ファン文化が生んだ音楽享受の場――ハロプロ系DJクラブイベントの現在

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『ハロプロナイト』2015年10~11月開催分のフライヤー。

 リスナーとして音楽を享受する方式はいくつかあるが、「レコードやCDを個人的に聴く」と「アーティストのライブへ出向いて大人数で大音量で聴く」の中間ぐらいに位置するのが、「ラジオやストリーミングなどで聴く」あるいは「ディスコやクラブへ出向いて聴く」という方法論ではないだろうか。

 ディスコを経由してのDJ/クラブカルチャーシーンでは、その場に特化した音楽、いわゆるインストのダンスミュージックが進化してきたが、その一方で「ボーカル有りの歌ものソングをクラブで聴く」という在り方もまた同時にあった。例えば日本では、パンクロックを中心にプレイされるDJイベント『LONDON NITE』(大貫憲章氏主催)は1980年から現在まで続いている。他にもあらゆるジャンルに特化したDJイベントは無数にある。

 これはもちろんロックに限らず、ポップスにおいても同様である。そこではファン活動と結びつくケースが多々見られる。80年代女性アイドルのビッグネーム・おニャン子クラブの解散日である9月20日に、ファン有志によって毎年開催されているのが『おニャン子クラブビデオコンサート』(今年2015年で28回目)であり、ファンたちでその場を共有するという意味ではこれもDJイベントの一種といえるだろう。本式のDJイベントとしては1994年末にスタートし現在も続く『アイドルナイト』(AKEO氏主催)、1996~2013年に行われていたアイドル楽曲含むJ-POP DJイベント『申し訳ないと』(ミッツィー申し訳氏主催)などがある。

 そして現在の女性アイドルのファンシーンにおいても、個々のグループに特化したDJイベントというものはいくつか見られる。そのなかのひとつにハロプロもある。本体同様、ファンイベントの歴史も古く、初期のこうしたイベントでもっともメジャーだったのが『爆音娘。』だろう。

 第1回は2001年9月14日の金曜深夜、会場は新宿スペース絵夢だった(筆者も客の一人として参加)。当時のモーニング娘。の最新シングルは「ザ☆ピ~ス!」で、新曲「Mr.Moonlight ~愛のビッグバンド~」のリリース前というタイミング、国民的アイドルだった娘。およびハロプロに特化したDJイベントが生まれたのは自然な流れだった。その後は主に新宿パセラのフロアを1階まるごと貸し切っての開催が定例化し、地方でも『大阪爆音娘。』『新潟爆音娘。』といった名称で開催、全国に爆音の輪が広がった。レギュラー本体の爆音娘。の開催は2008年6月20日の『爆音娘。20th Anniversary ~そのすべてのオタに~@新宿パセラ』が現在のところ最後となっており、そのエッセンスは慶應モーニング娘。研究会による『三田爆音』、早稲田大学モーニング娘。研究会による『早稲田爆音』など、大学の学園祭での開催という形を取って後世に伝えられている。

 では2015年現在、ハロプロに関するDJイベントシーンはどうなっているのか、それを紹介していくのが本稿の目的である。ここではいくつかあるイベントのうち、3つのイベントに絞って話を進めていく。今回の記事執筆にあたっては、3イベントそれぞれの主催者にメールにてミニインタビューを敢行、興味深い談話が訊けたのでそれらも織り混ぜていく。

ヲタ王道『ハロプロナイト』

 爆音娘。なき後、現在もっともメインストリームなハロプロ系DJイベントになっているのが『ハロプロナイト』ではないかと思う。会場は主に新宿URGA、または大塚Deepaにて月2~3回ぐらいのペースで開催。そのイベント名が指し示すとおり、ハロプロ系グループおよび関連グループの楽曲のみがプレイされるDJイベントである。主催そしてメインDJを務めているのはクニオ氏。始まりはクニオ氏が松浦亜弥の大ファンになったという2001年までさかのぼる。

 「当時僕は1960年代のRock,Soul,R&BをかけるDJと岡村靖幸さんのファンイベントを行っておりました。そのノウハウを活かして松浦亜弥ちゃんに特化したパーティーを作りたいと思い、『あややナイト』を立ち上げました」

 最初から『ハロプロナイト』だったわけではなく、当初は松浦亜弥楽曲オンリーの『あややナイト』としてのスタートだったという。

 「その後に、『ごっちんナイト』『ミキティナイト』『ちゃーみーナイト』『なっちナイト』『Wナイト』『ラブリーナイト』と、立て続けにハロプロメンバーのファンイベントの立ち上げや運営に関わらせていただきました」

 それぞれのイベント名がどのアイドルを指しているのか、ハロプロファンなら言わずもがなだが、一応記しておくとそれぞれ「後藤真希」「藤本美貴」「石川梨華」「安倍なつみ」「(辻希美と加護亜依のユニット)W」「高橋愛」に特化したDJイベントという意味。同時期に開催されていた爆音娘。があくまでハロプロオールジャンルだったことを考えると対照的である。これらのイベントの主催者はそれぞれ別にいて、クニオ氏は運営サポートの役回りをしていたようだ。

 「そして、何かお祭り的に合同イベントをやろう!となり、使いやすい総称だった「ハロプロ」を網羅するDJイベントをスタートしました。それが『ハロプロナイト』です。その後ハロプロナイトがレギュラー化するとは思わなかったのですが、当時松浦亜弥ちゃんの活動が縮小(2008年頃)していったときに、Berryz工房や℃-uteの楽曲の超越した魅力に気がつき、ハロプロ自体に更なる理解を深めたくなってしまったのが決定的でした。当時のモーニング娘。の楽曲もハイレベルで面白かった。この辺は継続の一つのきっかけではあります」

 個人的な体験談になるが、筆者が初めてハロプロナイトに遊びに行ったのも2008年頃だった。その頃は、ハロプロナイトという名前は聞き覚えはあったが、たまに開催される爆音娘。に行くだけで十分満足していたので、なかなか足を運ぶ機会がなかった。それが友人の誘いもあり、ちょっと物見遊山的な好奇心で行ってみたのが最初。

 ハロプロナイトと爆音娘。が異なっていた点はいくつかあるのだが、まず挙げたいのは、参加者たちの享受スタイルの違いである。ハロプロDJイベントにおいては、「リズムやビートに委ねて体を揺らす(=クラブノリ)」と「曲に合わせてアイドル本人と同じ振り付けをする(=振りコピ/フリコピ)」の二つに大別できる(これはコンサート会場での応援スタイルにも部分的に通じるところがある)。爆音娘。の現場では――時期によって移り変わりもあったが――基本的には前者のクラブノリ派の割合が高かった。それがハロプロナイトでは、後者のフリコピ派の割合が高めだったのである。

 しかも皆、フリコピスキルの精度が異様に高い。後者の派の要素にはフリコピの他にいわゆる「ヲタ芸」も加わるが、正直に言うと、筆者はそれまでフリコピやヲタ芸には少なからぬ偏見があった。「キモッ…」と反射的に思ってしまっていたわけだ。それが、楽曲に適したシンクロされた動き(「振り付け」なのだから当然だが)を完璧に再現している姿、アスリートさながらに高速ロマンスを打つという馬鹿馬鹿しくもある種の神々しさが認められる姿、そういった光景を目の当たりにしてしまうと偏見は自然と払拭されていく。そして気がつくと自分もフリコピをやるようになってしまっていた……。

 DJイベントとフリコピには相性の良さがある。まず、フリコピには習熟による達成感があり、イベントに通う内に徐々に上達していくのが自分でもわかり、それが楽しさのひとつでもある。また、ライブ会場では大きく動き過ぎると隣席の人の迷惑になってしまうということもあるのだが、DJイベントのフロアではあまり気にしなくても大丈夫。さらにハロプロナイトでは、楽曲プレイにはCDJではなくDVDJが用いられており、音と同時に映像もスクリーンに映し出される。その際の映像チョイスは、通常のミュージックビデオの他に「Dance Shot Ver.」と呼ばれる振り付けバージョンが使われることが多い。これはまだ振りの覚えが不完全な場合の補佐にもなる。

 フリコピ文化は、個人や複数人のチームによる「踊ってみた」動画アップの流行や、さらに男性踊り手グループで今年8月には中野サンプラザでの単独公演を実現させてしまった「むすめん。」など、その広がりを見せている。

 「(ハロプロナイトが)DJイベントとして珍しく思われるのは、特別ミックスを行ったり矢継ぎ早に曲を繋いでいくようなことはせず(特集時や一部の曲を除く)、一曲フルサイズで体感して欲しい曲を繋いでいくのが特徴的と思います」

 と話すクニオ氏だが、これもまたフリコピ対応の一環として機能している。とはいえ、ハロプロナイトはフリコピ一色というわけでもない。

 「女性の参加者限定ですが中盤にカラオケタイムを作り、アイドル擬似体感をしていただくよう案内しています。これは開催当初から飲み会、オフ会の延長と思って意識している部分が大きいです。また合間を見ては毎回、遊びにいらしていただいた皆さんと話が弾むような雰囲気作りも兼ねて直接挨拶を行うようにしており、できるだけ新旧ハロプロを好きな人たちに繋がってもらえるようなイベント進行を心掛けています。実際主宰、DJ、スタッフ、お客さん、みたいな壁はほとんどなく、僕自身もお客さんの気持ちです。そんな雰囲気のイベントはなかなかないよ、との言葉を聞くときが一番嬉しいです」

 女性参加者限定のカラオケタイム、アットホームな雰囲気はハロプロナイトの大きな特徴だろう。

 また、前述の爆音娘。と同様、ハロプロナイトも地方開催を積極的に行っている。これまで国内主要都市(主に札幌、東京、名古屋、大阪、広島、福岡、沖縄)での開催実績があり、日程の大抵のケースは、ハロプロ関連グループの地方コンサートと同日あるいは翌日に合わせられていることが多い。例えば先日10月12日には大阪の日本橋R/H/Bで『大阪Juice=Juice Night』が行われたが、これは同日のJuice=JuiceのNHK大阪ホールのコンサートに合わせたもの。また、イベント内容もこの日はJ=J楽曲オンリーで、フレキシブルに変化する。

 地方開催のみならずフランス、ドイツ、アメリカ、台湾といった海外開催も果たされており、これもハロプロ関連グループの海外コンサート日程に合わせて行われるケースが多い。そもそもクニオ氏は、元々の活動芸名は「魅惑のクニオ♂」と名乗っており、ハロプロ以外のジャンルのDJイベントも精力的に行っている。アニメ「マクロス」シリーズの関連楽曲のみで構成される『マクロスナイト』、アニメソングやボーカロイドソング等がメインの『WOTAKU WORLD WAVE』など多数。これらの活動が実を結び、フランス・パリでの『JAPAN EXPO』出演経験もあり。

 「僕はDJ活動と同時にバンド活動を行っていたのですが、そのときの名前を「魅惑のクニオ♂」としていました。ライブハウスやクラブのスケジュール表で文字だけでも目立つ必要があったのと話題にしてほしいためにこの名前にしました。取り返しがつかないので芸名的な意味合いで単身でDJやLIVEを行うときに使用しています。ただ、ハロプロナイトでは主役はハロプロの曲でありメンバーであるため「魅惑のクニオ♂」が目立つ必要がないのと、自身もプライベート的にハロプロを好きで趣味で愛好している意味も込めて「クニオ」で行く方がしっくりきています。今でも一個人のお客な立場でアイドルを応援したい気持ちが強いです」

 「ただ2009年、2010年のJAPAN EXPO時には「魅惑のクニオ♂」として、「HANGRY&ANGRY」「モーニング娘。」さんご本人たちのライブ前後にDJをさせていただきました。JAPAN EXPOは彼女たちが行く前から僕がDJをしていたのでこうなってしまいましたが例外はこれくらいと思います。ハロプロファンで行くときは本当に趣味全開で行きたいです」

 今後のハロプロナイトの展望についても訊いた。

 「14年続き、毎週のように開催ができ、なおかつ毎回新鮮さを保てるのはハロプロメンバーや作品の魅力の力によるものですが、このイベントに集まっていただける方々の作り出した空気そのものが大変な文化だと思っているので、この感覚を継承できる主宰者を育成し同内容のことが世界各地で開催できるようにしたいです」

 「クラブイベントが怖いとか怪しいとか言われる人がいますが、それは『ハロプロナイト』に関しては間違っています。一度遊びに来ていただければわかると思いますが、僕自身も最初はアイドルファンの友人がいなく色々わからないことがあったので、こういったイベントを企画しインターネットや街中やコンサート会場などでフライヤーを配布しコミュニケーションの機会を増やすことで少しづつ楽しさが広がっていきました。まずは傍観もOKですので、お時間あれば遠慮なくいろんな方々を見てお話していってください。皆さんそれだけでもきっと大きな愛でもてなしてしまうことでしょう。僕に関していえば様々な質問も大歓迎ですので、遊びに来れなくてもtwitter、facebook等でもお話したいですね」

■『ハロプロナイト』公式ブログ
http://helloprojectnight.blog37.fc2.com/

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