台湾のMaydayが日本で本格始動 訳詞担当のいしわたり淳治が、ディープな歌世界を読み解く

 北京名物の鳥の巣スタジアムで計20万人を動員するなど、アジア圏域で圧倒的な知名度と人気を誇るスーパーバンド、Mayday。11月13日にリリースされた日本初のベスト盤『Mayday✕五月天 the Best of 1999-2013』では、当代きっての売れっ子プロデューサーの一人で、作詞家でもあるいしわたり淳治氏が訳詞を手がけている。ロマンあふれる歌詞でも注目を集めるMaydayの“歌世界”を、いしわたり氏はどのように受け止め、日本語詞へと置き換えたのか。インタビューではMaydayの魅力から、中国語詞と日本語詞の違いまで話が及んだ。

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来春には映画『Mayday 3D LIVE MOVIE 「NOWHERE ノアの方舟」』の全国ロードショーも予定されている。

彼らはコミュニケーションとして音楽をやっている

――今回、いしわたりさんはMaydayの訳詞を手がけられましたが、彼らの歌の世界観と、日本で活動するミュージシャンの曲を比較して、歌詞のテーマや言葉の使い方などで違いを感じますか。

いしわたり:今回はベスト盤なので、Maydayのいろいろな時代の試行錯誤がそれぞれの曲に反映されているのでしょう。だから一概には言えませんが、失恋の歌が多い、という印象はありますね。K-POPの仕事をしたときにも失恋の歌が多いと思いました。

――失恋の歌が多い、というのは興味深いですね。恋愛における悲しみの側面を描く傾向があるのでしょうか。

いしわたり:例えばK-POPの話をすると、両極端ですね。すごく軽快なポップスと、思いっきりバラードです。どちらであれ、曲のテーマは恋愛がほとんどです。そういうところはアジア特有の感性だと僕は思います。日本の若いロックバンドに多い、“部屋のベッドで悶々と自問自答している”というような歌は少ないですね。

――たしかに日本のロックバンドの曲では、孤独がテーマとなった歌詞が多いかもしれません。

いしわたり:コミュニケーションがうまく取れずに悩む様が、ロックのテーマとして選ばれがちですね。Maydayがやっているのは、そういう出発点ではないロックだと思います。

――恋愛を通して、コミュニケーションをテーマ化していると?

いしわたり:そうです。むしろ、コミュニケーションとして音楽をやっていると言えるかもしれない。また、ひとつのメッセージを何度も畳みかけてくる強さがありますね。たしかにサビもだいたい同じことを繰り返し歌うし、風景描写もあまり多くないです。 日本のロックの歌詞が「会議室で考えた」とも言える、内向きな歌詞であるのに対して、Maydayはもっとストリートっぽいというか、「現場で生まれた」テーマ、人とコミュニケーションを取っていく中で生まれたテーマを、他者に投げることを大前提で歌っているように感じます。その違いは大きいでしょうね。

――そこには文化の違いもあると?

いしわたり:そうですね。日本では衝突は美徳ではありません。推測ですが、おそらく中国語圏ではそういうことではなくて、自分をしっかり持つ、出す、ということが大切なのだと思います。

――歌詞の流れや、曲の構成においても違いは感じますか?

いしわたり:日本語で歌詞を作る場合は、サビのメッセージから逆算して出発地点を決めることが多いのですが、Maydayの楽曲はメッセージに近いところから出発してサビに突入する印象がありますね。他の中国語圏のロックバンドに明るくないので一言では言えませんが、例えば「瞬間少年ジャンプ」という曲は特徴的です。サビが「ジャンプ」ということであれば、そこまではジャンプするまでの描写で、と考えそうなものですが、Bメロでもうジャンプしています。こういう階段の踏み方は日本の特に歌謡曲ではあまりないですね。日本の歌詞にはもう少しストロークがあるような気がします。あと、1番と2番のAメロが同じ歌詞、ということも日本ではなかなかないので新鮮でした。

――では、訳詞するにあたっては、そうした構成を踏まえながら、曲が持っている力強さを再現できるように仕上げをした、ということでしょうか。

いしわたり:内容が歪んでしまっては意味がないので、貫きたいスタイルやメッセージが、ぶれずに伝わり、目で読んだときに意味が明快で、かつテンポ良く進めるように、と気をつけました。また、中国語に馴染みがない人も多いので、どうしても聴きながら「このへんを歌っているな」と楔を打てるタイミングが少ないと思います。曲や歌詞の進行上どこで「。」がついているか、少しでもわかりやすくなるように、ということも考えました。

――「ひとり上手にならないで」「瞬間少年ジャンプ」など印象深いタイトルも多いですね。意味は原題に沿ったもの?

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少女時代やOKAMOTO'S、Superflyなど、数多くの人気曲の作詞を手掛けてきたいしわたり淳治氏。

いしわたり:字面は大事なので工夫しつつ、なるべく同じ意味になるようにしています。日本語と似ていても、言葉の意味が違うこともありますからね。たとえば「倔強(屈強)」という言葉は、マッチョなことではなくて精神的な意味で、日本語の「意地」のような意味だそうです。

――歌詞の内容で特に興味深かった点は。

いしわたり:別れた彼女に対して「僕の望みは君が幸せになってくれることだ」というような内容の歌詞がいくつかあります。その気持ちがわからない人は日本にもいないと思うんです。でも、日本の別れをテーマにした曲は「辛い」「悲しい」「忘れたい」までは多いですが、その先の優しさまでを歌う日本人は実は少ないです。新鮮でしたね。

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