『アフターAI』著者が、誰よりもAIをポジティブに語る2つの理由「スマホやクラウドの時にはなかったチャンスが目の前にある」
「AIエージェント元年」と呼ばれ、AI技術の進化に注目が集まった2025年。AIも多くのテクノロジーと同様にアメリカの西海岸・シリコンバレーを起点に各社が注力し、先進事例が続々と生まれている。そのような例のなかから日本のビジネスにも応用し得るものを中心に解説した書籍『アフターAI 世界の一流には見えている生成AIの未来地図』が話題だ。
今回リアルサウンドテックでは、著者のシバタナオキ氏にインタビュー。アメリカにおけるAIの現状と日本国内における可能性、さらにはAIネイティブ世代に教えるべきことなど幅広く話を聞いた。(編集部)
シバタナオキ
NSV Wolf Capitalにて、パートナーとして、シリコンバレーの新興VCへのファンド投資、スタートアップへの直接投資を担う。エンジェル投資家として50社以上のスタートアップへ投資実績あり。楽天執行役員、東京大学助教を経て、スタンフォード大学の客員研究員として渡米。米国シリコンバレーでAppGroovesを起業。「決算が読めるようになるノート」を創業(2022年に事業譲渡)。東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻 博士課程修了(工学博士)。著書は『MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣』(日経BP)、『テクノロジーの地政学』(共著)(日経BP)。
日本にとってこれまで弱みとされてきたものが強みに変わる

ーーシバタさんが拠点に活動されているシリコンバレーにおけるAIとビジネスの現況についてお聞かせください。
シバタナオキ(以下、シバタ):アメリカでは政治はワシントンD.C.、エンターテインメントはLA、金融はニューヨークというように都市によって機能が分かれてます。その中でサンフランシスコベイエリア、いわゆるシリコンバレーは、テクノロジーの中心地として機能しています。
ここではソフトウェアやインターネットのテクノロジーがこれまでにも数多く生まれてきましたが、現在もそれは変わりません。正直なところ、そのソフトウェアが現在はAIとイコールになっていて、スタートアップやGAFAMのような大企業、そして周りの投資家も、AIに注力している状況です。
ーーアメリカと日本を比べると、AIとの向き合い方で日本の方が遅れているという印象がありますが、シバタさんからすると、大きな違いを感じる点はありますか?
シバタ:ソフトウェアは基本的にシリコンバレーで最初に生まれるので、日本だけでなく他の国も「タイムマシン」と呼ばれる時差があります。以前は2〜3年の遅れでしたが、AIに関しては1年半ほど遅れている印象です。これは必然的なもので、特に悪いことだとは思いません。
もうひとつは、大規模言語モデル(LLM)を作れる国がアメリカと中国に限られている点です。これは国力の差であり、研究開発への投資額や投資できる企業の有無によるものです。先日、日本の経済産業省が1兆円の予算をつけましたが、個人的にはやめた方がいいのではと考えています。検索エンジンの例を見ればそれは明らかで、当初は日本だけでなく多くの国が国産検索エンジンの普及を目指していましたが、結果として世界中でGoogleしか残らなかったというような前例がありますからね。
ーーつまり、LLM開発は日本には難しいと。
シバタ:そうです。最高性能を目指すLLM開発に関してはアメリカと中国が中心になるでしょう。ただし、それは日本がAIビジネスで活躍できないという意味ではありません。なぜならLLMを使って業界特化型のアプリケーションやAIエージェントを作る分野については、日本を含めすべての国に平等なチャンスがあるからです。
ーーその点において、日本企業が特に意識すべきポイントがあれば教えてください。
シバタ:私が日本の生成AI分野の現状を、誰よりもポジティブに見ている理由は二つあります。ひとつ目は、日本が「課題先進国」だという点です。少子高齢化、労働者人口の減少、社会インフラの老朽化など、先進国がこれから経験する社会課題に日本はいち早く直面しています。つまり、目の前に課題があるということは、スタートアップも大企業も解決策を生み出せる環境にあるということです。これは非常に大きなチャンスです。
ーー二つ目の理由は何でしょうか?
シバタ:業界特化型のアプリケーション、特にAIエージェント開発における日本企業の優位性です。アメリカのスタートアップは、LLMそのものを作るのではなく、OpenAIの「ChatGPT」やGoogleの「Gemini」といった既存のLLMに業界ごとや各社固有のデータを学習させます。これを「ファインチューニング」と呼びますが、新入社員を一人前のプロに育てるプロセスと本質的に同じなんです。その点で考えると日本企業は今でも新卒一括採用を続けていて、一般常識はあるものの業務知識のない人材を毎年4月に大量採用し、教育してプロに育てています。
ーー日本独特の雇用システムが、AIエージェント開発に活かせるということですか?
シバタ:欧米では、職務要件に合う即戦力を採用するジョブ型採用が主流で、日本のような新卒一括採用・育成システムを持つ国は他にありません。つまり、日本企業が新入社員にしていることと同じことをLLMに対して行えば、業界特化型のAIエージェントが完成するということです。
ーーこれまで弱みとされてきたものが、強みに変わるということですね。
シバタ:その通りです。課題先進国であることと新卒一括採用という二つの要素を組み合わせると一気に強みに転換します。日本企業にとって、業界特化型AIエージェント開発は、ソフトウェア産業史上まれに見る大きなチャンスです。さらに日本クオリティのAIエージェントが作れれば、商習慣の近いアジア諸国への輸出も可能でしょう。今社会的に問題になっているデジタル赤字の解消にもつながる可能性があります。
職人技術の継承、労働集約的な営業業務の効率化……急成長中の業界特化型AI
ーー投資家として特に注目されている業界特化型AIを開発・提供する企業を教えてください。
シバタ:各業界×各職種で無数の事例がありますが、ひとつはうちのファンドで投資している「Overview AI」という会社です。トヨタやホンダといった大手自動車メーカーなどを顧客に持つこの会社では、自動車メーカーの工場で部品の不良品検知を行うAIを提供しています。
ーー具体的にどのような仕組みですか?
シバタ:自動車メーカーは下請け企業から納品された部品を組み立てて車を製造しますが、不良品が混入するとリコールにつながり、莫大な損失が発生します。そのため検品作業が不可欠ですが、これは非常に複雑で職人技が求められる作業です。
Overview AIは、ベルトコンベア上にカメラを設置し、流れてくる部品から不良品を検知します。現在は職人が目視で検品していますが、見逃しのリスクや人材不足、高齢化といった課題がありますが、その解決に向けて職人の技術をAIに継承させるということをやっている会社です。
ーー他にはどんな企業がありますか?
シバタ:もうひとつは「SimplyWise」です。リフォーム業者向けのAIアプリで従来の業務プロセスを大きく変えています。従来、リフォーム業者は顧客宅を訪問して写真撮影や採寸を行い、事務所に戻ってからExcelで部品リストを作成し、工賃を加えて提案書を作成していました。この作業には数日かかり、その間に顧客の気が変わって失注することもあります。
しかし、「SimplyWise」のAIアプリはスマートフォンで現場の写真を撮り、希望するリフォーム内容をAIにプロンプトで指示するだけで、ビフォーアフターの画像と必要な部品リストが即座に生成されます。その場で見積りが完成するんです。さらに「このライトはLEDにした方がいいですよ、追加2万円です」といった追加提案も自動で含まれます。
ーー効果はどの程度出ているのですか?
シバタ:このアプリを使うと、リフォーム業者の月間売上が50万円ほど増加するそうで、口コミで急速に広がっています。リフォームの提案にかかる時間を大幅に削減できるので、週あたりの提案件数も大幅に増加し、その結果売上が増えています。
ーーこの2社だけ見てもAIの活用方法はそれぞれ異なるアプローチなんですね。
シバタ:そうです。Overview AIは職人の技術をAIに継承させる例、SimplyWiseは労働集約的な営業業務をAIで効率化する例です。どちらも急成長しており、売上グラフは垂直に上昇しています。


















