HKT48が明治座公演で見せたグループの新機軸 座長・指原莉乃はどう振る舞ったか?

 4月8日から東京・明治座で上演されていた『HKT48 指原莉乃座長公演』が23日に最終公演を迎えた。同公演は第一部がミュージカル演劇「博多の阿国の狸御殿」、第二部がライブ「踊る!たぬき祭り」という二部構成で上演された。これは会場となる明治座で歌手を主役に据えて公演が行なわれる際の定番の上演スタイルであり、第一部のミュージカルでは日本の時代劇ミュージカル作品で継承されてきた、人間に化けた狸をメインにした「狸御殿もの」を採用している。HKT48があえて上演会場に似つかわしいコンセプトに寄せた公演をつくることで、明治座としても48グループとしても、新鮮な見栄えをもたらそうとしたものといえる。

 この公演で興味深いのは、近世から引き続く舞台とオーディエンスとの関係性が、今日のアイドルとファンとの関係性と二重写しになることだ。公演中にコールやMIXを打つようなアイドルファンの行動が、近代以前の日本のステージパフォーマンスにみられる観客の行動との類似で語られることは多い。西洋近代演劇のようにステージ上と客席とではっきり世界が区切られる形式と違い、歌舞伎など近代以前にルーツを持つ日本のパフォーマンスはしばしば、観客の能動的な反応と舞台上とのやりとりで協同的にその場がつくられていく。この性質は、今日のアイドルシーンが論じられる時に、比較としてひとつの常套パターンになっている。また、歌舞伎が初心者に向けて説明される折にも、今日のアイドルとの共通点はたびたび例示される。HKT48の明治座公演が面白いのは、机上の論議でしかなかったこの二つの比較を、アイドルの公演という「現場」で両者を繋げながら具現させてしまったことだ。

 この公演では第一部の上演前に、キャストによって「掛け声」のレクチャーが行なわれた。それに導かれて、上演中にメンバーが登場すると、ファンからはそのメンバーの愛称や役名の掛け声が飛ぶ。それは、歌舞伎などの公演で掛かる「大向う」の声をぎこちなく真似するものでありながら、一方ではライブ中にファンがアイドルに向けてコールをするという、「よく見られる」風景でもある。近世芸能と今日のアイドルとのよくある比較論が、ここで実際の光景として重なり合う。そんな瞬間が実現したことが、この公演でまず記しておくべきことだろう。また花道や廻り舞台、宙乗りといった伝統的な舞台機構を用いながらHKT48が狸御殿もののミュージカルを上演してみせたことで、その時代その時代のスターによって古典的な題材がいかに継承されていくのか、その新たな1ページを見せるものにもなっていた。

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