日本の歌謡曲は“不倫”をどう描いてきた? コンピ『禁じられた愛の唄』収録曲を読み解く

 歌謡曲、演歌を中心とした企画CD『禁じられた愛の唄』が9月28日、発売された。本作は、いわゆる“不倫ソング”を集めたコンピレーションで、過去にも失恋ソングや切ないバラードを集めた、“裏テーマ=不倫”のCDはあったものの、正面から取り組んだ意味では“史上初の不倫ソング集”と言えるだろう。

 これは、年初からほぼ毎月のように勃発する不倫スキャンダルに、ある種便乗(?)する形で企画されたアルバムで、ジャケットもどことなく“センテンス・スプリング”なタッチだ。

 昨今は、ネット上でのバッシングが加わりその風当たりはさらに強くなっているが、古来から“不倫”は大きな話題を集めてきた。極めて私的な事情であり、当事者間以外はまったく関係がないにもかかわらず、その人の印象が180度異なるほど、衝撃的なのだろう。

 その反面、不倫を題材とした文学や映画などの芸術作品は決して少ないものではなく、こと歌謡曲・演歌の中でもヒット曲が数多く生み出されてきた。また、単純に“不倫”ソングと言っても、そのタイプは様々だ。以下、パターンごとに探ってみよう。

 まず、最も多いのが迷いながらも溺れていく“苦悩型”。

〈ホテルで逢って ホテルで別れる 小さな恋の幸せ〉(立花淳一「ホテル」、後に島津ゆたかのカバーによってさらにヒット)
〈季節そむいた 冬のつばめよ 吹雪に打たれりゃ 寒かろに〉(森昌子「越冬つばめ」)

 などは、この典型だ。また、岩崎宏美「シンデレラ・ハネムーン」も、ファンキーな歌唱や、コロッケの顔真似(?)の印象が強いが、実は〈日ぐれにはじまり/夜ふけに別れる〉出口のない恋に思い悩んでいる。

 次に、迷いの境地を抜けた“悟り型”。

〈あなたが好きだから それでいいのよ たとえ一緒に歩けなくても〉(テレサ・テン「愛人」)
〈愛し合う時に何もかも うばい あうのよ〉(金井克子「他人の関係」)
 「愛人」では、テレサの繊細な歌声がいっそう奥ゆかしさを助長し、また「他人の関係」も、一見冷めているようで熱い想いも見せ、そのツンデレ感(?)も魅力の一要素だろう。

 さらに、本命ではない自分に戸惑う“劣勢型”では感情が大きく揺らいでいる。

〈誰かに盗られる くらいなら あなたを殺して いいですか〉(石川さゆり「天城越え」)
〈本音をいえば 結婚したい まさか愛してる〉(アン・ルイス「あゝ無情」)

 「天城越え」は2015年末まで過去9回もNHK紅白歌合戦で披露され、その度に鬼気迫る熱唱や表情は、今や年末の風物詩だ。また、「あゝ無情」も、男の裏切りに悩むことで、単なるアゲアゲ・チューンではない、楽曲の深さを表している。

 この他にも、森進一「年上の女(ひと)」や大川栄策「さざんかの宿」など、既婚女性との道ならぬ恋を歌った“男性型”も存在する。

 ちなみにこれらの楽曲は、阿久悠、吉岡治、なかにし礼、荒木とよひさ、有馬三恵子、湯川れい子など錚々たる面子が手がけており、他にも秋元康(ジェロ「海雪」)、松尾潔(「Ti Amo」、本CDでは湖月わたるのカバーを収録)、谷村新司(高田みづえ「ガラスの花」)、高見沢俊彦(柏原芳恵「し・の・び・愛」)など日本を代表する作詞家やシンガーソングライターの名作が収録されている。

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