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トレモロイド小林郁太の楽曲分析

スピッツのメロディはなぜ美しい? 現役ミュージシャンが名曲の構造を分析

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 東京を拠点に活動するバンド、トレモロイドのシンセサイザー・小林郁太氏が、人気ミュージシャンの楽曲がどのように作られているかを分析する当コラム。今回は1995年に「ロビンソン」でブレイクを果たし、以来20年近くに渡って多くのリスナーに厚い支持を受け続けているロックバンド、スピッツの楽曲を読み解く。(編集部)

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ひとつのフレーズの中で大きく動くメロディ

 日本でも屈指のメロディメイカーとして知られる草野マサムネさんの楽曲を分析をするならば、やはりメロディを中心に解説していくのがいいでしょう。その特徴はまず、ラインの起伏が大きいことです。フレーズの上下の幅が1オクターブ前後あることは、珍しくありません。

 一般的に歌の音階の幅は、1.5オクターブくらいはあるものです。しかし多くの楽曲では、曲全体のトップとボトムの差はあるけれど、各フレーズごとの起伏は小さく、例えば、導入部で低く入り、サビや展開部で急激に上がる、といったケースが多いです。そういう場合は、ブロックごとの「段差」が大きいのであって、起伏が大きいわけではありません。一方、草野マサムネさんのメロディは、ひとつのフレーズの中で大きく動きます。それも急激に上下するのではなく、細かなメロディの動きの繰り返しを経て、フレーズとして大きく動かす点に特徴があります。

 例えば『さわって・変わって』のAメロなどがいい例でしょう。

GDEmCGCA D
天神駅の/改札口で/君の/よれた/笑顔/


 「天神駅の」と「改札口で」のパターン1(各1小節)では、全く同じメロディ構造を反復しながら4音上がります。続く「君の」「よれた」のパターン2(各2拍)ではパターン1の後ろ半分の動きだけ引き継いで上昇し、歌い出しのソから1オクターブ上にあたるソを軽くタッチし、「笑顔」でストンと落ち着きます。メロディの、上昇の度合いと反復の区切りが短くなることが呼応しているので、呼吸をするように自然で軽やかなフレーズになっています。

 この曲のコード進行はシンプルながらも、歌のメロディと呼応しています。1小節の中での2つのコードの関係を見ると、変化する1-2音がボーカルの動き方と対応しており、その部分だけつなげると、フレーズ全体で音階がきれいに上昇します。ギターではそのように演奏されていませんが、歌の動きと連動した上昇性を潜在的に持っています。

 大ヒット曲『ロビンソン』にも同じような手法が見られます。Bメロからサビへの流れを見てみましょう。

C#mF#mBmEC#mF#7BmEC#
同じセリフ同じ時/思わず口にするような/ありふれたこの魔法で/作り上げたよ
DEC#7F#mDEC#m
誰も触われない/2人だけの国/君の手を離さぬように
DEC#7F#mDEF#m
大きな力で/空に浮かべたら/ルララ 宇宙の風に乗る


 Bメロの各ブロックは同じ構造を3回繰り返しますが、その中で少しずつメロディを動かすことで、少しずつ物語を動かし、「この魔法で」の、それまでマイナーコードだったF#がメジャーコードになることでフックがかかるタイミングで、メロディ構造も一気に転換します。「作り上げたよ」に至るこの流れも、そこからサビの歌い出しへのつながり方もきれいですね。その後のサビでは、長い音符(付点2分「だーー」)の後に短い連符(8分「れもさ」)でダイナミックにメロディを動かし、少し伸ばしながら(付点8分「わーれーなーいー」)メロディの動きを収束させます。きれいな「一呼吸」を変化をつけて繰り返し、より大きな全体の流れを作っていることがわかります。

 重要なのは、草野さんのメロディは音階の起伏の幅に比例してフレーズのスパンが長い、ということです。『さわって・変わって』のAメロで言えば、4小節で1フレーズですが、符割りの繰り返しを経ながらメロディの波は4小節を目一杯使っています。高低差が大きいとはいえ急激ではなく、小さなフレーズの反復の中で少しずつ繊細に動いていくことが草野さんのメロディラインの特徴ですから、それで大きな1フレーズを描くには当然ある程度の長さのスパンが必要です。

     
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