらず、「お前ら汚いからテレビ出されへんってはっきり言われた」(浜田雅功)とのことで、フラストレーションを溜めていた。観客に突っかかるのも日常茶飯事で、「帰るきっかけを探していて、赤ちゃんがちょっと泣いたらキレて帰る」(松本人志)こともあった。彼らが若手だった時代は、芸人同士における数々のジンクスがあり、たとえば「コンビ仲が良いと売れない」と言われていたことから、わざと仲の悪いフリをするコンビも少なくなかったという。お笑いの世界が厳しいことはよく知られているが、当時は今よりも厳しく、想像以上に殺伐とした空気があったのかもしれない。

 そんな時代を知る芸人が少しずつ減っていく中、木村は当時の厳しさを骨の髄まで味わってきた人物のひとりで、だからこそダウンタウンは彼に期待しているという。「今は審査員が優しすぎる。審査員が審査されているみたいな。若い子になんか言って(ファンから)攻撃食らうのが嫌なんかな」と、昨今のお笑い界を危惧する松本は、木村に対して「キム兄は芸人の中で鬼軍曹的な人。(中略)キム兄は怒り続けるしかない」と声をかける。三人の関係性が垣間見える瞬間で、ここにも芸の世界の厳しさがにじみ出ていた。木村が『ワレワレハワラワレタイ』の監督を任されたのは、彼がこの世界の酸いも甘いも知り、その上で根底にある精神を後世に伝えていく役割があるからなのだろう。

      

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