『東京ゲームショウ2025』インディーゲーム活況の背景は? 押さえておくべき3つのトピックと注目作品を紹介

『TGS2025』インディーゲーム活況の背景

 歴代3位の記録となる総来場者数26万3101人の大盛況で幕を閉じた『東京ゲームショウ2025』(以下、TGS)。来年は史上初の5日間開催に踏み切ることになった同イベントだが、その中でも特に印象深かったのがインディーゲームの活況ぶりである。

 例年、大きな話題となるのは、巨大なブースを設けるAAAタイトルや、莫大な予算が投じられているであろうアジア各国を中心としたソーシャルゲームだが、少し足を伸ばしてみると、多くのインディーパブリッシャーや開発会社のブースがあり、なかには開発者自身の解説によってゲームを紹介してくれたり、国境を越えて会場に集まったクリエイター同士が友好を深めていたりする。

 今年のTGSにおけるインディーゲーム周りのトピックとしては、主に以下の3つが挙げられるだろう。

①Annapurna Interactiveによるショーケース開催&大規模ブース出展
②出版社を中心とした国内パブリッシャーの台頭
③出展数の増加に伴うインディーゲーム全体の希望拡大

 ①に関しては、(この後紹介する)日本の開発者・Marumittu Gamesによる『D-topia』を紹介するという目的が大きかったと推測されるが、これまで「知る人ぞ知る」という感じでゲーム好きから一定の信頼と支持を集めていたAnnapurna Interactiveが大きな存在感を示していたのは、なかなかに感慨深いものがあった。もちろん、その背景には『Stray』や『Outer Wilds』などのヒットがあるわけだが、今回出展された作品も相変わらず魅力的な作品ばかりで、同社の「ブランド」がより一層に広がることを期待している(一時はスタッフ全員が辞職するなど岐路に立たされていたが、少なくとも今年リリースされた作品を見る限りはうまくやれているようだ)。

【TGS2025】Annapurna Interactive 新作発表ステージ

 ②の出版社を中心とした国内パブリッシャーが台頭した背景には、集英社ゲームズがパブリッシングを手掛けた『都市伝説解体センター』のヒットがあるのは想像に難くない(同作は「日本ゲーム大賞」でも、『ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ…』や『モンスターハンターワイルズ』といった大作と肩を並べて優秀賞を受賞する快挙を達成した)。今年は同社に加えて、講談社ゲームラボやKADOKAWA、PARCO GAMES、ハピネットなどがメインホールなどに大きなブースを構えており、日本国内における業界全体のゲーム事業への注目度の高さを印象付けていた。

 ③の出展数の増加に伴うインディーゲーム全体の希望拡大に関しては、特に明言されているわけではないので、もしかしたら主観が入っているかもしれない。ただ、①と②の動きは結果として「メインホール全体のインディーゲームの割合の増加」を促しており、主戦場とも言える9-11ホールでは、これまではコミュニケーションスペースだった2Fエリアに、恒例企画の“SELECTED INDIE 80”ゾーンが設けられるという変化が起きていたことを踏まえると、決して勘違いというわけではないだろう。

 これ以外にも、昨年に引き続き登場した「リアル『Buckshot Roulette』」に加えて、「リアル『No, I'm not a Human』」まで持ってきたCRITICAL REFLEXや、すっかりお馴染みになった架け橋ゲームズ×Devolver Digitalの共同ブース、『8番出口』がマスコット化しつつあるPLAYISM、さながら「ゲーム万博」と言うべき国単位のブースなど、インディーゲームだけでも4日間では到底回りきれないくらいの充実ぶりで、今から来年のTGSが楽しみで仕方がない。

 ここからは、実際にTGSに出展されていたタイトルの中から、個人的にお薦めしたいものをピックアップして紹介していく。気になるタイトルがあったら、まずはとりあえずSteamのウィッシュリストなどに入れておこう(一部は体験版も配信中だ)。

すべてをAIに管理される“理想郷”へようこそ。『D-topia』(2026年発売予定)

D-topia | Reveal Trailer

 まず目に留まるのは、丸みを帯びたポップで可愛らしいビジュアルだ。キャラクターはもちろん、一人ひとりが話す台詞の一つひとつが親しみやすく、いわゆる「癒し系」のゲームを遊んでいるような気分になってほっこりする。

 ゲームの舞台となっているのは、人類の幸福のために立案されたユートピア計画のもとに建設された「施設型居住区D-トピア」。これからの生活にワクワクしている他の住人とともに移住した主人公は、施設全体の管理を司るAIに施設整備士の役職を任され、柔らかな見た目としっかりと考えさせるパズルを解きながら、施設を維持する役目を担うことになる。

D-topia
© 2025 Mittu Topia, LLC. Developed by Marumittu Games, LLC. Published by Annapurna Interactive. All rights reserved.

 D-トピアで出会うのは、ちょっとやんちゃな少年や、家族のために頑張るお父さんなど、魅力的な人ばかり。居住区も近未来的な格好良さと、それぞれの好みやライフスタイルに合わせた住みやすさに満ちていて、まさに「ユートピア」という言葉を彷彿とさせる。この世界は、視覚面においてもすべてがAIによって美しく完璧に最適化されているのだ。

 だが、整備のために現実世界に切り替えると、目の前にいるのは一匹のネズミ。「あれ?」と思っていると、どうやら普通に暮らしている人には、このネズミは見えないらしい。そういえば、「D-トピア」という言葉を聞くと、どうしても「ディストピア」という単語を想起してしまう。ここは果たして、本当に理想郷なのだろうか?

「ブロック崩し×ローグライク」=史上最凶クラスの中毒性『BALL x PIT』(10月15日発売)

BALL x PIT | Reveal Trailer | Play the Demo on Steam

 昨年、『Balatro』に膨大な可処分時間を燃やし尽くされたゲーマーであれば、「ブロック崩し×ローグライク」と聞いた時点で「それはダメだ」と絶望するのではないだろうか。デモをプレイした限り、その嫌な予感は見事に的中している。

 ローグライト2Dアクションの『Mr. Sun's Hatbox』などで知られるKenny Sunの最新作となる『BALL x PIT』では、大量のモンスター(ブロック)がひしめくダンジョンを舞台に、プレイを進めていくうちに手に入る能力をボールにどんどん付加していきながら、最深部を目指すことになる。最初は典型的なブロック崩しのようにコツコツとモンスターを処理することになるが、能力が積み重なり、さらに能力同士を「合成」することで新たな能力を作り上げることで、気付けば画面いっぱいに大量のボールが乱舞し、レーザーが放出され、爆弾が次々と起爆し、ボールが当たっていないはずのモンスターまで次々と溶けていくという壮絶な光景が広がっていく。それに負けじとモンスターの猛攻も加速し、その様相は「カオス」の一言。もちろん、脳内ではものすごい勢いでドーパミンが分泌されている。

BALL x PIT
Steamストアページより

 本作には拠点開発の要素も含まれており、開拓を進めていくことで拠点が活性化したり、ただでさえ破壊的なボールをさらに強化したり、新たなキャラクターをアンロックすることができる。筆者が初めて本作のデモをプレイしたのは今年の初夏くらいに遡るのだが、その時点で気付いたら2時間が経っていた。是非、これを読んだ方も、本作で盛大に時間を溶かして、頭を抱えてほしい。

「タイピングゲーム」という“牢獄”から脱出せよ『Dyping Escape』(2026年発売予定)

『Dyping Escape』発表トレーラー

 タイピングゲームとは、本来はキーボードの入力を楽しみながら学ぶためのゲームであり、与えられた単語や文章をミスなく的確に打ち込んでいくのが基本的なルールである。これは、見方を変えると、スパルタ教官が出てくる某映画さながらに、決められた言葉しか発することのできない奴隷のような光景でもある。与えられたテキストとまったく同じ言葉を、キーボードを通して「発話」しない限りは前に進むことはできないのだ。たとえ、それが自らの意思に反するような言葉だったとしても。

Dyping Escape
©Heaviside Creations All rights reserved. Licensed to and published by Active Gaming Media Inc.

 『Dyping Escape』は、こうした「タイピングゲームにおける主従関係」を大胆に一つのホラーゲームへと転換してみせた、一癖も二癖もある作品である。「タイピングゲームをしましょう」という言葉に導かれるままにキーボードを打ち始めると、プレイヤーはいつの間にか得体の知れない契約書にサインをさせられ、PC本体への侵入を許し、CPUやメモリの破壊を許すことになる。

 では、どうすれば良いのか? タイピングゲームと言えど、「キーボードを入力する」以外にもできることはある。設定画面やUIに注目するのも良いだろうし、もし打つ手がなくなれば、誰かがボタンを運んできてくれるかもしれない。命令に従うフリをしながら、あらゆる手段を使ってこの「タイピングゲーム」から脱出するのだ。

「我が生涯に一片の悔いなし」RTA『Time Flies』(発売中)

ハエの一生を体験する儚いアドベンチャーゲーム「Time Flies(タイム・フライズ)」 - 配信日決定トレーラー - 7月31日より順次配信開始

 某人気Webマンガにも登場する「やりたいことリスト」。海外旅行に行く、大好きな映画のワンシーンを再現する、お腹がいっぱいになるまでステーキを食べるなど、死ぬ時に悔いを残さないために、一度はやっておきたいことをまとめたリストだ。それを人間が作るのであれば、ハエだって作っていてもおかしくはない。

 『Plug & Play』や『KIDS』といった、奇妙でありながらもどこか哲学的な何かを感じさせる作品に定評のあるPlayablesの最新作は、そんな夢いっぱいのハエを操作して、(人間の寿命を秒数換算した)超短時間でそのすべてを叶えさせるために頑張るゲームである。

Time Flies
© 2025 Playables in cooperation with Panic

 手書き風に描かれたゆるい世界には、レコードプレイヤーやワイン、睡眠中の人間など、インタラクト可能なオブジェクトがたくさん用意されており、最初に提示される「死ぬまでにやりたいこと」を見ながら、その夢を叶えるために手当たり次第に突き進む。ハエは弱く、ちょっとの衝撃ですぐに死んでしまうが、その夢は次のハエへと託される。だが、すべてのやりたいことを叶えるためには、ハエの一生は短すぎる。というわけで、ステージの攻略を進めていくと、やがてルート構築やら効率性やらを考えるようになっていく(もちろん、気が向かないときはただフラフラしていてもいい)。そうして、ついにやりたいことをすべて成し遂げて死んだハエの勇姿を見届けた後に、ふと思うのだ。「自分は、これくらい本気で生きているだろうか?」と。

怖さと苛立ちの向こう側に待つ、ゲームだからこそ語ることができる物語『ダレカレ』(発売中)

『ダレカレ』PV

 『ダレカレ』は怖くて、フラストレーションの溜まる作品だ。少女の前にいるのは見知らぬ男で、特にこれといった説明のないままにゲームは進んでいく。操作方法についても最低限のこと以外は示されず、分かったつもりになっても、次の瞬間には「思っていた通りに動かない」と苛立つ場面も少なくない。

 それでも、知らない男から逃げなければならないということは分かるし、ここでゲームをやめてしまうのも気が引ける。アートスタイルは可愛らしいし、「1時間くらいで終わる」のであれば、最後まで付き合ってみようと思う。そうして、何度も「あれっ、おかしいな」と思いながら物語を進めていくうちに、「あること」に気付く。

ダレカレ
Steamストアページより

 説明はこの程度に留めておくが、本作をクリアする頃には、プレイヤーの中で何かが変わって見えるかもしれない。実は、筆者はTGSで出展されているのを見る前から既に本作をクリアしていて、それ以来、ことあるごとにこのゲームを友人や知人に勧めている。『ダレカレ』が描く物語は、間違いなくゲームというメディアだからこそ語ることができるものであり、少なくとも触れた人に「今までにない何か」を与えるだろう。ただし、(いわゆるバイオレンス的な描写とは異なる意味で)心が重くなる可能性があるので、もし気になった場合は、ある程度心に余裕がある時に遊んでみてほしい。

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