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書籍『スタジオの音が聴こえる』をめぐる対談

高橋健太郎 × 片寄明人、“スタジオの音”を語り合う 片寄「スタジオは幻想が生まれる場所」

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 音楽評論家であり、レコーディング・エンジニアとしても活躍する高橋健太郎氏が、書籍『スタジオの音が聴こえる 名盤を生んだスタジオ、コンソール&エンジニア』を、DU BOOKSより6月30日に上梓した。同書は、雑誌『ビートサウンド』および『ステレオサウンド』にて、約5年間にわたって掲載された同名連載を一冊にまとめたもので、おもに60〜70年代にかけて作られた世界中のインディペンデント・スタジオにまつわるエピソードを綴ったものだ。時代の名盤といわれる作品は、どんな機材を使い、どのような手法で録音されたのか。その秘密に迫ろうとする本書には、かつて「Soma Electronic Music Studios」を訪れた経験を持つ、GREAT3・片寄明人氏も大いに惹き付けられたという。そこで今回、リアルサウンドでは両者の対談を実現。本書の制作秘話から、スタジオに潜む“マジック”について、さらには日本の音楽スタジオにまつわるエピソードまで、大いに語り合ってもらった。(編集部)

「スタジオの音にフォーカスしながらレコードを聴いてみたくなる」(片寄)

——本書には、数多くのユニークな音楽スタジオについての物語が、そこで生み出された名盤についての貴重なエピソードを交えつつ、活き活きと綴られています。すでに現存していないスタジオについても語られていますが、どのようにしてこれらの物語を執筆したのでしょうか。

高橋健太郎(以下、高橋):この本に関しては、1歩2歩、足を踏み入れたことがあるスタジオがいくつかあるだけで、基本的には日本で手に入る情報をベースにしています。逆にいうと、ちゃんと取材ができていたら、ひとつのスタジオを取り上げただけで一冊の本になってしまうくらいの、すごく大変な仕事になりますよね。取材なしだったからこそ、コンパクトなものにまとめられたという面はありますね。

片寄明人(以下、片寄):ある意味、妄想的な部分もあるじゃないですか。そこがむしろファンタジックで、読みものとしてもとても面白かったです。本書に出てくる断片的なエピソードはどうやって収集したんですか。

高橋:mixiが全盛期だった時代に、スタジオや機材について話し合うマニアックなコミュニティがあったんですよ。20人ぐらいしかいないんですけれど、機材のメンテをやっている人とか、アメリカでずっとエンジニア修行をやっている人、プロのエンジニアや、プライベートでスタジオを持っている人などが所属していて、みんな凄まじいほどの機材オタクだったんです。eBayやVintage Kingで常にヴィンテージ機材をチェックして買っているような人たちで、たまにオフ会とかやるんですけれども、全員狂った人でしたね(笑)。

片寄:まぁそうでしょうね(笑)。

高橋:アメリカにもやっぱり、そういう人たちが多くて。Gear Slutzという掲示板があって、そこではマニアが延々、写真で「この卓知ってる?」とか、動画で「これを開けると基盤がこうなっていて、コンデンサがこうで……」みたいな感じで情報交換している。あと、スティーヴ・ホフマンっていうマスタリング・エンジニアの掲示板とか、オーロラ・オーディオというメーカーの「ジェフに聞け」という掲示板とかも面白いですね。そういうのを10年くらいひたすらチェックしていたら、頭の中にだんだんと地図が出来てきました。

片寄:この本にも出ているシカゴのSoma Electronic Music Studiosには、僕も7回ほど行きましたけど、オーナーのジョン・マッケンタイアもそういう掲示板が大好きみたいでした。暇があると、メーリングリストかなにかで、13台くらいしかないといわれるTRIDENTのAレンジの行方を調べたりして、「一時期レニー・クラヴィッツが持ってた1台が行方不明で、どうやら日本にあるらしいんだけど、お前知っているか?」って聞かれたりしました。小林武史さんがレニーのスタジオから買ったという噂を耳にしたよって伝えたら、「それかもしれない」って。小林さん本人に確かめてみないとわからないけれど。

高橋:そうそう、情報源にはメーリングリストもあって、僕が使っていたネオテック・コンソールの情報もそこで集めた。どうしてもノイズが取れないところがあって、とにかく自分で開けて毎日直していたんだけど、ネオテック・ユーザーのメーリングリストでわからないところを聞いたら、みんながアドバイスしてくれるわけです。そこにはなんと、スティーヴ・アルビ二もいるんですよ! アメリカ人はそういう時、ものすごく協力的で、彼らのおかげでついに僕のネオテックも直っちゃった。

片寄:なるほど、そういうネットワークからこの本も生まれてきたわけですね。これを読むと、スタジオ単位でいろんな音楽を聞いてみたくなります。僕もけっこうスタジオが好きで、好きなアルバムはクレジットをチェックしたりしてますが、こういう視点から時代やジャンルを問わず音楽を切っていく本はあまりなかったことだと思いますし、すごく新鮮でした。Apple Musicなどのストリーミングサービスでいろんな音楽に自由にアクセスできるようになると、いつもと違う切り口から音楽を知りたいっていう欲望が湧いてくるから、この本は新しいディスクガイドとしても良いですね。いまやっているレコーディングが終わったら、これを読みつつ、じっくりスタジオの音にフォーカスしながらレコードを聴いてみたいです。僕にとって“良い音楽の本”っていうのは、そういうものなんです。たとえばルー・リードの伝記なんか読むと、その後はずっとルー・リードばかり聴きたくなっちゃう。この本は、そんなマニア心をくすぐってくれました。

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