TWICE『Candy Pop』リリース記念企画
TWICE「Candy Pop」アニメMV制作秘話を京極尚彦監督が語る 「彼女たちに“ないもの”をあえて表現した」
「変身時のポーズは、メンバーの個性や魅力を反映させた」
――ちょうどダンスパートの話になりましたが、京極さんは『プリティーリズム』シリーズのプリズムショー演出を担当し、『ラブライブ!』で監督を務め、その後『プリパラ』のライブ演出や『KING OF PRISM』のプリズムショー演出を担当されていて――。
京極:はい、『うた☆プリ(うたの☆プリンスさまっ♪)』(コンテを担当)もやってます(笑)。
――つまり、アニメのダンスパート表現は、監督の真骨頂のひとつだと思うのですが、今回のダンスパート演出では、これまでと比べてどんなことを考えていったのでしょう?
京極:今回はTWICEとコラボレーションしている雰囲気を出すためにも、踊っているパートはもとの振り付けをできるだけ忠実に再現しました。その際、『ラブライブ!』もそうだったんですが、今回はより等身を低くしたこともあって、さらにシルエットのつけ方には気を遣いました。アニメーションはシルエットの変化がないと映えないんですよ。だから、メンバーが付けているパーツを極力揺らすように工夫しています。人って動くところに目線が行きやすくて、アニメでツインテールの女の子が人気になるのも、実はそれが理由だったりするんです。なので、僕の作品を観てもらうと、ショートカットの女の子には髪留めやイヤリングを付けたりしていて、できるだけ全員が平等になるよう工夫しています。衣装は、今回はTWICEのみなさんがもともと着ていたものをアニメ化した形ですね。
――TWICEの振り付けはスピードが速く、アニメで表現するのはかなり難しそうです。
京極:難しかったですね。アニメのダンスパートで楽なのは、シルエットが大きく変わるタイプのものなんですが、今回特に難しかったのは<♪Candy Candy Pop Pop 君の~>のところのような細かい動きでした。あそこは本当に難しかったです。あとは、ぴょんぴょん小さく跳んだりするのも、アニメでは難しい動きなんですよ。そこは工夫しないと、ただ絵がカタカタ動いているようになりかねません。TWICEのダンスはそういった要素も含む複合的なパートがずっと続くので、制作中は「凶悪だなぁ……」と思ったりもしました(笑)。でも、そこはアニメーターがすごく頑張ってくれたので、完成したときは「アニメでもこんなにアイドルが踊れるんだ……!」と感動しました。とはいえ、踊るパートについては『ラブライブ!』も少し感じさせながら、同時にキャラの個性が感じられる程度にわざととどめて、アニメ部分ではメンバーがひとりずつアニメから実写に変身していくパートをピークに持ってくることにしました。変身時のポーズは、実写部分のMV撮影に同行させていただいたときに感じたメンバーの個性や魅力を反映させたものです。このパートはアニメのメンバーのキャラクターや、星のようなパーツなど色んなものがバラバラの状態で用意されて、その間に実写をはさむ作業だったんですが、実写の加工は韓国チームが担当する仕事なので、自信と不安が入り混じるような作業でもありました。誰もやったことがないからこその難しさがありましたね。でも、ひとつよかったのは、最終的な仕上げの作業を、僕も韓国に行って向こうのチームと一緒にやらせてもらえたことですね。それがかなり大きかったと思います。そうでなければ、この仕上がりにはならなかったと思うので。
――CGを使ったカーチェイス・パートも躍動感溢れるものに仕上がっていますね。
京極:あの場面も、J.Y. Parkさんが用意してくれた大まかなストーリーボードに沿って、僕らで考えていきました。ここはなぜCGにしたかというと、ファンのみなさんとしてはMVではやっぱりメンバーを見たいわけですよね。だから、カーチェイス自体は極端な話、いらない要素でもあると思うんです。ただ、「ストーリー上このパートは入れる必要がある」となったときに、それなら、シーンとして観る価値のあるものを作ろうと思いました。CGでグリグリ動かすことによってピクサーのカートゥーン的な役割を持たせてあげた感覚ですね。そういう意味で、ひとつも無駄なカットがないのはMVならではの魅力だとも思います。
――車が曲がるシーンにかなり角度かついていて、それがドキドキ感を煽るようでした。
京極:あのシーンも、CGで曲がる動きをつけたあとに、手書きで煙の描写を足したりしています。そうやって表現をリッチなものに仕上げていくことで、ストーリーを説明するためだけに存在するパートにはならないように考えていきました。
――カーチェイスの舞台となるキャンディの国の世界観もかなり作り込まれていましたね。
京極:その部分はもう、制作チームがすごく頑張ってくれて、何度もテイクを重ねる中で完成させていきました。アニメのキャラクターだけではなく、実写のキャラクターもその世界の中に置いてみて、「もっとこうした方がいいな」「ここにメンバーを置こう」と決めていきました。あと、キャンディの国の世界観のヒントになったのは、韓国で実写パートのMV撮影を見学したときに行くことができた、MVに登場する女の子の部屋ですね。(最初はTVの中にいる)TWICEからすると、画面の向こう側(実写パート)があれぐらいの風景だから、それならこっち(アニメパート)はこれぐらいにしようと考えました。今回の色々な部分に言えることですが、僕が「こうしよう」と最初から決めていたものは少なくて、むしろTWICEのメンバーや韓国チームとのやりとりの中で答えを見つけていく感覚が強かったと思いますね。これは僕にとっては初めての経験でした。『プリティーリズム』や『ラブライブ!』では、どんなところで、どう踊るかも全部僕が決めていたので。本当にキャッチボールをしながらひとつのものを完成させていくような感覚だったと思います。最後にキャンディの世界から実写の世界にワープする部分も、「その後どうするんだろう?」と思っていたら、韓国チームが最後にオチをつけてくれたので面白かったですね。
――「Candy Pop」のMVが完成しての感想はいかがでしたか?
京極:簡単には言葉にはしづらい部分がありますけど、今回は色々な方との作業になったので、みんなで一緒に山を登り切って「ふう……」と安心するような、新しい充足感がありました。このひとつのMVには色々な人の力が加わっていて、きっと自分が見ていないところで頑張ってくださった方もたくさんいるはずで。そういうことも含めて、新しい感動がありました。アニメの監督の場合、最初に登る山を設定して、「富士山ぐらいの高さだから大丈夫だよ」とみんなを説得して、最後にエベレストまで連れていく、というのが僕らの仕事なんですよ。でも今回は、いくつか参加していたクルーのうちのひとつを担当したので、自分たちだけ先に行ってもいけないですし、途中でトラブルがあって計画がとん挫することもないまま最後まで行けたというのは、考えたら「奇跡に近いことだったんじゃないかな?」と思います。