AI時代に声優・俳優の「声」を“守り”ながら“攻める”ことは可能なのか 日俳連と伊藤忠グループ、公式データベース設立への期待

AIが人間の声を簡単に模倣できる時代、クリエイターの権利はどう守られるべきか。生成AIとクリエイターの権利をめぐる議論が世界的に活発化する中、日本でも新たな動きが始まっている。
協同組合日本俳優連合(日俳連)と伊藤忠商事、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は11月14日、声優や俳優など実演家の音声を安全に保管・活用するための公式音声データベース「J-VOX-PRO(仮称)」を立ち上げると発表した。三者はこの推進に関する覚書を締結し、日俳連は実演家の権利保護と収益機会の拡大、伊藤忠商事は正規利用による新規事業創出と海外展開、CTCはサービス開発をそれぞれ担う。
権利保護と正しい活用の推進を両立するモデルケースとなるか
近年、音声や映像などを自動で作り出す生成AI技術の急速な進歩により、声優や俳優の声を無許可で模倣した音声コンテンツがインターネット上に公開される事例が増加している。こうした無断利用は、実演家の経済的損失だけでなく、信頼性や創作活動の継続、品質にも深刻な影響を及ぼしており、日俳連は2024年に権利者団体が共同で無断AI利用の撲滅を訴える啓発活動「NOMORE無断生成AI」(※1)の筆頭団体として参画しながら、実演家の「声」を知的財産として保護し、正当な対価と利用管理の仕組みづくりを進めてきた。
今回発表された「J-VOX-PRO(仮称)」は、実演家本人の正式な意思表示に基づき、高品質な日本語音声データを保管する公的基盤となる。本データベースでは、数千人規模での音声収集を想定しており、音声データには電子透かしや声紋認証などのセキュリティ技術を活用し、不正利用を防止する。
利用は法人を対象としており、企業や団体は所定の料金を支払った上で、合意された用途の範囲内で音声データを利用可能だ。料金や利用条件は、実演家本人や所属事務所との協議を経て透明性の高い形で決定される。
現在

将来

実演家の音声は、教育や医療、観光など多様な分野での活用が期待されている。具体的には、行政情報の音声案内や高齢者向けの診療説明、多言語音声ガイドといったサービス展開が見込まれる。また、音声および音声認識市場は2032年までに世界で約13兆円規模に達するとの予測もあり、三者は当初の国内利用から将来的には海外展開も視野に入れている。
生成AI時代において、クリエイターの権利をいかに守るかは世界的な課題だ。今回の取り組みは、単に権利保護という「守り」の姿勢にとどまらず、業界団体と民間企業が連携して正規の利用ルールを整備し、新たなビジネス機会を創出しようとする「攻め」の姿勢にも注目が集まりそうだ。特に日本のアニメや声優文化は海外でも高い人気を誇るだけに、権利保護と正しい活用の推進を両立させたモデルケースとなれば、他の創作分野にもポジティブな波及効果が期待できるだろう。
※1:https://nomore-mudan.com/
参考:https://www.itochu.co.jp/ja/news/press/2025/251114.html























