BOMIの『SING/シング』評:歌は無条件に速いスピードで人の心に届く

BOMIの『SING/シング』評

 BOMIが新作映画を語る連載「えいがのじかん」。第3回となる今回は、『怪盗グルー』シリーズや『ミニオンズ』で知られる、イルミネーション・エンターテインメントが贈るアニメーション映画『SING/シング』をピックアップ。日本でも4週連続で映画動員ランキング第1位を獲得し大ヒットを記録している本作を、ミュージシャンのBOMIはどう観たのかーー。

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 『SING/シング』はもう、私、大好きな類のもので。そもそも、急に誰かが歌い出す映画が昔から好きなんです。『天使にラブ・ソングを2』のライブシーンのローリン・ヒルや、『エディット・ピアフ~愛の讃歌~』の幼少時代のシーン、ミュージカル『レント』のお葬式のシーンのように。誰かがふっと歌い出すシーンフェチと言ってもいいかもしれません。そんな私にとってオーディションの体を取っているこの映画は、まさに名シーンの嵐でした。後半30分なんて、もうずっと鼻水ズイズイすすりながら泣いていたような気がします。否、泣いていました。最近だと『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』を観たときの感想に近い。それはどういうことかと言うと、幼少期の原初的に見た風景や感じた気持ちを思い出すのに近い。例えば3歳の子供から80歳のおじいちゃんおばあちゃんまでみーんなが観て楽しめる作品だなと思ったんです。ザッツ・エンタメ! ですね。

 これって凄いことで。観る人が例えどんなにひねくれていようが、どこかしらにグッときてしまうポイントがあると思うんです、この作品には。まぁ、私は、タイトルの通り、やっぱり“歌”の力が大きいなって思いました。なんていうか…声の響きって、国境を越えるんですね。身体の鳴りのいい人は、見ているこっちはもうそれだけで圧倒されちゃう。ニューヨークでふらっと入った教会でゴスペルに触れただけで、なんだか胸が熱くなる。『アメリカン・アイドル』や『Xファクター』なんか観てても同じ。国歌斉唱も見るのが好きで、ついついググってしまう…。声って、無形の文化財みたいなもので、聞いてる側の身体にもビリビリ響く。言葉のいらないテキストなんですね。

 よく歌詞を書いている時に思うのですが、歌詞を書くという作業は、メロディの無限の可能性をとても限定してしまう作業だなと。歌詞を書いて、メロディーとサウンドの手触りはめちゃくちゃよかったのになっ…という時もあります。もちろん、歌詞なしのハミングでいわゆるポップスの曲を出すことは難しいし、無限のままでは表現になりようがないから、限定していくことがその曲の輪郭を作っていくことだと思うので仕方ない作業ではありますが、いつも無限の可能性に一番ワクワクするのは、歌詞をつける前のメロディーを口にした時だったりします。

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 個人的には、ゾウのミーナの声を担当していたトリー・ケリー、ゴリラのジョニーの声を担当していたタロン・エガートンがとても好きな声の響きでした。ヤマアラシのアッシュのスカーレット・ヨハンソンは、一味違う、味のある声をしていて流石だな、と思いました。というか、俳優さんが歌が上手いってなんかもう、素晴らしいですよね。表現力の塊。歌手に勝ち目なしです。ブタのお母さんロジータ役のリース・ウィザースプーンも、美声を披露していました。

 キャラクターの声を担当しているキャストの声がみんなめちゃくちゃ素晴らしいというのはもちろんですが、使われてる楽曲がオールジャンルカバーされていたところもよかった。スティーヴィー・ワンダーの「Don’t you worry bout a thing」なんて、前後の文脈が加わることによって「あ、そういう意味だったんだ…」と新しい歌詞の解釈を知ったようで、より歌詞が深く胸に刺さりました。

 さらに、この映画では登場人物が多くかつ並列されていて、みんなが主人公。普通なら、全員にスポットライトを当てるのはなかなか難しい。なのに、それをなんなくやってのけ、ちゃんと各々見せ場を作っているところもよかったです。それは映画のコンセプト自体が“オーディション”という体を取っているからできたことでもあります。

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