>  > 細野晴臣と鈴木惣一朗が『録音術』を語り合う

『細野晴臣 録音術』出版記念対談

細野晴臣と鈴木惣一朗が語り合う、『録音術』のツボ「『できちゃったものは仕方ない』というのが、僕のやり方」

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 鈴木惣一朗著『細野晴臣 録音術』(DU BOOKS)は、間違いなく労作だ。だが同時に、もしこれを音楽の録音に興味がある人が読む専門書とするならば、これほど不思議な一冊もなかなかないだろう。

 “録音術”と書いてあれば、たいていの読者は「あのとき、あのアルバムでこういう機材でこんな作業を行った」という類の実証的な証言や資料を期待する。もちろん、そうした作業面、資料面でのリサーチも行われてはいるのだが、本書がより明確に焦点を当てているのは、細野とのレコーディングに付き合ったレコーディング・エンジニアその人たちがどんな出自で、どんな性格で、そのとき何を考えながら仕事をしていたのかを探るというもの。1972年の『HOSONO HOUSE』に始まり、2013年の『Heavenly Music』に至るソロ・アーティスト細野晴臣の足跡を、それぞれの作品に関わったレコーディング・エンジニア7人(吉野金次、田中信一、吉沢典夫、寺田康彦、飯尾芳史、原口宏、原真人)に話を聞いてゆく。彼らは細野が志していた録音術を熟知しているわけではなく、「どういうことをしたいんだろう?」と葛藤し、合意できるツボを探りながら仕事をしていたことがよくわかる。

 しかも、その話の聞き手は、細野自身ではない。実験と苦闘を目撃してきた職人たちに、淡々と話を聞いてゆくのは、鈴木惣一朗。ワールド・スタンダード、ソギー・チェリオス、エスタシオンといった自身のプロジェクトや、プロデューサーとしてハナレグミなどさまざまなミュージシャンの作品を手がけてきた鈴木のデビューは、1985年、細野が主宰したレーベル、ノン・スタンダード(NON-STANDARD)から。言ってみれば30年に及ぶ師匠と弟子なわけで、師に代わって音楽制作にまつわる真相を解き明かすべくこの場を設けたと解釈することもできる。だが、そこだけに注目して本書を読むことも、なんだかすこし的を外してしまっているようにも思えるのだ。

 そもそも、師弟関係という呼び方すら、二人は拒否するだろう。歳の離れた友人と言うには語弊があるが、上下関係と言うには言葉に遠慮がなく、会話はいつも心地よい間とグルーヴに満ちている。長期にわたって収録した二人の対談を本にした2冊『分福茶釜』(2008年/平凡社ライブラリー)、『止まっていた時計がまたうごきはじめた』(2015年/平凡社)を読めば、その丁々発止のやりとりは存分に味わえた。

 『録音術』が発行されてから、細野晴臣、鈴木惣一朗のふたりが行う対談(ラジオ『Daisy Holiday!』の収録と並行して行われた)は、これが初めてだという。『分福茶釜』『止まっていた時計がまたうごきはじめた』の愛読者としては、あの会話の心地よさが野暮な質問で分断されることは本意ではない。なので質問は最小限にとどめて、二人の会話を中心にしてグルーヴを再構成してみた。(松永良平)

「みんな細野さんのことが好きだってことを細野さんに知らせたかった」(鈴木)

細野:やっと正月に読めたの。おもしろかったよ。僕が知らないことがいっぱい出てた。

鈴木:そうでしょ。

細野:「エンジニアの人って、なに考えてんだろ?」って思ってたけど。

鈴木:そこだ。そこを知ってほしかったの。

細野:みんなクールだよね。

鈴木:そうなんですよ、かっこいいなと思いました。

細野:職人というかな。

鈴木:匠(たくみ)ですよね。

細野:自分の仕事をこつこつとまっとうしていく感じで、ときどきそこに僕が顔出したりしてみんな戸惑う、とかね。

鈴木:これはちょっと語弊もありますけど、細野さん、どんどんいろんなことが忘却の彼方というか、素敵な思い出に消えてってますよね。

細野:素敵な思い出も消えちゃう(笑)

鈴木:それで、これは周りの人のほうが覚えてるという状況にだんだんなってきて。

細野:それは確かにそう。

鈴木:僕も僕なりに細野さんとの思い出をいろいろ忘れないようにしてますが、より現場で細野さんを見てきたエンジニアに話を聞きたかった。それが僕の素朴な動機です。

細野:うん。

鈴木:で、会ったことのある人と会ったことのない人がいて。会ってみたかった吉沢(典夫)さん、おっかなかった田中(信一)さんとあらためて会いたかったとか。

細野:田中さん、別に怖くないでしょ?(笑)

鈴木:いや、怖くなかったけど、イメージですよ(笑)。みなさんそれぞれ、僕にとっても思い入れのある人ですが、ぶち抜き40年くらいの細野さんのキャリアを現場で見てきた人たちなわけだから、その話をしたかったし、みんな細野さんのことが好きだってことを細野さんに知らせたかった。

細野:それは、僕はわからないよね。

鈴木:やっぱりね、恥ずかしいわけよ! 男同士だもん。

細野:そりゃそうだ。「好き」とか言われたことないもん。

鈴木:それをさ、僕に言ってくれるわけじゃない?

細野:「好き」とは言ってないよ。

鈴木:もう一回読んでくださいよ(笑)。行間からあふれでるみなさんの思いがあるわけですから。

細野:そうか。そんなには読んでなかったな。

鈴木:そんなに孤独じゃないんですよ。

細野:別に孤独だなんて言ってないよ(笑)

鈴木:いや、孤独が好きなのは知ってるから。

細野:孤独じゃないと音楽は作れないからね。ゲーテもそう言ってるからね。「孤独じゃないと物は作れない」って。

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