『The Documentary DEV LARGE/D.L』SPECIAL EDITION上映に寄せて
DEV LARGEの人生は日本のヒップホップ史と重なるーーNIPPS × 川口潤 × 寺西崇洋が語り合う
川口「D.Lさんの葛藤も、彼の本質がサンプリング・アーティストだったことにある」
川口:D.Lさんのアーティストとしてのスタンスは、やはり特異なものがありましたか?
寺西:コンちゃんは頑固だけれど本当にプロのアーティストで、なのに裏方までやろうとする人だった。彼がエルドラド・レコードを設立したばかりの頃、音楽出版のノウハウを自分のカミさんに教えてやってほしいってお願いされたよ。俺はえん突つレコーディングをやっていたから、もちろん流通から音楽出版から何から何までヒップホップのインディレーベルとしてのやり方を知っていたからね。で、コンちゃんはすごくアイデアマンだから、当時としては珍しく、音源に合わせてビデオを撮ってみようとか、どうやってメジャーに売り込むかとか、新しい取り組みにも意欲的だった。驚いたのは、カッティング・エッジでやっていたときに、コンちゃんが一生懸命、日本の歌謡曲の歌詞を書き出していたこと。売れている曲の言葉の中にヒントがあるって、熱心に研究していた。ドキュメンタリーの中にもあったけれど、本気でメインストリームで勝負するつもりでいた。
NIPPS:そういえば、NYに住んでいた頃にヒデの家に泊まったことがあるんだけれど、そのときも日本の歌謡曲を聴いていた。インスパイアされるものがあるんだって。
寺西:だから当時、V6の森田剛さんの「DO YO THANG」(98年)を手がけたんだろうね。当時、雷とかはポップスの正反対を行っていたけれど、コンちゃんはなんとかブレイクスルーしようとしていた。コンちゃんはリノのお店で、突然「DO YO THANG」をかけたんだけど、誰もそのとき、「なんでポップスの仕事なんかしてんの?」なんて言わなかった。だって、森田剛さんのラップが、DEV LARGEそのものだったから。ジャニーズの人たちも器用ですごいけれど、アイドルに自分の色を乗せて世に出しちゃうのもすごい発想だよね。
NIPPS:俺も最近になって、ようやく和物にインスパイアされるようになってきたよ。ちゃんと歌詞を読むと、「ぶっ飛んだリリックだな」って思うことがたくさんある。フロウやデリバリーを学ぶにはラップを聞くのが一番だけど、リリックやコンテンツを研究するには、日本の歌謡曲はすごく勉強になるよ。あいつはそういうこと、気付いていたんだろうね。
寺西:俺はたまたま日本の歌謡曲の研究をしているところを見たけれど、きっとほかにもたくさん研究していたはず。彼はいつも誰もしていないことにチャレンジして、結果を出していた。
NIPPS:あいつさ、実は本来ならアーティストに向かない人間なんだよね。でも、ものすごく努力して、誰よりもアーティストらしい存在、DEV LARGEに辿り着いたんだと思う。中には普通にできる人もいるけれど、あいつはみんなの意見を真剣に聞いて、それを自分のスタイルにちゃんと反映させていた。見事に全部こなしていた。誰にも負けたくないって気持ちが強くて、それがエネルギー源になっていた。
川口:だけど、後年は「俺が今までやってきたことは全部無駄だった」って、すごく落ち込んでいる時期もありましたね。
寺西:たぶんね、『THE ALBUM (ADMONITIONS)』を出したときに、昔ほどの大きな反響がなかったのが原因のひとつだと思う。アルバムを出したとき、普通のプロモーションではダメだって、イエローを借りてリスニング会を開いたんだ。で、『WOOFIN’』の荒野さんに司会進行をしてもらって、厳選したメディアの人たちの前で全曲解説をした。アメリカでJAY-Zとかがやっているプロモーションを、いち早く取り入れたんだよ。だけど、ブッダブランドの時ほどの反響はなくて、セールスもそれほどではなかった。「もう俺が中心の世界ではないな」ってすごく感じたんだと思う。
川口:シングルヴァージョンの「MUSIC」は、サンプリングではなく弾き直しで作っていて、ああいうスタイルも一つのやり方だとは思いますが、やっぱり本人的にはサンプリングに強いこだわりがあった?
寺西:やっぱりコンちゃんは、原曲のまんま使いたいんだよ。アルバムのテーマは「バック・トゥ・ザ・ヒップホップ」で、サンプリング黄金期のヒップホップを取り戻したいって気持ちが込められていた。アメリカみたいに全部を打ち込み直して弾き直して、それをループさせるってやり方は、彼の美意識に合わなかった。むしろ、トラックをループさせないで流して、そのままラップを乗っけるくらいのことがしたかったと思う。ゴーストフェイス・キラーが「La La Means I Love You」で、そのまま歌の上にラップしてるでしょ? あれこそヒップホップだって、コンちゃんは言っていた。こんなことを許されるのは、ヒップホップだけだよって。だけど時代が変わって、いまやクリアランスだけで莫大な額がかかるから、もうサンプリングは現実的な手法ではなくなってしまった。
川口:このドキュメンタリー自体も、クリアランスのところは結構苦労してます。D.Lさんの葛藤も、彼の本質がサンプリング・アーティストだったことにあるんでしょうね。彼の歩みは、そのままサンプリング・アートのメジャーフィールドでの壁とつながっていました。もしかしたら、いまヒップホップを聴いている若い子たちにとって、サンプリングはあまり馴染みがないものかもしれない。けれど、サンプリングという手法には、過去の音楽に対するリスペクトや、音楽を掘り続ける探究心が込められていて、きっとD.Lさんはその楽しさこそ伝えたかったんじゃないかなって、僕は思うんですよ。最後の方は、良い音楽を自分の好みの音質でかけたいって、自分でアナログ盤を作るくらいになっていった。
寺西:作品として世に出なくても、自分が作って納得いくものがアナログにできれば良いって考え方で、ほとんど職人だったよね。突き詰めていくと、DJとしてそういう作家性を出せれば良いというスタンスに変わっていったのかもしれない。
NIPPS:音楽に対する探究心は本当に凄かった。
寺西:コンちゃんは若い奴からテープをもらったりしたときも熱心にちゃんと聴いて、どんなに無名の奴でも、彼の直感でかっこいいと思った奴は、周りに熱心に勧めていた。そういうところがあったからこそ、本当に誰からも尊敬されたし、愛されていたんじゃないかな。
(取材・文=松田広宣)
■イベント情報
『TOKYO MUSIC ODYSSEY 2017 MOVIE CURATION ~特上音響上映会~』
日時:3月6日(月)
会場:Shibuya WWW
上映作品
「Fishmans in SPACE SHOWER TV」
(OPEN14:30 / START15:00)
〈トークショー出演者〉
川村ケンスケ / 角舘健悟(Yogee New Waves)
「『Cornelius performing Fantasma USツアー』 密着ドキュメンタリー・完全版」
(OPEN17:30 / START18:00)
〈トークショー出演者〉
堀江博久 / あらきゆうこ
「『The Documentary DEV LARGE/D.L』SPECIAL EDITION」
(OPEN20:30 / START21:00)
〈トークショー出演者〉
CQ(BUDDHA BRAND)/ GOCCI(LUNCH TIME SPEAX) / GO(FLICK)/ ダースレイダー
チケット発売中: ¥1,800-(税込) ※各回入れ替え制
https://tokyomusicodyssey.jp/movie/