『Personal Terminal』インタビュー
小松未可子×田淵智也(Q-MHz)特別対談 “ポップスシンガー”としての充実を支えるチームワーク
小松未可子が、7月11日にアルバム『Personal Terminal』を発売する。同作は1年2カ月ぶりのリリースとなるアルバムで、アニメ『ボールルームへようこそ』のエンディング曲「Maybe the next waltz」、「Swing heart direction」のシングル2曲のほか、ジャズやスカなどの要素を取り入れた全12曲を収録。充実した音楽活動を経て作り上げられた“アーティスト・小松未可子”の新境地的な作品に仕上がっている。
また同作は、畑 亜貴、田代智一、黒須克彦、田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)からなるQ-MHzのプロデュースによる2作目のアルバム。リアルサウンドでは今回、小松未可子と田淵智也の対談が実現した。同作の制作エピソードはもちろん、田淵から見た小松の歌手・作詞家としての魅力や、音楽的なサポートのみならず、“小松未可子がアーティストとして一番かっこよく見える形を提案して作りだす”というQ-MHzの仕事ぶりなどにまで話が及んだ。(編集部)【インタビュー最後にプレゼント情報あり】
「田淵さんはエネルギー源そのものみたいな感じ」(小松)
ーーせっかくの対談なので、まずはQ-MHzが小松さんのプロデュースを手がけた経緯から伺わせてください。
田淵:Q-MHzがチームとしてデビューした作品(『Q-MHz』)のボーカリストとして、小松さんに参加してもらったのがきっかけです。そこから彼女が<トイズファクトリー>に所属になると聞いたので、「じゃあ引き続き僕らにやらせてください」と手を挙げたんです。
ーーその時には田淵さんの目に「歌手・小松未可子」はどう見えていたんでしょうか。
田淵:小松さんの楽曲は1stミニアルバム『cosmic EXPO』の時から聴いていて「声がしっかり立っていて、強い人だな」と思っていましたし、「歌い上げる」というよりは「歌を表現するために絶妙な声を自分で使い分けている」という印象が強かったかもしれません。
ーー逆に小松さんは、田淵さんという音楽家にどういうイメージを持っていたんですか?
小松:もちろんUNISON SQUARE GARDENは知っていたんですが、田淵さん自身がどんな方かはまったく想像ができませんでした。
田淵:名前で検索しても、怖い写真ばっかり出てくるから(笑)。
小松:あははは(笑)。初めてお会いしたときは、「エネルギーや探究心がとても高い方だな」と思いました。エネルギーが出ているというよりは、エネルギー源そのものみたいな感じでしょうか(笑)。
ーー面白い喩えですね(笑)。Q-MHzは小松さんの音楽活動を『Imagine day, Imagine life!』以降“全面プロデュース”していますが、その中でも田淵さんは具体的にはどういった形で制作に関わっているのでしょう?
田淵:どういう曲が合うのか、という提案から、実際にどうやって作っていくのか、どういう人と一緒にやったら面白いかと、小松さんがアーティストとして一番かっこよく見える形を提案して作りだす、一番初めの言い出しっぺみたいな役割ですね。それがどんどん楽しくなってきちゃって、ライブの演出やプロモーションにも「こうしたい」と対レーベル含めて提案するようにもなりました。
ーー音楽だけではなく、それ以外の部分も含めてプロデュースしていると。
田淵:でも、もちろんそれは僕一人ではなく、Q-MHzという信頼関係のあるチームで音楽を作っていることが大きいです。アルバムを作るにしても、全曲4人で統一感のあるものが狙って作れるのは明らかに強みだし、必ず作る前にメンバーへ参考曲を提示して意見をもらっているので楽曲のイメージも共有できているし、そのうえで「この曲ができたから、次に作る曲はこうしよう」みたいな形で1曲ずつ作ってるんです。他の曲とのバランスはどうか、というのもコントロールできていて、まさにプロデュースチームという感じですね。
ーー一つのチームによる大きなバックアップがあるというのは、小松さんにとっても安心感がありますか?
小松:そうですね。さっき田淵さんがおっしゃった「曲ごとに演じ分けること」は、実は自分の悩みでもありました。曲ごとに自分のキャラクターが変わっていって、それが両極端だったりすると「どこが自分の中心軸なんだろう」とわからなくなったりして。なので、前作のアルバム『Blooming Maps』で“小松未可子像”とも言える大きな軸を作れたことで、とても安心できました。あの作品が軸になったからこそ、安心してそこから派生した別の表現にもチャレンジできましたし、今作の制作過程で「自分はこうだったのか」という新しい発見もありました。
ーー個人的に、Q-MHzが関わるようになって以降の小松さんは“ポップスシンガー”としての印象が強くなっていて。特に小松さんの透き通ったロングトーンって、良い意味でストレートに気持ちよく聴こえるんですけど、その良さが最大限に引き出されているというか。
田淵:僕らが最初にやったのは、歌のキャラクターに統一感を出すことで、それはつまり“とにかく癖をなくしていく作業”だったんですよ。声優さんの歌う音楽って、「強気な私を見てください」という曲をやったあとに、「次はしっとりした私を聴いてもらう」みたいなパターンもよくあると思っているんですけど、小松さんは「小松未可子です」という一言で説明できるくらい、音楽的な統一感を持たせたいと思える人だったので、企画書にも「ポップスを軸にしたい」と書きました。
ーー小松さん自身、歌に統一感を持たせたことはどう作用したと思いますか?
小松:「この曲はこういうふうにするほうが歌いやすい」のように演技に頼っていた面がなくなったため、とても難しく感じました。「何も道具を使わずにご飯を食べてください」と言われたような気分でした(笑)。
ーー難しさがよく伝わってきます(笑)。田淵さんはそこまで苦労する作業を強いてでも、ポップスを歌うことで小松さんが輝くと確信していたと。
田淵:僕がロック畑にいるからだと思うんですけど、ロックって一番危険なジャンルだと考えていて。他ジャンルの人がロックをやろうとしたときに“なんちゃって”になってしまいがちじゃないですか。なので、自分が提供する曲も「ロック調で」というオファーをもらっても、歌い手の身の丈と合致しないところがあれば、どこかしらにポップな逃げ道を作って提案することが多くて。そんななかで小松さんの声は正統派なポップスをやっても、身の丈に合っていてダサくならないと感じたんです。以降は、そこからはみ出さないようにジャズやモータウンにトライさせてみたら、想像以上に良かったりもして。
ーー「ジャズ」というキーワードが出てきたので聞きたいんですが、「Catch me if you JAZZ」をはじめ、ジャズから派生した楽曲が多くなったのも、Q-MHzプロデュースになって以降の特徴ですよね。とはいえ、本格的なジャズというよりはポップスとジャズを掛け合わせたような、聴き心地の良い音楽に仕上がっていて。
田淵:まさに! 1stアルバムの「Infinity Sky」みたいな曲が良いなと思っていて、一番最初に作った「short hair EGOIST」ではスカに挑戦したんですよ。そこから「Catch me if you JAZZ」で、さらにポップスっぽいジャズができたことで、かなり手応えは感じました。この曲に関しては、伊藤翼くんの功績も大きかったと思います。あの曲がうまくいったからこそ、「Maybe the next waltz」を翼くんにお願いしたし、今回のアルバムに収録した「Romantic noise」も、ジャズを基調にしつつビッグバンドっぽいこともやりたい、と思って彼にお任せしました。
小松:確かに、最近はジャズっぽい曲が多くなってきましたね。自分の中で「ジャズってなんだ?」という疑問はあったのですが、歌っていくうちに「これもジャズなんだ!」と気づかせていただくことも多くなってきています。ちなみに「Romantic noise」は「Maybe the next waltz」の前身となった楽曲なんですよ。
ーーえ、そうなんですか?
田淵:「Maybe the next waltz」の第一稿デモには「Romantic noise」のBメロが入ってたんです。
小松:だから、私の中では裏「Maybe the next waltz」みたいなイメージが強いんです(笑)。
田淵:この曲も、ポップスを軸にジャズ的なコード進行や編成にする、というチョイスに味を占めていた頃の曲のひとつですから(笑)。
小松:私、ボサノバ調の曲も好きなんです。アルバムには収録されていませんが、「Piña colada & Caipirinha」にもちょっとそういう要素はありましたよね。
田淵:あれも編曲は翼くんだね。
小松:うわー! やられたー!(笑)。