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井上陽水のライブは現在も日本最高峰 洗練と野生が交錯した『UNITED COVER 2』ツアーレポート

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 この日のライブ中盤、井上陽水はまるで独り言のように「私という人間は、みなさんからどんなふうに見られているんでしょうね。やっぱり変わり者に見えてるのかな」と(シニカルな笑顔とともに)つぶやいていたが、その言葉を聴いて筆者はとても腑に落ちた気がした。誤解を恐れずにいうと、井上陽水は不世出の天才であると同時に、日本のポピュラー音楽史上、最大級の変わり者である。こんなにも捉えどころがなく、こんなにも輪郭が見えず、こんなにも奥深い音楽世界を持ったアーティストは他には絶対に存在しないのだから。

 「井上陽水 コンサート 2016『UNITED COVER 2』」、東京・NHKホール公演(3月19日)。大ヒットを記録した『UNITED COVER』(2001年)の第2弾『UNITED COVER 2』を中心としたツアーの終盤となるこの日のライブで井上陽水は、45年に及ぶキャリアを自由に行き来しながら、めくるめくポップミュージックの世界を濃密に描き出してみせた。

 開演時間になると、まずはバンドメンバー(長田進/G 今堀恒雄/G 美久月千晴/Ba 山木秀夫/Dr 小島良喜/Key fasun/Cho Lyn/Cho)がステージに登場。インド的な旋律が広がるなか、ゆっくりとした足取りで井上陽水が姿を見せると、大きな拍手が起こる。サイケデリックなサウンドに合わせ、手で摩訶不思議なラインを描きながら歌い始めた最初のナンバーは1978年のシングル曲「ミスコンテスト」。スタンドマイクから常に15cm〜20cmほど離れ(決してマイクに口を近づけることはない)、得体のしれないダイナミズムを備えた声を響かせた瞬間、会場は一瞬にして井上陽水の世界に染め上げられる。声がゆっくりと広がるのではなく、いきなり会場全体を包み込んでしまうボーカルはやはり唯一無二だ。

 最初のピークは1993年のヒット曲「Make—up Shadow」。ロックンロールと歌謡曲とAORが混然一体となったバンドサウンド、〈何かが今日はリアルでシュールな〉という語感重視の歌詞ーー意味はよくわからないが、その言葉の響きには抗いがたい中毒性があるーーがひとつになったこの曲は、彼の特異なポップセンスがもっとも美しく結晶化されたナンバーだと思う。アコースティックギターを格好良く弾きながら、美しい倍音を奏でる歌声も本当に素晴らしい。今年68歳になる陽水だが、体全体を鳴らすようなボーカリゼーションはまったく衰えていない。

 その後は椅子に座って、1972年の1stアルバム『断絶』の表題曲「断絶」を披露。「それにしても『断絶』ってすごいですよね…」と苦笑しながら歌われたこの曲は“恋人と愛を交わし合いたいと願っている男が、恋人の父親に止められる”という内容のフォークソング。当時の時代背景を考えると、戦中派と団塊の世代のディスコミニケーションがテーマであることは明らかだが、互いの無理解を斜め上から皮肉っているようなユーモアが含まれているところがこの曲の魅力だろう。どんなにシリアスな状況を歌っていても、いつも軽やかで、どこか現実感がない。そんな独特のバランス感覚もまた、彼の音楽が時代を超えて支持される理由のひとつなのだと思う。(いつも斜め上の視点を持つというスタンスは、陽水と親交の深いタモリとも共通している。ちなみにこの日のライブでは陽水がNHK「ブラタモリ」のオープニング曲、エンディング曲として提供した「女神」「瞬き」も演奏された)

     
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