GLIM SPANKYの音楽にある“ポピュラーミュージックの核心” 武道館公演を体感して気づいたこと

GLIM武道館公演で気づいたこと

 サイケデリックなバンドロゴが日本武道館に掲げられた2018年5月12日、GLIM SPANKYにとって初の日本武道館公演『GLIM SPANKY LIVE AT 日本武道館』が開催された。

 1960年~1970年代のロックやブルースをベースにしているGLIM SPANKY。しかし、最近のメディア露出の多さは時代のポップスターそのものだ。彼らがどんなライブを日本武道館で行うのかと考えて足を運んだところ、アンコールを含めて25曲も演奏する、バンド史上最長だというライブだった。

 その25曲を生で聴いて気づいたことを二点挙げたい。ひとつは、楽曲がコンパクトで完成度が高いことだ。イントロから歌、歌いだしからサビへの展開が早い。これは1960年~1970年代のロックの影響でもあろうが、実は近年の洋楽の潮流とも呼応している。

 もう一点は、相当な音楽的ボキャブラリーがあるであろうバンドなのに、同様の音楽性のバンドがやりがちな、過去の楽曲の引用やオマージュがほとんどないことだ。マニアックになりすぎることがなく、それはそのまま開放性へとつながっている。

 さて、ライブ本編の話をしよう。客電が落ちるとSteeleye Spanの「Gower Wassail」が流れる中でメンバーが登場。この日ステージに立ったのは、GLIM SPANKYの松尾レミ(Vo/Gt)と亀本寛貴(Gt)に加えて、サポートの栗原大(Ba)、かどしゅんたろう(Dr)、中込陽大(gomes/Key)の5人のみ。シンプルな編成だ。

松尾レミ

 「1960年~1970年代のロックやブルース」とは書いたものの、GLIM SPANKYの楽曲やサウンドは、たとえサイケデリックやグラムのスタイルをとっていたとしても、ある種のミクスチャー音楽に聴こえる。その不思議な感覚の理由は、いかにJ-POPのフォーマットで戦うかを考え抜いているからだろう。GLIM SPANKYの音楽は、そのまま2018年のJ-POPとしても機能している。日本武道館という晴れ舞台で、VJがレトロ志向に陥っていなかったのも、GLIM SPANKYの姿勢を端的に示すものだろう。

亀本寛貴

 ブルースギターが響く「ダミーロックとブルース」に大歓声が起きていたが、曲名の通りこの楽曲はブルースロックだ。これでここまで盛りあがるものなのかという新鮮な驚きがあった。「美しい棘」は心地良いカントリーロック。GLIM SPANKY流のディスコナンバー「END ROLL」は、The Rolling Stonesにおける「Miss You」のような位置づけなのだろう。アンコールの1曲目に歌われた「さよなら僕の町」は、GLIM SPANKYのふたりのみによる演奏だった。松尾レミが高校生時代最後に書いた楽曲だそうだが、メロディの完成度が高い。

 今どきの日本のロックらしく、拳を突きあげる楽曲もあったが、全体から見ればほんの数曲だ。そして、シンガロングが起きても不思議ではない楽曲もあるのに、それが起きない。それでいて日本武道館を埋めてしまったGLIM SPANKYは、現在の日本のロックシーンにおける「ノリ」とは別の回路を発見したのかもしれない。松尾レミが、MCで日本の音楽シーンにおける「ロック」の幅の狭さに言及していたように。

 アンコールで松尾レミは「まだまだGLIM SPANKYは転がっていくから、みんなも転がっていこう」という主旨の発言をした。ここに私は、ついBob Dylanの「Like a Rolling Stone」、あるいはThe Rolling Stonesのバンド名そのものを連想する。しかし、そうした過去の音楽をリファレンスしがちな人間を、GLIM SPANKYが大胆に裏切る日が来ることも私は期待したいのだ。

 『GLIM SPANKY LIVE AT 日本武道館』を見た最大の成果は、GLIM SPANKYが1960年~1970年代のロックから引き継いでいるのが、サウンドの表層ではなく、楽曲がコンパクトでキャッチーであるという部分だと体感できたことだ。想像以上にポピュラーミュージックの核心を突いていたのがGLIM SPANKYだった。

■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter

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