MANNISH BOYS、大胆な“音楽的進化”を遂げる 新作『麗しのフラスカ』のサウンド考察

MANNISH BOYSの進化を考察

 斉藤和義と中村達也という、異色の組み合わせにより誕生したバンドMANNISH BOYSが、前作『Mu? Mu? Mu? MANNISH BOYS!!!』からおよそ2年ぶりとなる通算3枚目のアルバム『麗しのフラスカ』をリリースする。これまでの、どこか人を食ったようなアルバムタイトル(1stアルバムは『Ma! Ma! Ma! MANNISH BOYS!!!』)から一転、詩的な映像が浮かんできそうなフレーズが付けられ、アートワークもザ・ビーチ・ボーイズの『サーフズ・アップ』を連想させるような、ダークで陰鬱なムードを漂わせている。そこに描かれた架空(?)の動物は、おそらく前2作でモチーフとなったピンクのキリンが進化し、羽根を生やした姿なのだろう。そんなタイトル、アートワークが象徴するように、本作『麗しのフラスカ』は、決して2人がMANNISH BOYSを片手間にやっているのではないということを証明するような、充実した内容となっている。

 MANNISH BOYSは2011年、斉藤和義と中村達也が「飲みの席」で意気投合したことにより誕生する。バンド名は、シカゴ・ブルースの代表的なアーティストであるマディ・ウォーターズが、ボ・ディドリーの「I'm A Man」に対するアンサー・ソングとして、1955年に発表した曲タイトルからインスパイアされたものである。サウンドは実に多様で、ロックンロールやブルーズはもちろん、ロカビリーにスカ、レゲエ、さらにはヘヴィメタルやテクノまでも取り入れ得意のユーモアセンスで料理していく。中には有名曲のパロディや、オマージュを思わせる楽曲も含まれるが、そこには過去の音源に対する二人の熱い愛情、飽くなき憧憬が込められている。そしてどの曲でも、斉藤のギター、ボーカルと中村のドラムが音像のメインに据えられており、時にガッチリと肩を組み、時に凄まじいバトルを繰り広げているのである。

 そんなMANNISH BOYSの最新作『麗しのフラスカ』は、共同アレンジャーとして蔦屋好位置や鹿野洋平(my hawaii)を起用し、日向秀和(B / ストレイテナー、Nothing's Carved In Stone)やタブゾンビ(SOIL & "PIMP" SESSIONS)ら豪華プレーヤーをゲストに迎えている。これまでの作品では、殆どの演奏を斉藤と中村の2人でおこなってきたが、ここにきて表現の幅を広げるために新たな血を送り込んだ。それにより、シンプルでありながらも骨太で凄みのあるサウンドプロダクションへと進化しているのだ。

 例えば、冒頭を飾る「グッグッギャラッグッグ」は、アレンジが蔦屋好位置との共同名義で、日向秀和がベースで参加したスウィングしまくるロックンロール・チューン。一聴するとストレートでシンプルなバンドアンサンブルだが、景色をガラリと変えるようなブレイクの仕方は、ヒップホップからの影響を強く感じる。また、LAを拠点に活動する6人組my hawaiiから、リーダー鹿野洋平がレゾネーター・ギターやバンジョー、ウーリッツアー、Miles Senzakiがパーカッションなどで参加した「真っ赤なバレリーナ」は、黄昏時のハワイの海が目の前に浮かんでくるような、トロピカルでアコースティックな前半から、徐々にサイケデリックな展開を見せる異色の楽曲(鹿野は共同アレンジャーとしても名を連ねている)。そしてインスト曲「Jungle Hurricane」には、SOIL & "PIMP" SESSIONSのダブゾンビがトランペット、タナトスこと田中秀和がバリトンサックス、日向がベースで参加し、スカとロカビリーを融合したようなカオティックなサウンドスケープを作り上げている。

 もちろん、二人のマルチプレイヤーぶりも健在。斉藤はギター以外にもベースやシンセを弾き、中村もドラムスのほか「ダンゴムシ」ではベースを、「My Dear FLASKA」ではともにトランペットを披露している。

 歌詞も、ナンセンスな言葉遊びの中に、時折グサッとくるキラーフレーズを忍ばせる。〈フラっと酔った勢いで グチュグチュッチュッするだけ〉などと、不埒なことを歌ったかと思えば(「グッグッギャラッグッグ」)、〈悩み事のない 憧れの道を それじゃつまんないとまた引き返すのさ〉と、道無き道を進んでいく2人の「覚悟」を表明する(「レモネード」)。かと思えば、自問自答を繰り返す歌詞が哲学的な「ダンゴムシ」や、まるでアレハンド・ホドロフスキーの映画のような、鮮烈な映像が浮かぶタイトル曲「麗しのフラスカ」のポエトリー・リーディングも印象的だ。酸いも甘いも噛み分けた、百戦錬磨の2人だからこそ生み出される「Jungle Hurricane」の鉄壁のグルーヴと、いい歳して(共に50歳越え!)「うんこメーカー」などと歌えるユーモア感覚、それらが無造作にぶち込まれた、ごった煮のようなアルバムに仕上がっているのである。

 11月3日、横浜BayHallを皮切りに、全国30カ所を回るツアーを翌年1月下旬まで行なうMANNISH BOYS。これまで以上にパワフルなステージとなることは必至。今から楽しみでならない。

■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。

ブログ:http://d.hatena.ne.jp/oto-an/
Facebook:https://www.facebook.com/takanori.kuroda
Twitter:https://twitter.com/otoan69

■リリース情報
『麗しのフラスカ』
発売:10月19日(水)
【初回限定盤(CD)】 ¥3,300(税抜)
12曲+BonusTrack4曲 全16曲収録/スリーブケース仕様
【通常盤(CD)】 ¥3,000(税抜)
12曲収録

■収録曲
01:グッグッギャラッグッグ
02:Honey
03:レモン
04:曲がれない
05:Only You
06:レモネード
07:真っ赤なバレリーナ
08:Jungle Hurricane
09:ダンゴムシ
10:うんこメーカー
11:麗しのフラスカ
12:My Dear FLASKA

【Bonus Track ※初回限定盤のみ収録】
13:Mach Venus feat.東京スカパラダイスオーケストラ
(Live at RISING SUN ROCK FESTIVAL 2016 in EZO)
14:ざまみふぁそらしど feat.東京スカパラダイスオーケストラ
(Live at RISING SUN ROCK FESTIVAL 2016 in EZO)
15:LOVE & LOVE feat.東京スカパラダイスオーケストラ
(Live at RISING SUN ROCK FESTIVAL 2016 in EZO)
16:1.2.3.4 ※LEPSIM 2016 AWキャンペーンタイアップソング

■ライブ情報
『MANNISH BOYS 2016-2017 TOUR』
11月3日(木・祝) 横浜 BAY HALL
11月5日(土) HEAVEN'S ROCK さいたま新都心 VJ-3
11月6日(日) 高崎 clubFLEEZ
11月10日(木) 仙台 Rensa
11月12日(土) 盛岡 Club Change WAVE
11月13日(日) 弘前 Mag-Net
11月17日(木) Live House 浜松窓枠
11月18日(金) 岐阜 CLUB ROOTS
11月24日(木) 神戸 SLOPE
11月25日(金) 滋賀 U☆STONE
11月29日(火) 松山 WstudioRED
12月1日(木) 高松 MONSTER
12月2日(金) 岡山 CRAZYMAMA KINGDOM
12月4日(日) 高知 CARAVAN SARY
12月7日(水) 長野 CLUB JUNK BOX
12月9日(金) 富山 MAIRO
12月11日(日) 金沢 EIGHT HALL
12月13日(火) 新潟 LOTS
12月16日(金) Zepp Sapporo
12月17日(土) 帯広 MEGA STONE
[2017]
1月7日(土) 福岡 DRUM LOGOS
1月9日(月・祝) 熊本 B.9 V1
1月11日(水) 大分 DRUM Be-0
1月13日(金) 鹿児島 CAPARVO HALL
1月15日(日) 沖縄 桜坂セントラル
1月19日(木) Zepp Namba
1月20日(金) Zepp Nagoya
1月22日(日) 広島 CLUB QUATTRO
1月24日(火) 周南 RISING HALL
1月27日(金) Zepp Tokyo

http://mannishboys.jp/tour2016-2017

■オフィシャルサイト
http://mannishboys.jp/

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