『アバター:F&A』は映像美だけではない 観る者の心を揺さぶる壮大な人間ドラマに注目!

12月19日より公開される『アバター』シリーズの最新作であり、シリーズ第一章の完結となる『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』。その圧倒的な映像体験と予想以上にエモーショナルなストーリーが心に残っていることはもちろん、本編の上映前に流れたジェームズ・キャメロン監督によるメッセージ映像も脳裏に焼きついて離れない。
そこには、パフォーマンスキャプチャーの機械をつけた俳優陣と、多くのスタッフがスタジオの中でいくつものシーンを撮影している様子が映されており、改めてあの壮大な世界を生み出す過程に大勢の生身の人間が関わっていることを再認識させられた。そしてその事実が、最新作『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』で映し出される“感情”にさらなる説得力を持たせる。
映像体験、そしてそれ以上に作品から伝わるエモーション
映像体験が注目されがちなシリーズだが、振り返ってみると『アバター』はキャラクターの葛藤や人間ドラマに常に重きを置いたストーリーテリングを行ってきた。2009年に公開されてから16年が経過した今もなお“世界興収ランキング1位”の座に君臨しており、さらには続編の『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』が同ランキングで3位という記録を打ち出している。もはやこの結果は本シリーズが単なる話題作という枠を超え、どれほど多くの人の心を掴んできたのか、その証明でもある。
まさに映画界の頂点に君臨するシリーズと言っても過言ではない。そしてこれほどまでに驚異的な成功を収めている理由は、決して映像技術の凄さだけに留まらない。いや、確かにその革命的な3Dやパフォーマンスキャプチャー技術は特筆すべきなのだが、それらを駆使して力強く描こうとするのは、物語、そしてキャラクターである。どれだけ美しい映像が映されても、彼らなしでは、そこにあるのは空っぽのパンドラだ。あの場所に必要なのは、そしてあの場所が美しいと感じるのは、そこで息づく生命、そして彼らが紡いできた物語が垣間見えるからなのだ。
第1作『アバター』では、人間のジェイク・サリー(サム・ワーシントン)がパンドラの資源を求め、アバターを使ってフィールドワークをする中、先住民族であるナヴィの娘ネイティリ(ゾーイ・サルダナ)と出会う。そして彼女からナヴィの生き方を学び、「エイワ」(パンドラの調和を保つ神のような存在)に触れ、埋葬した死者の魂が死後、自然に戻って生き続けていくことなど、ナヴィの文化や価値観を知る。そして、ジェイクはネイティリと恋に落ち、ナヴィの側について侵略者側の人間と敵対する道を選ぶ。自然破壊をテーマに敷きながら、主人公の“葛藤”と別れ、そして新たな道を選ぶ姿を映した。
続く『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』では、ジェイクとネイティリのカップルの話ではなくなり、彼らの子供たちを含む“家族”の物語になる。そして、本作でも住まいを追われ、移住を迫られ、新しいコミュニティに馴染もうとする彼らの“葛藤”が取り沙汰されるのだ。このシリーズで一貫して描かれている“葛藤”そのものが、ナヴィたちの物語を“私たちの物語”として捉え、共感できる大きなポイントとなっている。そしてもちろん、ジェイクが人間に敵対して守ろうとしているパンドラの自然を深掘りし、トゥルクンのような目に見えて守りたいと感じる生物との触れ合いを描くことで、私たち観客にも、そこで奪われる命の重みを理解させる作りになっている。
本来なら人間ではない者たちを主人公に置く物語は、観客が共感しづらくなる可能性が高い。しかし、『アバター』シリーズは常にそれに対して物語や登場人物、環境や生物を通して人の感情に訴える挑戦をしてきた。そしてシリーズ第一章の完結となる『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』はまさにその前2作の集大成とも言える作品だ。
本作は他の2作と比べてもとにかく、エモーショナルなストーリーラインが特徴的。そう感じさせるのは、前作で描かれたジェイクの家族の悲劇と、そのアフターマスが中心的に描かれるからである。特にジェイクの宿敵クオリッチ(スティーヴン・ラング)の息子であり、ジェイク一家の一員として育った少年スパイダー(ジャック・チャンピオン)を巡り、ネイティリのナヴィとして、母としての葛藤や、ジェイクの元人間として、族のリーダーとしての葛藤が、かなりリアルに描かれていく。そこに長男ネテヤム(ジェイミー・フラッターズ)の死に責任と負い目を感じる次男ロアク(ブリテン・ダルトン)、発作のせいでエイワと簡単に繋がれないキリ(シガニー・ウィーバー)、ナヴィ側にいる息子スパイダーを利用したい気持ちと父親として守りたいクオリッチの葛藤……。
それぞれの陥っている状況や、入り組んだ感情が本作は非常にわかりやすく描かれており(それでいてかなり解決するのが難しい問題ばかり)、「そりゃ難しいよなあ、そうだよなあ」と感情移入してしまうし、観客の目線でもどうしたらいいかわからない。キャラクターたちに立ちはだかる、簡単に答えが出ないような問題。そして、それゆえの緊張感。そのスリルが197分ある本作のテンションを維持し、世界観に没入する大きな要因になっているように思える。その緊張感によって、改めて本作がキャラクターデベロップメントやストーリーテリングに力を入れていることを実感できるようになっているのだ。
























