配信技研が“マーケティングプラットフォーム事業”をスタートさせるワケ 取締役・中村鮎葉氏に『SCOP』の狙いを聞いた

配信技研が『SCOP』をスタートさせる理由

ストリーマーが超大型コラボを実現する時代の到来 課題はあるのか

——ストリーマーの「若者への訴求力」というのが今すごく高い時代になっていますよね。逆に、こういった状況における課題感などはあるのでしょうか?

中村:そこまで大きな課題感は感じていなくて、とても自然な状態になったと思っています。それまではストリーマーだと社会に貢献できない、メーカーや代理店の力がなければ何かを成すことができないという状態から、ストリーマー発信で何かをできるようになったことはとてもいい時代だと思います。特に、私みたいな古いゲーマーからすればなおさらです(笑)。

 課題があるとするならば、“人気ストリーマーの数が有限である”ということでしょうか。やはりタレントよりも影響力があるような人というのは限られてきます。

 メーカーの中には、当然すごく大きな資本、大きな社員数で物事に取り組んでいて、大きな予算を使って1億人に対して自社の製品を売ろうとしている人たちが結構いるわけです。そうなると、限られたインフルエンサーに対して、大きなメーカーの間で取り合いになってしまうことがあるんですね。インフルエンサーの時間も有限で、一ヶ月は720時間しかありませんから、これはひとつの課題かもしれません。

——その課題というのは、メーカーだけでなく、ストリーマーや視聴者にもありますか?

中村:リソースが有限である結果、“片思い”の案件になりがちということでしょうか。やってほしい中身と、予算はあるのですが、クリエイターにもそれぞれ個性がありますから、PRしたいものに対して100%フィットするとは限らないわけですね。

 視聴者からすれば「この案件だったら、このストリーマーの方が良かったんじゃないの?」と感じることもあると思います。企業の担当者がストリーマーに詳しいとは限りませんから、最適解を選べない結果なんですよね。そうすると、訴求がうまくできずに片思いになってしまう。

 そして、トップストリーマーと分類される人たちはよくて50人、すごく広く含めても200人ほどになると思うのですが、その200人というのも“同時視聴者数1000人を超える可能性がある人たち”という規模感なんですね。

 つまり、99%のストリーマーにとってはまったく違う問題——「案件が来ないこと」が課題・不満になってきます。活動している人自体はいっぱいいて、案件も世の中には沢山ある。ただ、自分の出番は回ってこない。その結果、仕事やアルバイトとのダブルワークから抜け出せず、配信時間が増えない。そうなると自己肯定感も上がらないし、プロ仕事の経験を積めないしで、良い循環が出来上がらないんですね。

 そして、先ほども言ったようにトップストリーマーには仕事が逆に“来すぎてしまう”。自分に合わない依頼も来てしまう。そういう状態になっています。

——視聴者の視点でも、やはりミスマッチな案件は分かってしまいますよね。

中村:視聴者って、だいたいチャンネルオーナーと同じような視点を持っていて、頭や心もシンクロしていることが多いんですよね。だから、「これって自分じゃなくてもいいのでは」とか「ちょっと案件が多いんじゃないか」とか、そういうことを感じているはず。

配信技研がローンチする『SCOP』とはなにか

——案件の向き不向きですね……。今回、配信技研では新たなマーケティング関連のサービス『SCOP』をローンチすると聞いています。「案件」を紹介する側になるということだと想像するのですが、これはどういったサービスなのでしょうか?

中村:『SCOP』というのは、ざっくり言えば「インフルエンサーマーケティングとデジタルマーケティングのいいところを組み合わせたもの」です。

 インフルエンサーマーケティングは、製品をがっつり紹介するとき、インフルエンサーを起用してメッセージを届けるときに使えるいい手法です。ただ一方で、先ほど挙げたようにインフルエンサーの数が有限であることが課題として存在しています。

 そして、デジタルマーケティングというのはいわゆるWEB広告やYouTubeの動画広告のことで、これは広くいろんなユーザーの目に触れさせることに向いています。ただ、こちらはメッセージが伝えづらい。

 これらの手法と課題に対して、人間が製品の魅力を伝えつつもより多くの人に幅広く商品を訴求していくこと。そして、それを自動で可能にすること。デジタルマーケティング同様に、ツールによる解決を目指すのが『SCOP』になります。

——配信技研がこういったサービスを開始する理由についてもお聞かせください。

中村:配信技研としては、やはり「個人の自己実現を加速する」というモットーが根底にあり、そこに尽きるとも言えます。我々はこれまでの話題で出てきた視聴者、ストリーマー、企業という中でいえば、立場的にはストリーマーの味方です。特に、スポンサーや事務所に所属していない個人のストリーマーで、かつ99%側の人たち。配信技研は、その人たちがどうやったらみんなが幸せになれるだろう、ということを考えている課題解決の会社ですから、今回の『SCOP』もそのひとつというわけです。

——『SCOP』のお話を聞いていると、まさに“いいとこ取り”なサービスに思えますね。具体的には、どういったツール・サービスになるのでしょうか?

中村:ベースとしては、ストリーマーの配信に広告を設置してもらう形になります。『SCOP』のWEBサイトにストリーマーが連携すると、「Nightbot」や「Stream Elements」などのように配信用のソフトウェア(『OBS』)上でURLを入力すれば自動で広告が流れてくれます。

 広告の表示回数、視聴時間やクリック数などの計測は『SCOP』サイドで行い、あとから収益を出来高払いするシステムになります。これを使うと、何百人ものストリーマーがメッセージを伝えながら視聴者にPRすることができます。

——特定の案件を紹介する代理店的な立ち位置ではなく、バナーを中心としたものになるのでしょうか。「内部競争型成功報酬システム」というものも存在すると聞きましたが、これはどういうものなのでしょうか?

中村:バナー表示は『SCOP』ストリーマー全員がおこなうもので、それ以外にも様々な施策を用意していて、内部競争型成功報酬システムもその一つです。これはたとえば、『SCOP』にログインすると製品知識に関するクイズに挑戦することができて、正解率が高ければ収益の割合が良くなるというものです。

 そしてこれは、この製品のことをちゃんと理解していますか、ということを事前にストリーマーに意識してもらう施策でもあります。クイズは一度きりしか受けられないので、頑張って製品に関する勉強をするわけです。正答率が低いから報酬が下がるわけではありませんが、ボーナスはありますよと。

 そして、意欲の高い人はクイズの正答率もそうですし、配信で自主的に製品について語ったり、紹介したりするパターンもあります。ほかにも、たとえば今だと味の素さんに『スープDELI』の広告を出していただいているんですが、『SCOP』のストリーマー同士が食べた感想をXでポストする、といったムーブメントが発生しているんですね。Xのポストは義務ではないのですが、『SCOP』ストリーマー同士の横の繋がりや連帯感によって自然にそうなっていて、外から見える以上に有機的で人間くさい、ウェットなものが生まれる場所になっています。

——これは広告効果を踏まえれば当然ですが、クリエイター間で完全な平等ではないと。

中村:その辺りは今後しっかりバランス調整をする部分でもあるのですが、基本的には視聴時間やバナーが表示された時間によって金額が変わるという前提があるので、視聴者数が多い人ほど有利であるという部分は変わらないです。

 ただ、それとは別にクリック数に応じて収入があがるものもあって、今後開発していく部 でもあるのですが、やる気がある人がお金をもらえるシステムになるようにはしています。

 案件を出す企業の視点に立てば、視聴者数が多くて、かつキチンと製品のことを勉強して送客に繋げてくれる人に一番お金が払われるし、ストリーマーも製品について理解したうえで取り組めば収益が上がる。互いに両思いになれるんですね。

——中小ストリーマーだから努力をしていない、ということではないですもんね。個別のクライアントにめちゃくちゃ真摯に向き合うのは規模に関係なく、むしろ一つひとつの案件にフォーカスしやすい状況にあるストリーマーの方が、クリック率が高まる可能性もあると。

中村:そうですね。一応、配信技研では「中小ストリーマー」という言い方はしていないんです。外から見た視聴者数でいえばそういう分類になるのかもしれませんが、おっしゃる通り、ひとりひとりのストリーマーは死ぬ気でやっているからです。

 そして、視聴者数が大きければインプレッションが高まる、目に入る回数が多くなるというのは事実ですが、クリック率や送客が多いかどうかに関しては、今までも企業としては疑問がついていたはずです。

 たとえば、1000人を超える視聴者数を持つストリーマーと、100人のストリーマーとで、クリック率がどのくらい違うのか。この疑問は企業だけでなく、私たちとしても昔から持っていたので、昨年計測してみたんです。すると、意外な結果が出まして。視聴者数1万人のストリーマーと同じクリック数を出すには、視聴者数100人のストリーマーを10人集めれば届くということが統計上見えてきたんですね。我々の予想では、シンプルに同接100人のストリーマーを100人集める必要があると思っていたのですが、思っていたよりも異なる結果が出ました。

——意外な結果ですね。ですが、企業としては嬉しい話ですよね? ドカンと何百万を払うのではなく、5万円とか10万円を10人に払っても同じ効果が得られる。

中村:ただ、このデータだけでは不十分で、実際には契約書を結んだり、法務的なオペレーションを考えたりすると一人のクリエイターにドカンとお金を払ってしまうほうが現実的だという側面もあります。

 そこで我々『SCOP』が間に入って包括的に契約すればその労力や負担なく10人でも15人でも、分散して依頼を出すことができる。ここが『SCOP』の大きなメリットであると考えています。

——企業としては、どういうときに『SCOP』を活用するのが良いのでしょうか。向いていないケースもあるんですか?

中村:向いていないケースからお話しすると、みっちりコントロールしたいとか、テーラーメイドな大型イベント、プロモーション案件については、代理店やチームで動いていることの強みなので、それはこれまで通りやっていただくのが良いと思います。

 向いているケースでいえば、案件に関する企画を考えるのが苦手だったり、業界に詳しくない企業は『SCOP』を使っていただくといいと思います。効果測定がしやすいこともありますし、『SCOP』は参加者の入れ替わりがあって、増える事もあれば、方針次第で抜ける人もいるでしょう。ただ、それはつまり「やりたい意志」を持つ、やる気がある人たちが揃っているということでもあります。

——最後に、『SCOP』を通して今度はどのような社会になればよいと思っているか、そして長く業界を見てきた配信技研として、ストリーマーに向けたアドバイス、どうすれば今後より活躍していけるのか、について考えを聞かせてください。

中村:一言でいうと「喜んでもらうこと」です。企業も、視聴者もそうです。ライブ配信は特にそういう傾向が強いのですが、現実で「良い」とされていることが評価される傾向にあって、ちゃんと挨拶をする、名刺を配る、ハキハキ喋ることが好まれる活動です。

 長い時間自分を見せ続ける職業なので、取り繕ってもバレるんですよね。なので、ライブ配信は正確には「コンテンツ」ではないのかもしれません。

 そして、『SCOP』を通して実現したいのは、みんながクリエイターになれる世界でしょうか。自分で発信して、人との縁を繋いで、挨拶をして、プロフェッショナルとして活動すること。そうすれば、ネットの「叩き」なんていうものはなくなっていくと思うんです。私たちはクリエイターを守りたいし、応援したい。だから、クリエイターの自由が侵害されることが無く、のびのびと活動することができる社会を目指したいと思っています。

■関連リンク
配信技研「scop」公式WEBサイト

Twitch配信の収益化は「コミュニティ形成とほぼ同義」 担当者が語るストリーマー成功の必要条件、そして“初心者”へのアドバイス

TwitchのChief Monetization OfficerであるMike Minton氏にインタビュー。収益化におけるポ…

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる