桑田佳祐、300人キャパの至近距離ライブ! Billboard Live TOKYOでの“大人の夜遊び”に潜入

桑田佳祐“至近距離”ライブに潜入

 桑田佳祐がライブハウスで演奏するのは稀なことだ。サザンオールスターズを含めても、1999年9月の新宿LIQUIDROOM以来である。今回のキャパは、なんと300人。チケットを手にできたのは、その強運を分けてもらいたいくらいラッキーな人達だ。

 会場のBillboard Live TOKYOは、六本木・ミッドタウンのお洒落なブティックなどが入るフロアの上階に位置する。場内は、テーブル席主体のセッティングである。ちなみにこの日のイベントのタイトルは、『この夏、大人の夜遊び in 日本で一番垢抜けた場所!! supported by ニッポンハム / Billboard Live 10th Anniversary』。確かにここは、紛れもなく“垢抜けた”場所なのだ。

  なぜこのタイミングにライブハウスを思い立ったのだろう。ご存知の通り、10月からはツアーがスタートする。その前に、まず一歩を踏み出し、そして8月の夏フェス参戦を経てツアーへと、自らのモチベーションを徐々に上げてく意図もあったことだろう。

 いよいよ場内が暗転し、桑田が登場する。肩からハーモニカ・ホルダーを下げ、アコギを弾き、「今でも君を愛してる」を歌い始める。しかし出だしでギターの間合いが整わず、アレレと照れくさそうな表情を浮かべる。その姿はリラックスしている。スーパースターの桑田じゃなく、人間くさい彼の魅力が伝わってくる。

 最初は弾き語りのこの曲だが、バックのメンバーが少しずつ音を足していき、終わる頃には全員の“作品”になっていた。心憎いオープニング。リラックスしたムードではあるが、音楽的に試みたいアイデアに関しては、このあともビシビシ繰り出される気配でもある。

 「それ行けベイビー!!」は、ドラムがブラシからマーチング風へニュアンスを変え、歌の高揚感も比例していく秀逸なアレンジだ。「スキップ・ビート (SKIPPED BEAT)」や「月」など、皆が聴きたい名曲が、惜しげもなく披露される。ただ、待ってましたの人気曲の場合、敢えてオーバーチュアが加えられ、すぐにそれだと分らない工夫も見られる(それが一番“大掛かり”だったのが、「波乗りジョニー」の時だった)。

 それにしても近い。実は、真っ先に書きたかったのはこのことだった。特に最前列。お客さんが手を伸ばし、ちょっと桑田が歩み寄れば、お互い触れあう距離である。実際、桑田は伸びてきた手に、丁寧に握手で応えてる。ライブ中、何度も繰り広げられた。


 まもなくリリースされるニューアルバム『がらくた』に収録される楽曲が、次々と演奏される。特に本邦初演となった「愛のささくれ〜Nobody loves me」と「簪/かんざし」は、アルバムが充実したものであることの動かぬ証拠であった。女を口説くも万策尽きて、果せぬ思いに心を乱す男を描く前者。添い遂げることが叶わぬ刹那を、心象と具象を絡ませつつ綴る後者。どちらも大人の歌だ。

 来たるべきアルバムは、なぜ『がらくた』と名付けられたのだろうか。過去の実績などから解放され、まっさらなところからやりたかったからこそ、そう名付けたのかもしれない。世間の風にあたる瞬間までは、なんの称号も授からずにいたかった。“がらくた”は“たからもの”かもしれないが、それは聴いた人がそれぞれ思ってくれればいい……。そう。そんな気がする。

 ライブは進む。「オアシスと果樹園」と「銀河の星屑」が、続けて演奏される。ここは後半のハイライトだ。このふたつ、生まれながらに兄弟曲であったかのように、疾走感のリレーを果たす。場内はずっと、着席のスタイルだけど、お客さんの上半身は、我慢出来ずに大きく揺れている。

 本編ラストは「ヨシ子さん」。原初的なリズムがフンガフンガと溢れかえる、言わずと知れた“問題作”だ。普段は女性ダンサーの水着を引っ張るオイタも欠かさない桑田だが、この日は不敵な面構えの男性HIPHOPダンサーとの共演という、これまでにない姿勢を見せてくれた。そしてこれが実にキマっていた。既にこの曲は、これをやらなきゃライブが締まらない的な存在になりつつある。 

  至近距離でお客さんとふれ合ったこの日のライブは、予定の22曲を演奏し、終了した。キャパが300であれ、これからツアーで回るアリーナやドームであれ、今年、彼が望み続けるのは、心の“至近距離”なのかもしれない。Billboard Live TOKYOだから実現したことを、ここだけのものにしないための準備が、これから始まるのだろう。


(文=小貫信昭/写真=岸田哲平)

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