本木雅弘×竹原ピストル『永い言い訳』対談 本木「“自意識の歪み”は、私の中にもある」

本木雅弘×竹原ピストル対談

本木「どこかで監督の良きコマになりたいとも思っている」

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本木雅弘

ーー本木さんは幸夫を“初めて身の丈にあった役柄”と評していました。

本木:幸夫は、感情豊かで素直な陽一のことを冷ややかな目で見ていましたが、同時に憧れや妬ましさがあったのかも。何層にもねじれた幸夫の自意識の裏側には、陽一のような屈託のなさを身につけていれば周りの人間や夏子とも上手くやれていたのではないか、という思いが渦巻いているわけです。彼が持つそのような“自意識の歪み”は、私の中にもあると思います。

ーー撮影現場では、池松壮亮さんにお芝居の秘訣を聞いていたみたいですね。

本木:私は物事を深く考えているように思われがちだけど、ほとんどそんなことはなくて、監督からも「本木さんはすごくこだわるけど、ちょっと詰めが甘いですよね」って言われてしまいました(笑)。そういうムラがあることは自覚しているので、まず天才ではないし、なんとか秀才になりたいと思ってもがいているタイプです。だから様々な人からのアドバイスをもらいたいし、影響を受けたい。たとえ役者の話でなくても上手に演技へ活かせたらいいなと思っています。

ーーなるほど。

本木:でも、そんなことを一切考えていないように、まるで成熟した大人のごとく淡々とお芝居をこなしている池松壮亮さんのことを、非常に羨ましく思いました。年齢的には私の息子でもおかしくない彼に嫉妬したんです。その一方で、自分の芝居の仕方や表現するときの姿勢は、もう古いんだと感じてしまいました。いつどこでチューニングしているのかはわかりませんが、“頭を使う演技”と“力を抜く演技”のバランスを自然に身につけている彼は、賢さとしたたかさを持つ優れた役者だと感じました。

竹原:こういう話を聞くともう役者業からは足を洗いたい、と思ってしまうんですよ(笑)。

本木:でも、ニュアンスの違いはあると思いますが、簡単に言ってしまえば歌を歌うことも自作自“演”ですよね。僕は、役になりきって自然に涙を流せる人を羨ましく思うのですが、竹原さんは感情が込み上げて、歌っているときに泣いてしまうことはありますか?

竹原:たしかに自作自演ですね。ただ、監督ありきの演技とは大きな差があるので、音楽と演技は別物と考えています。役者としての芝居は、どうにか監督のイメージしていものに近づきたい、と思いながら演じています。そこに自分の主張はまったくないので、歌とは別物なんですよね。それに自分の歌で泣くこともあまりないです。お客さんや歌う環境などの外的な要因で涙を流すことはありますが。

本木:僕も映画は監督のものだと考えているので、懸命に演技はするのだけれど、どこかで監督の良きコマになりたいとも思っています。今回も、幸夫と自分が自然に重なることもあれば、逆に自分の解釈とは違うと感じながら演じている部分もありました。

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ーー例えばどんなところですか?

本木:例えば、夏子の壊れかけたスマートフォンに残っていた「もう愛してない ひとかけらも」というメッセージについて、個人的にはあのメッセージの後にはクエスチョンマークがついていたのではいかと考えています。夫を愛し続けられると思っていたけど、そこに陰りが出てきたことを不安に思う夏子が、幸夫のことを「愛してない? ひとかけらも?」と自問自答していたのではないかと。しかし、その捉え方だと物語が進まないのでそうは演じませんが。時々、そういう風に役と自分の解釈に大きな差が生まれることがあります。正直に言うと、自分の解釈に従って演じたくなることもありますが、自分は監督のコマだからとその葛藤は静かに収めます。だからこそ、すべてがうまく噛み合い、役のまま自分事のように涙を流せる人のことを、羨ましく思います。もしも、いつか自分にもその瞬間が訪れた時は、この一本さえ撮れればよかったんだと、役者を引退するかもしれませんね。

ーー「人生は他者だ」のように、映画の中には人生の教訓のような台詞が出てきますが、本作の経験が自身の人生観に影響を与えましたか?

本木:西川監督の書く台詞はシビアに響いてきますよね。すごく端的に言ってしまえば、原作の言葉にもありますが「生きている時間をなめてはいけない」、そこに尽きるかな。実人生でも、もともとあったつまらないエキセントリックさが少しだけ緩みました。もっとおおらかで素直に生きようと、感謝の言葉や返事一つにしても大切に言うべきだな、と改めて思いました。

竹原:本当にいっぱいいっぱいの撮影だったので、そこまで考える余裕がなかったです。ただ、単純な話だけど、灯と真平を演じた子供たちにはどうにか頑張ってほしいなって心底思っている。これから辛いこともいっぱいあるだろうけど、なんとか頑張ってほしいって親のように思っています。

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(取材・文=泉夏音 写真=村上 慶太朗)

■公開情報
『永い言い訳』
公開中
出演:本木雅弘、竹原ピストル、藤田健心、白鳥玉季、堀内敬子、池松壮亮、黒木華、山田真歩、深津絵里
原作・脚本・監督:西川美和
原作:「永い言い訳」(文藝春秋刊)
配給:アスミック・エース
(c)2016「永い言い訳」製作委員会
公式サイト:http://nagai-iiwake.com

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