最速詳細レビュー! 宇野維正が『宇多田ヒカルのうた』を全曲解説

 本日12月3日、実にリリース6日前というギリギリのタイミングにようやく発表された『宇多田ヒカルのうた -13組の音楽家による13の解釈-』の収録曲全容。今回、サブタイトルからもわかるように、スタッフがアーティストにオファーをする際にこだわったのは普段から作詞や作曲や編曲にも携わっている「音楽家」であること。重要なのは「どう歌ったか」ではなく「どう解釈したか」なのだ。収録曲発表と同時にiTunesでは13曲中4曲の先行配信がスタートしているが、Real Soundではどこよりも早く、その全13曲の詳細な楽曲解説をお送りする。ちなみに、これらの収録曲は、まず宇多田ヒカルのスタッフ側からカバーしてほしい楽曲を指定した上でオファーし、その上で各アーティストの意見を反映して最終決定したものである。

1.「SAKURAドロップス」井上陽水

アルバムのオープニングを飾るのは井上陽水。井上陽水といえば2001年に昭和歌謡の数々を独自の解釈でカバーしたアルバム『UNITED COVER』を大ヒットさせて、21世紀のカバーアルバム・ブームに火をつけた張本人。その翌年にジャズアレンジのセルフカバーアルバムをリリースしたものの、以降は長年同種の作品を封印してきた。今回、同時期にリリースされるポール・マッカートニーのトリビュートアルバム(『アート・オブ・マッカートニー~ポールへ捧ぐ』。井上陽水は「アイ・ウィル」をカバー)とともに久々に他人の楽曲に挑んだことになるが、日本的なワビサビ感溢れるメロディが印象的なあの「SAKURAドロップス」を、男女が腰を絡ませて情熱的に踊る姿が目に浮かぶ、まさかのサルサ系ラテンダンストラックへと生まれ変わらせている。デュエットの相手はオルケスタ・デ・ラ・ルスのNoraと、どこまでも本格的。鮮烈!

2.「Letters」椎名林檎

同じ1998年にデビュー、翌年の1999年にはEMIガールズとしてステージでの共演歴(カーペンターズの「I won't last a day without you」を披露。2002年リリースの椎名林檎のカバーアルバム『唄ひ手冥利〜其ノ壱〜』のために改めてレコーディングもされている)もある宇多田ヒカルと椎名林檎。椎名林檎は今年5月のライブでも、「EMIガールズの相方、宇多田ヒカル嬢が結婚しました。このやり場のない胸の高鳴りを、今ここで共有させていただけませんか?」というMCに続いて「Travelling」をカバーしていたが、ここでは宇多田ヒカルの曲の中でも際立ってパーソナルな心情が吐露されている「Letters」をセレクト。キャロル・キング「It’s Too Late」を思わせる物憂げなイントロに始まり、やがてストリングスが飛び交うジャズバンド風アレンジへと展開していくスリリングな編曲を手がけているのは、『逆輸入〜港湾局〜』『日出処』にも参加しているトロンボーン奏者の村田陽一。ちなみに、以前から宇多田ヒカルのファンの間では、この曲の詞の《今日話した年上の人は ひとりでも大丈夫だと言う》の《年上の人》とは椎名林檎なのではないかという説が囁かれているが、その真偽は定かではない。

3.「Automatic」岡村靖幸

過去にもトーキング・ヘッズや尾崎豊のカバーを残してはいるものの、カバーするよりも他のアーティストからカバーされる機会の方が圧倒的に多い岡村靖幸。女性によるコーラスの部分を除いて、すべての楽器演奏と打ち込みを自身で手がけている今回のカバーは、まるで『家庭教師』(1990年)時代を思い出させるような密室的なサウンドに仕上げられている。これだけ超有名な曲で、なおかつ宇多田ヒカルのオリジナルにほぼ忠実な歌の節回しながら、岡村靖幸が歌うとどこからどう聴いても岡村靖幸の曲としか思えなくなる、そのシンガーとしての強烈な個性には驚愕するしかない。

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