架空バンドが膨大な再生数を稼ぐ事例も Bandcamp “生成AI音源全面禁止”の背景にある配信プラットフォームの現状

音楽配信・販売プラットフォームのBandcampは、サービス内における生成AIの取り扱いに関する新たなポリシーを発表した。今後、同プラットフォームは「人間の創造性を第一に考える」姿勢を明確にし、AIによって全面的、あるいは大部分が生成された音楽の公開を禁止する。
背景にあるストリーミングサービスの現状
Bandcampが今回、断固とした措置に踏み切った背景には、既存のストリーミングサービスが直面しているAI音楽による深刻な問題がある。
米音楽メディア・Stereogumの報道によれば、大手プラットフォームではAI生成の架空バンドが膨大な再生数を稼ぐ事例が相次いでいる。具体的には、AIサイケロックバンド「the Velvet Sundown」やAIメタルコアバンド「Broken Avenue」といった実体のないアーティストがSpotifyで再生数を伸ばしている実態が報告された。
また、人気バンドのKing Gizzard & The Lizard WizardがSpotifyから音源を取り下げた隙に、AIによる「なりすまし」アーティストに差し替えられた事件も記憶に新しい。加えて、Deezerの報告では2025年11月時点で毎日5万曲以上のAI楽曲がアップロードされており、これは新曲全体の約34%に達するという。
大手プラットフォーム各社では2025年9月頃からこうした「AIスロップ(生成AIによって作られた低品質で中身のない、あるいは不正確なコンテンツ)」の排除を試みているが、圧倒的な物量に対して実効性のある対策を打ち出せていないのが現状だ。Bandcampの今回の決定は、プラットフォームの純潔性を守るための防衛策と言える。
独自ポリシーの策定と「なりすまし」の禁止
新たに策定されたガイドラインでは、AIによって大部分が作成された音源の配信を禁止するだけでなく、特定のアーティストのスタイルを模倣する「なりすまし」目的のAIツールの使用も厳格に禁止されている。これはBandcampが従来から設けている知的財産権の保護方針を強化するものだ。
また、ユーザーによる報告システムも活用し、AI生成が疑われる音源に対して運営チームが審査を行い、独自の判断で削除を行う権限を持つとしている。Bandcampは今後も生成AI技術の動向を注視し、必要に応じてポリシーを更新していく予定だ。
生成AIに対する音楽業界の対応は「共生」と「排除」の二極化へ向かう?
Bandcampが生成AI音源を排除する一方で、現在、大手レーベルのUniversal Music Group(UMG)やWarner Music Group(WMG)は、かつて対立していたSunoやUdioといった主要なAI音楽プラットフォームと相次いで和解・提携を発表している。これはAIを商用利用可能な「ツール」として業界内に取り込もうとする動きと言えるが、その一方ではユーザーのダウンロード制限など、権利関係の調整によってサービスの利便性が損なわれる事態も生じている。また、最近のSunoが利用規約上の「所有権」の表現を巡って釈明に追われた事例などは、AIプラットフォームが既存の業界構造との折り合いをつける過程で生じる混乱を象徴している。
こうした「AIとの協調」が進むメインストリームとは対照的にBandcampは生成AI音源の全面禁止を宣言した。これはコロナ禍において販売手数料を全額還元する「Bandcamp Friday」を即座に開始し、現在も同キャンペーンを継続して行うなど「インディペンデント・アーティストに理解のある支援者的プラットフォーム」という立ち位置のBandcampらしいスタンスといえる。
そう捉えると複雑な権利処理やAIスロップ問題に翻弄されるクリエイターやアーティストに対し、Bandcampが「人間による純粋な創造性のための場所」であることを改めて公言した意義は大きい。ただし、共生か排除のどちらが完全に正しいかは、少なくとも現時点では判断が分かれるところだろう。しかし、生成AI音源禁止というスタンスを打ち出したことでBandcampは、少なくとも人間のクリエイティビティを重視するアーティストとリスナー双方にとって、より一層かけがえのない受け皿となるはずだ。そして、今後Bandcampが出した答えに同調するプラットフォームが登場するかどうかにも注目していきたい。
参考:
https://blog.bandcamp.com/2026/01/13/keeping-bandcamp-human/
https://stereogum.com/2485199/bandcamp-bans-ai-music/news
























