Netflix日本社長、壮大なビジョンを語る「20年後も、Netflixは日本でサービスを続けていく」

Netflix日本社長に直撃インタビュー

 今年の春先に「この秋、日本に上陸!」と大々的に報じられ、つい先日、来月9月2日からサービスがスタートすること発表された世界最大のインターネット映像配信ネットワーク「Netflix」。テレビ業界や映画業界だけでなく、ウェブ業界からの注目度も非常に高く、早くもこの段階から様々な媒体で特集記事やインタビュー記事が出ているが、その多くが「業界内の視点」からの興味に終始している印象が拭えない。

 リアルサウンド映画部では、日本の映像カルチャーを取り巻く環境を根底から揺るがしかねない潜在力を持つこのNetflixの実像と、その本当のインパクトを読者にわかりやすく伝えるべく、Netflix Japan代表取締役社長グレック・ピーターズ氏に、かなり内角スレスレの質問を投げかけてみた。

 印象的だったのは、ピーターズ氏が何度も繰り返し「10年後、20年後も」と言っていたこと。既にフジテレビとの共同制作で『テラスハウス』新シリーズなどを配信することが発表されているが、それは独占的にフジテレビと提携することを意味するわけではない。世界各国での成功によって非常に潤沢な資本を持ち、10年、20年という長期的なビジョンを持ち、外部との協力体制において極めてニュートラルなスタンスを持っているNetflix。社長のピーターズ氏との会話で感じたのは、「勝つか負けるか」ではなく、「勝つまで続ける」という強い信念だった。(宇野維正)

「スポーツと音楽はやらない」というビジネスモデル

――まず、どんな経歴を経てあなたがNetflix Japanの社長に就いたのか興味があります。

グレッグ・ピーターズ(以下、ピーターズ):コロラド州のデンバーで生まれて、大学では物理学と宇宙物理学を専攻していました。その後、IT系技術会社のスタートアップに複数関わってきて、8年前にNetflixに入社しました。そして、数ヶ月前にNetflix Japanを立ち上げるために日本にやってきたというわけです。

――もともとはゴリゴリの理系だったんですね(笑)。

ピーターズ:でも、ずっと映画は大好きでよく観ていたんですよ。

――今、何歳ですか?

ピーターズ:44歳。1970年生まれです。

――タメです(笑)。

ピーターズ:Yeah! そんな気がしてました(笑)。

――日本でサービスを開始するにあたって、これまで十分にリサーチを重ねてきたと思うのですが、日本というマーケットをどのように捉えているかを教えてもらえますか?

ピーターズ:アメリカから始まって、カナダ、中南米、ヨーロッパ、オセアニアとサービスをグローバルに展開していく中で、アジアでは日本からスタートしたいとずっと思っていました。日本には大きなマーケットがあって、ブロードバンドも普及していて、サービスに対する支払いにおいても信頼性が高い。でも、一番重要だったのは、日本人のコンテンツに対する思いの強さだったんです。日本にはたくさんの素晴らしいストーリーがあって、たくさんの素晴らしいクリエイターがいますからね。

――現実問題として、日本の一般ユーザーがテレビをブロードバンドに接続している率は非常に低いのが現状です。一方で、Netflixでは一部のコンテンツで4K配信をうたっていて、これはもちろんスマホやパソコンではなく、大型のテレビを想定したものですよね。そのあたりのインフラの問題についてはどのように考えているんですか?

ピーターズ:日本のユーザーにテレビをブロードバンドに接続してもらうには、そこまでしても見たいコンテンツがなければ無理だと思うんです。それは、これまでサービスを開始してきたどの国にもあった問題で、仮にブロードバンドは引いていたとしても、それをテレビに繋いでいる率はどこも10%に満たないような状況でした。その率が、Netflixがサービスを開始することで徐々に上がっていったという実績があります。もちろん我々は、日本でNetflixがサービスを開始したその日に何百万ものユーザーがブロードバンドにテレビを繋いで一斉に見始めてくれるとは思っていません。まずはNetflixの存在を知ってもらうこと。そして、使ってみたいと思ってもらうこと。今はそれが大切なことだと思っています。それと、私やあなたの世代には少し抵抗があるかもしれませんが(笑)、Netflix Japanではローンチのタイミングから、スマートフォン、タブレット、パソコンといったすべての環境に対応したサービスを提供していきます。

――(とても立派なオフィスを見回して)これだけ大きな初期投資をしていることからも、仮にスタートダッシュに失敗したとしても数年で撤退するなんてことはないと思うのですが、実際のところ、日本で目標としている普及率に至るまでにはどのくらいの時間がかかると考えているのですか?

ピーターズ:これは終わりのないプロジェクトなんです。具体的な数値があって、それを達成するのが目的というわけではありません。我々がアメリカでサービスをスタートさせたのは1998年、もう20年近く前のことで、アメリカ国内では今でも成長を続けています。それと同じように、日本では今年9月からサービスを開始するわけですが、10年後も、20年後も、Netflixはここ日本でサービスを続けていると自信を持って言うことができます。

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Netflixの会議室。名前が映画のタイトルになっている。

――これまで日本の有料放送では、海外のスポーツ中継と国内外の音楽ライブ/コンサート放送が非常に重要なキラーコンテンツの役割を果たしてきました。Netflixは、あくまでもそこには手を出さない?

ピーターズ:そうです。まさに、そこがNetflixのキーとなるビジネスモデルなのです。本来、放送に向いているコンテンツというのは3つあって、それはニュースとスポーツと音楽番組です。だからこそ、これまでの有料放送事業者はそこに大きな資金を投じてきました。でも、我々はそれとは別の場所に焦点を定めることで、ここまで成功することができました。もちろん、音楽関連の番組をやることもありますが、それはただライブの映像を流すようなものではなくて、ドキュメンタリーのような、一つの作品といえるものになるでしょう。

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