Fly or Dieのライブは、めくるめく“メイキャップ・ショウ”である 矢野利裕がツアー初日をレポート

Fly or Dieツアー初日レポ

 マキタスポーツ presents Fly or Die『矛と盾』発売記念ツアーの一発目が3月5日、渋谷WWWでおこなわれた。ゲストに選ばれたのは、ゴールデンボンバーと同期で、彼らの試みと共振するパフォーマンスを続けるヴィジュアル系バンド、Jin-Machineである。音楽とともに笑いを提供するふたつのバンドによって、この夜は、見事なヴィジュアル系エンタテイメント・ショウとなっていた。

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対バンのJin-Machine

 ちょっと状況論的に。音楽がデータ化されるにともなって、一回的なライブ体験の価値が相対的に上昇したとよく指摘される。CDの売り上げが下がる一方で、フェスへの動員が上がっていることもよく言われる。分析の妥当性は措くが、ライブが重要視されている現状はたしかなのだろう。したがって乱暴にまとめると、現在、音楽に対しては参加性・体験性が重視されている、と言える。現在、多くのバンドがこのことを自覚しており、ライブをアトラクション的に演出して、音源では味わえない体験を提供しようとする。振り付け満載で、体と体をぶつけ合い、触れ合い、魚を投げ合い(!?)するJin-Machineのライブは、まさにアトラクション型のライブとして圧巻の完成度だった。とくに、阿波踊りのように体をくねらせながら会場を右に左に揺れ動く一連の流れがクセになる。また来たくなる。観客席とステージが一体となったライブで、見事に会場が熱くなった。Jin-Machineのようなアトラクション型のライブが気づかせてくれるのは、音楽が身体の動きとともにある、という考えてみれば当たり前の事実である。歌声は声帯の振動によって発されるし、楽器を演奏するときは手足が動いている。聴いているほうも、振り付けをせずとも、激しく踊っていなくとも、体を動かしている。

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Dar'k~ness(Vo.)としもべ(キャンタマコ)

 今回のライブで僕が強烈に感じたのは、Fly or Dieが堂々たるダンスバンドだということだ。もちろんFly or Dieの楽曲は、ほぼ一貫してヴィジュアル系的なアレンジが意識されているが、多彩な音楽性の底に流れるのは、実はファンキーなノリなのではないか。このことを本人たちが意識しているかどうかはわからない。しかし、Fly or Dieの母体バンドにあたるマキタ学級が、「はたらくおじさん」や「Oh! ジーザス」といった曲で、ファンキーでソウルフルな演奏をしていたことはたしかだし、そこで聴けるハネたドラムやベース、あるいはファンキーなギターは、Fly or Dieにも変わらずに流れ込んでいる。それが発揮されるのは、例えば、ドラムが弾む「ダーク・スター誕生」や、ベースが小気味良い「怨歌~あんたじゃなけりゃ」、あるいは、4つ打ちでリズムキープされる「愛は猿さ」、カッティングするギターがファンキーな「あいしてみやがれ」といった曲たちである。グルーヴィーなこれらの曲で踊っているだけで、ライブとしてはとても満足である。そのうえさらに、ザ・スペシャルズ「Little Bitch」顔負けの2トーン・スカ「中年」まで披露されたら、どうにも踊らずにはいられない。

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 それにしても、ゆったりとした裏打ちが印象的な「矛と盾」もそうだけど、Fly or Dieには、不思議とどこか中南米的なノリが、いや正確には、中南米を経由したイギリスのロックバンド(パッと思い浮かぶところだと、それこそ「Little Bitch」をカヴァーしていたジ・オーディナリー・ボーイズとか)のノリがある気がする。アルバムだと、サウンドが全体的にもう少しヴィジュアル系に寄せられている印象があるが、観客を前にしたライブだとダンスバンドとしてのグルーヴ感がかなり解放される。その意味ではFly or Dieは、Jin-Machineとはまた違ったかたちのライブバンドなのかもしれない。Fly or Dieは、グルーヴィーな演奏で観客を巻き込むという、実にストレートな、しかしそれゆえに文脈もウンチクもいらない、強度のあるライブを披露する。その意味では、Fly or Dieもマキタ学級も変わらないと言えば変わらない。

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ライブ中、Dar'k~nessの横でしもべが振り付けを披露

 ひと言に踊らせると言ってもいろいろあって、それこそJin-Machineのように楽しく振り付けることもひとつだ。Jin-Machineをヴィジュアル業界の先輩として「Jin-Machine兄さん」と呼ぶFly or Dieも、「矛と盾」に振り付けを設けたり「Fly or Die!」という決めポーズをさせたりすることで、観客の体をいかに動かすかという点を工夫している。「あいしてみやがれ」直前のMCでは、「愛させてください」という言葉とともに観客を拝ませることで謎の疑似宗教空間が出現しており、これは笑った。ダー様(Dar'k~ness(Vo.))は「この不思議な光景を外国人に見せたい」みたいなことを言っていたが、これもマキタスポーツ一流の批評精神の表れだ。つまり、「(お)約束」を徹底させることでガラパゴスな価値体系を生み出すのがヴィジュアル業界のビジネスモデルだ、ということである。この疑似宗教に乗ることができれば、そりゃ物販も喜んで買うさ(うん、僕も買ったよ、CDと生写真)。さらに面白いのは、ライブ中にも説明されていたように、Fly or Dieのファンシステムがポイント会員のような制度になっていることだ。Fly or Dieに忠誠を誓うファンは、「野良ローズ」から始まって「ロイヤル・ローズ」を目指すべくライブに通い続けることになる。マックス・ヴェーバーも驚き(?)の宗教と資本主義の蜜月だが、ここで重要なことは、拝むことも物販を買うことも、踊ったり振り付けに合わせたりすることと同様、身体の動きだということである。さまざまな水準で、みんなの身体を動員することがライブ体験の本領なのかもしれない。

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