のんが語る、“この世界の片隅に”見つけた新たな道 「かっこ悪いことって時々、必要なんです」

のん『この世界の片隅に』インタビュー

「役者として、一生のうちに出会えるかどうかというくらい、すごい作品だと思いました。こうの史代先生の原作を読ませていただいて、“すずさん役は絶対に自分がやりたい!”って、強く思いました。男女関係なく、年齢関係なく、どんな方にも響く作品だと思います」

 11月12日に公開される片渕須直監督によるアニメ映画『この世界の片隅に』は、女優・のんにとって特別な作品となった。決して大規模な興行を予定している作品ではないものの、公開前から多くの識者らが絶賛しており、すでに2016年度のナンバーワン邦画との呼び声も高い。特にのんが声優を務めた北條すず(旧姓:浦野)の評判は良く、どこかおっとりとした性格の彼女に、文字通り“息を吹き込んだ”といえる声の演技には、誰もが惹きつけられる魅力がある。のんにとっては、改名後の本格復帰作であり、アニメ声優初主演作でもある。

「すずさんは自分と少し似ている」

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「実は、10代の頃に一度だけ、主演ではないかたちで声優のお仕事をさせていただいたんですけれど、そのときはただガムシャラにやらせていただいて、とても難しかったという記憶はありました。まさか今回、声優として主演のお話が来るとは思わなかったので驚きました。でも、すずさんはすごく共感できるところも多かったし、ちょっと自分と似ているところもあるのかなって感じて。たとえば、ちょっと子どもっぽいところとか、ぼーっとしているところとか、絵を描くのが好きなところとか。だけど、実はたくましくてパワフルなところもあって。彼女のそういう気性に、とても惹かれます」

 物語の舞台は、戦時中の日本。18歳のすずに縁談が持ち上がり、彼女は生まれ育った広島から軍港の街である呉にお嫁にいくことになる。見知らぬ土地で、海軍勤務の文官・北條周作の妻となったすずの日々の営みを、綿密な時代考証を重ねた丁寧な描写で切り取っていく。

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「私はこれまで、戦争を描いた物語を避けていたところがあって。怖いというのもあるし、どこか別次元の話だと思って、目をそらしていたんです。でもこの作品は、すずさんの日常を通して、人々の生活がとても活き活きと描かれています。いまの社会と比べたら、色んなものが不足しているんですけれど、彼女は毎日楽しそうにご飯を作ったり、着物を仕立て直したり、お買い物に行ったりしている。戦争という状況にあっても、何があっても、人々の生活は必ず巡ってきて続いていくと、そんなある意味“当たり前”の事を感じたときに、心が揺さぶられるものがありました」

 戦時下という過酷な状況にあっても、人は食べ、歌い、恋をするーー本作が描こうとするテーマは、東日本大震災に直面したアイドルの日々を描いた『あまちゃん』(2013年/NHK)にも通じるものがあるのかもしれない。

「片渕監督やこうの先生は、“戦災”という言葉を使われていて、当時の人々にとっては、ごく普通の生活のなかに戦争が紛れ込んできたわけで、それを災害のような感覚で受け止めていたんじゃないかって仰るんです。誰かと戦っているという感覚ではなくて、突然、空から爆弾が降ってくるという怖さ。そのお話を聞いたとき、すごく腑に落ちるところがあって、どういう気持ちで役に臨めばいいかがわかった感じがしたんです」

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 しかし、声だけで役を演じることについては、苦労も多かったようだ。

「普段お芝居をするときは表情や身振り手振りなど、身体的な表現でいろんな方法で感情を出すことができるんですけれど、声だけとなると、目に見える部分はすべて制限されてしまうんです。だからこそ、視覚的な情報、表現も全て声に乗せなくてはいけなくて、それがめちゃくちゃ難しかった。最初はすずさんと同じように動きながらセリフを言おうと思ったんですけれど、余計な音が入っちゃうからダメって言われて。お腹がグゥっと鳴ったらその音も拾ってしまうマイクだったんです! 結局、肘から下だけを動かしながら、できるだけすずさんと同じ表情になるようにしてセリフを言っていました。それと、やっぱり広島弁も難しかったです。すずさんの義母・北條サン役の新谷真弓さんが、広島出身で今回の方言指導をしてくださったんですけれど、特に『ええですね』っていう言葉のイントネーションが難しくて、かなり練習しました。日常的にも広島弁を使うようにしていましたね」

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