DEV LARGEの人生は日本のヒップホップ史と重なるーーNIPPS × 川口潤 × 寺西崇洋が語り合う

関係者が語る、DEV LARGEのアーティスト像

 2015年5月に急逝したヒップホップアーティスト・DEV LARGEの半生を追ったドキュメンタリー『The Documentary DEV LARGE/D.L』のスペシャル・エディションが、3月6日(月)にShibuya WWWで開催されるイベント『TOKYO MUSIC ODYSSEY 2017 MOVIE CURATION 〜特上音響上映会~』にて上映される。同作は、スペースシャワーTVでオンエアされたドキュメンタリー番組2編をダイジェスト編集したもので、上映後にはDEV LARGEと所縁のあるCQ(BUDDHA BRAND)、GOCCI(LUNCH TIME SPEAX)、GO(FLICK)、ダースレイダーによるトークショーも行われる。(チケットはこちらから→https://tokyomusicodyssey.jp/movie/

 リアルサウンド映画部では、上映に先駆けて監督を務めた川口潤氏(前編の編集監督はBLACK FILEの沼田佳人氏)と、DEV LARGEのA&Rを務めていた寺西崇洋氏、そしてBUDDHA BRANDのメンバーとして誰よりもDEV LARGEと近しかったNIPPSによる座談会を開催。ドキュメンタリー本編では描かれなかった彼の人物像について、貴重なエピソードとともに振り返ってもらった。(メイン写真は左から、寺西崇洋氏、NIPPS、川口潤氏)

寺西「コンちゃんは本当に、誰よりもレコードを聞いていた」

川口:もともと僕は、日本のヒップホップのヒストリーを追ったドキュメンタリーを作りたいと以前から考えていて、スペースシャワーTVに相談してたんです。DEV LARGEさんが亡くなって、スペースシャワーTVからドキュメンタリー制作の話が来た時、彼のアーティスト人生はそのまま日本のヒップホップ史の歩みとも重なるので、今回はその流れも意識した作りにしました。寺西さんの話もぜひドキュメンタリーに入れたかったんですけれど、ちょうど海外に行かれていて。だから今回は、映画のアナザーストーリーのような形で、寺西さんの話も聞ければと。デミさん(NIPPS)も、思い出したことがあったらどんどんお話してください。

寺西:コンちゃん(DEV LARGE)と初めて膝を詰めて話したのは、以前勤めていたバッドニュースというレーベルで俺がA&Rをやっていた『悪名』っていう、90年代前半に現場で活躍していた色々なラッパーたちの音源を録り集めたコンピレーションアルバムを出した後、ちょうど反響が大きかった頃に、その当時はまだ仲良かったコンちゃんとKダブシャインがふたりで事務所まで乗り込んで来ちゃって『なんで俺たちがこのコンピに入ってないんだよー』って文句言ってきたんだ。

川口:最初の印象はあまり良いとはいえなそうですね(笑)。

寺西:そう(笑)。だけど、デミさんとはすぐに仲良くなれて。デミさんとはもう10年以上、A&Rとアーティストの関係が全くない、ただの友達として続いている。俺が雷のマネジメントをしていて、雷おこしとかのイベントをやっていたときに、デミさんはGAMAと仲が良くてよく来てくれたんだよね。で、デミさんを通じてクリちゃん(CQ)たちとも仲良くなって、2000年に『病める無限のブッダの世界 〜BEST OF THE BEST(金字塔)〜』を出した後くらいから、コンちゃんとも密に付き合うようになった。

川口:D.Lさん(DEV LARGE)は、BUDDHA BRANDの中でも一足先に日本に帰ってきていたんですよね。

NIPPS:俺とヒデ(DEV LARGE)が先で、クリちゃんが来て、マスター(DJ MASTERKEY)は一番最後だったね。マスターは、日本に来るのをちょっとためらっていたけれど、本音を言えば俺だってちょっと抵抗があったよ。ニューヨークに10年ぐらい住んでさ、いきなり東京帰るってなったら、「え、どうしよう」ってなるじゃない。でも、そのためにラップ始めたし、日本に帰らなきゃ話にならないからさ。当時、一緒に住んでた彼女も「えー?」って感じだったんだけど、かなり決心して日本にきたよ。あと、当時はグリーンカードを持っていたんだけど、湾岸戦争で赤紙来ちゃってさ。戦争なんて行きたくないっていうのもあって、グリーンカードは切って捨ててきた。

川口:グリーンカード切り捨てたって、すごい話ですね(笑)。

寺西:デミさんは今回のドキュメンタリーでクリちゃんや矢沢さん(DJ MASTERKEY)と一緒にNYを訪れているけれど、ずいぶん久しぶりだったんじゃないの?

NIPPS:十数年ぶりだよね。グリーンカードの件もあったから、入国できないんじゃないかってヒヤヒヤしながら行ったんだけど、なんてことはなかった。もう、最高の気分だったよ。みんなは「街の様子がずいぶん変わった」って言っていたけれど、俺にとってはやっぱり懐かしの故郷で。スタッフのみんなも「良いところだね」って言ってくれて、すげえ嬉しかったな。生まれた家に行ったり、子どもの頃にみんなでイタズラした場所に行ったり(笑)。

川口:実は僕も一度、90年代初頭にNYのレコード屋でDEV LARGEさんと会っているんだけど、その時は地べたに座って、小さいレコードプレイヤーでずっと聴いていて、ものすごく衝撃を受けました。外国人だって、誰もそこまでやっていなかった。

寺西:コンちゃんは本当に、誰よりもレコードを聞いていたと思う。「人間発電所」のソースになったゴスペルは、当時500枚くらいしか刷ってないやつだって言っていて、そんなところまで把握しているんだって驚いたよ。ものすごくレコードをたくさん持っているのに、家でレコードを聴くのは小さなコロンビアのポータブルレコードプレイヤーでチェックする感じだった。ちゃんとテクニクスのSLも2台持っていたんだけど……。

NIPPS:箱から出していないまま積んであった。面倒くさがりなんだよ。コロンビアのポータブルプレイヤーで聞くのは、NYにいた頃からのあいつの習慣だよね。たぶん、あのやり方はあいつが流行らせたんじゃない? 地べたに座って、延々と聞くの。

寺西:放っておいたら半日はレコード屋にいるからね。俺、コンちゃんとレコード屋行くのすげー辛くて(笑)。

NIPPS:俺なんて、たぶん1回も付き合った事ないよ。「MUROは高くてレアなの持ってるかもしれないけど、俺は安くてレアなの持ってるから」って、MUROと張り合って自慢していたな。

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