太田省一『ジャニーズとテレビ史』第三十五回:『キスマイBUSAIKU!?』と『いただきハイジャンプ』
『キスマイBUSAIKU!?』&『いただきハイジャンプ』、ジャニーズ番組の放送枠移動は何を意味する?
Kis-My-Ft2の冠番組『キスマイBUSAIKU!?』とHey! Say! JUMPの冠番組『いただきハイジャンプ』。ともにフジテレビ系列で放送中の二つの深夜番組が、この10月の改編に伴い放送時間の変更が発表された。
『キスマイBUSAIKU!?』は2013年にレギュラー化、現在は月曜夜11時から放送されている30分番組である。10月からは木曜深夜0時25分からの放送になる予定だ。つまり、より深い時間帯に引っ越すことになる。
この番組、アイドルがメインの番組としては相当ユニークだ。タイトルに「BUSAIKU(ブサイク)」とあるのがまずその証。インターネットでグループ名とともに「ブサイク」と入力すると多くの件数がヒットしたことから番組が企画されたと言う。アイドルなのに容姿へのネガティブなイメージからスタートするところが他のアイドル番組にはあまりないものだ。
番組は毎回、そんなKis-My-Ft2のメンバーたちがどうすればカッコよくなれるか、たとえば、「ステキなクリスマスデートプラン」「カッコいい壁ドンキス」などシチュエーション毎に各自が答えを考え、ランキング形式で争う。藤ヶ谷太輔、玉森裕太、北山宏光ら1位(上位)常連組に対し、「働く彼女に作ってあげるお弁当」のような料理の腕を競う企画で横尾渉がたびたび1位を奪取し、「水回りの横尾」なる異名も生まれた。また中居正広のプロデュースによって、それまであまり目立つポジションではなかった4人、横尾、宮田俊哉、二階堂高嗣、千賀健永によるグループ内ユニット・舞祭組が誕生したのもこの番組からであった。
番組のコンセプトを反映した一般女性の声が効いている。ランキングを決めるのは、各メンバーの答えをモニターする「キスマイのファンではない一般女性100人」だ。だから遠慮のない意見もどんどん出てきて、それが「キモイ」「ダサっ」などとテロップ表示される。同年代の男性にとっては女性の考えを知る貴重な参考意見であると同時に、アイドル番組らしからぬシビアさを演出する良いスパイスにもなっている。
こうして「アイドル」の既成観念にとらわれないリアルさにこだわることで、『キスマイBUSAIKU!?』は各メンバーの素の魅力を浮き彫りにし、アイドル番組としても独自の地位を確立してきた。この路線をさらに追求していくならば、より深い時間帯への移動はありうる選択肢のひとつだろう。報道によれば、番組タイトルも『キスマイ超BUSAIKU!?』となり、「終電を逃がした女性の誘い方」などよりディープな男女関係のシチュエーションにメンバーが挑むという。つまり、よりアイドルっぽくないテーマにアイドルとして挑むということだろう。そのあたりのアイドルと非アイドルの境目のぎりぎりの部分をメンバーたちがどう表現するかが見どころとなるに違いない。
一方、現在木曜深夜1時25分から放送されている30分番組『いただきハイジャンプ』は、2015年にレギュラー化となった。そしてこの10月からは、土曜午後2時からの放送になる。こちらは週末の昼間への移動である。
この番組、毎回Hey! Say! JUMPのメンバーがロケに出て「世の中の一大事」を解決するために奮闘する。そしてスタジオでは、そのVTRを全メンバーで見ながらフリートークをするという趣向である。MCは持ち回り制で、特に誰と固定されていないところがあまり他のジャニーズの番組にはないスタイルである。
取り組む課題はさまざまだ。「反則上等!あらゆる手を使ってプロを倒せ!!」といった挑戦ものもあれば、「日本一速いウォータースライダーを探せ!」といった調査ものもある。また、「食べ放題のお店は、どれくらい食べれば元が取れる!?」といった両方の要素が入ったようなものもある。
そうした企画を重ねるなかで、歌や演技の仕事からは見えにくいそれぞれのキャラクターの振り幅や奥行きも見えてきた。たとえば、クールな印象の高木雄也が実はオネエっぽいとか、英語が堪能な国際派というイメージの岡本圭人が見せる愛すべき天然ぶりなどは、この番組のなかで見えてきた意外性の魅力だろう。また歌ではいつもセンターを務める山田涼介が、この番組ではイジられる側になることも少なくない。あるいは中島裕翔の真面目さと伊野尾慧の自由さという好対照の良さも、この番組でより際立っていると言える。
もちろん、そうした個々のキャラクターは、メンバー同士が協力して課題に取り組むなかでわかってくるものだ。そうした一面がふと見えたときに、八乙女光、有岡大貴、知念侑李、薮宏太らがすかさずツッコんだり、フォローしたりする場面にグループの一体感がにじみ出るのもこの番組の魅力だろう。スタジオのフリートーク場面でも、端々にそうしたHey! Say! JUMPらしいグループとしての優しい雰囲気、親密さがうかがえる。