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上原ひろみはなぜ世界のトップ・プレイヤーであり続けるのか? 柳樂光隆が新作『SPARK』を分析

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柳樂光隆
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 上原ひろみ『SPARK』が、全米ビルボード・ジャズ・チャート(4/23週付)において初登場1位を獲得した。アルバムは、総合ジャズ・チャートに加えて、トラディショナル・ジャズ部門でも首位を獲得。同部門で1位を獲得したのは日本人アーティストとして初の快挙だ。とはいえ、このニュースを聞いても、「あ、まだ1位取ってなかったんだ」くらいにしか思わなかったのが正直なところだ。上原ひろみなら、もう一位は取っているものだと当たり前のように思っていた。

 例えば、2011年には、上原が参加したトップ・ベーシスト、スタンリー・クラ―クの『THE STANLEY CLARKE BAND FEAT. HIROMI』が第53回グラミー賞のベスト・コンテンポラリー・ジャズ・アルバムを受賞しているし、2013年にはジャズにおいて最も権威のある雑誌ダウンビートの表紙を飾っている。これは秋吉敏子以来で33年ぶりのことだ(ちなみに秋吉敏子は『国際ジャズ名声の殿堂』入りしているレジェンドで、ジャズ・ビッグバンドの作曲家として、世界的な名声を得ている。かのマリア・シュナイダーも彼女への尊敬を度々語っている)。NYの名門ジャズクラブ、ブルーノートでは毎年のように1週間公演を行っているし、世界中のジャズフェスティバルにも招へいされている。彼女が世界的なトップ・プレイヤーであることは、もはや当たり前のことだったのだ。

 なぜ、上原ひろみは世界のトップ・プレイヤーであり続けているのか。まずピアニストとしての圧倒的な実力があげられるだろう。そもそもアメリカのジャズシーンなんて超絶テクニックのミュージシャンの集まりだ。上手いやつなど、いくらでもいる。その中でも彼女はいちピアニストとして輝きを放っている。

 上原と言えば、ピアノと戯れるように、延々とインプロヴィゼーションし続けるというようなイメージがある。しかも、ピアノトリオだろうが、デュオだろうが、ピアノソロだろうが、グルーヴすることを止めずに、いつまでも湧き出続ける泉のように次々とフレーズが溢れ出てくる。そして、超絶技巧を必要とするような難解な楽曲でさえもさらりと弾いてしまうそのテクニックもおなじみだ。しかし、ピアニストとしての彼女のすごさはそれだけではない。ピアノという楽器を自分の音楽に合わせてコントロールするということに圧倒的に長けている、というのが個性にもなっている。そもそもピアノという楽器は、指で鍵盤を推せば誰にでも音を鳴らし、音階を奏でることができる簡単な構造にもかかわらず、そのピアノが持っている音を最大限に鳴らすのはとても難しい楽器だ。というよりは、実はきちんと鳴らすことが非常に難しい。ピアノを完ぺきにコントロールできている本当にすごいピアニストは一音の表現力が全く違う。上原ひろみはその能力が圧倒的に高い。ピアニッシモ(弱音)のその繊細な美しさを遠くまで届け、フォルテッシモ(強音)はその力強さや鋭さを心地よく響かせる。そして、そもそもピアノの音自体を大きく鳴らすことができる。スタンリー・クラークが「今まで共演した中でマッコイ・タイナーとひろみの音は特に大きかった」と語るほどのパワーをピアノから引き出すことができる稀有なピアニストなのだ。

     
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