ケンカイヨシ×原口沙輔、2人の音楽家はなぜ“Vライバーの世界”に魅了されたのか 創作と「自分との向き合い」を巡る対話

ケンカイヨシ×原口沙輔が語るVライバー

 常に新たな音楽表現を追求し、第一線で活躍を続ける二人のアーティスト、ケンカイヨシと原口沙輔。リアルな友人でもある彼らが、実はバーチャルライブ配信アプリ「IRIAM」のヘビーユーザーであることはあまり知られていない。

 一人は自ら美少女の姿となり熱狂的な配信を繰り広げる「ライバー」として。もう一人は多忙な制作活動の傍ら、配信に耳を傾ける「リスナー」として。なぜ彼らはIRIAMの世界に興味を持ち、そこに飛び込んだのか。そこには、現代社会を生きるすべての人々にとってのヒントが隠されていた。創作とコミュニケーション、そして「もう一人の自分」を巡る、二人の率直な対話をお届けする。(編集部)

Vライブコミュニケーションアプリ
『IRIAM』特集

心でつながる魔法をかける 『IRIAM』は、いつでも・どこでも手軽にキャラクターになってライブ配信を行ったり、 リスナー(視…

ーーまずはお二人が「配信」という文化にどのように触れてきたのか、その遍歴からお伺いさせてください。

ケンカイヨシ(以下、ケンカイ):僕は、見る側というよりは最初から完全に「やる側」でしたね。大学受験で浪人していた頃にドワンゴのサービスに登録したら、ニコニコ動画の24時間アクセス権を案内するメールがきて。登録したらどハマりして勉強しなくなったんですが(笑)、そこから動画をアップしたり配信するようになりました。当時のニコニコ動画ってプレイヤーと視聴者がすごく近くて、見る人は大体自分でも何かやる、みたいな雰囲気だったんです。

ケンカイヨシ

ーー黎明期のニコニコを見ているだけでなく、実際にプレイヤーとしても参加していたのはまさに“先駆者”ですね。原口さんは世代が少し違うかと思いますが、いかがでしょうか。

原口沙輔(以下、原口):僕は当時小学生でしたが、リアルタイムでその時期のニコニコ動画を見ていましたよ。その後、YouTubeが出てきても、やっぱり「配信」といえばニコ生のイメージが強かったです。あとはUstreamで好きなアーティストが番組をやっているのをたまに見たりしていました。

原口沙輔

ーーアーティストとして本格的に活動を始める中で、配信文化との距離感に変化はありましたか? ケンカイさんは確か、音楽活動を一旦お休みした時にIRIAMに出会ったとか。

ケンカイ:これは結構シリアスな話になるんですが……活動が軌道に乗ってきたころ、借金があるのに後輩にご飯を奢ったり、飲みの席ではシャンパンを開けたりと、勢いそのままに派手な私生活をしていたんです。そんな無茶がたたっていた時期に、雇っていたアシスタントの男の子に裏切られてしまって……僕が創作に集中するためにネット周りの連絡を全て任せていたのをいいことに、僕に関するデマを取引先や業界内の方に向けて何十個も吹聴していたんです。後から騙されていたと知ってショックを受け、そこからうつ病になってしまって。もう何も作れなくなってしまったんです。

ーーそれは壮絶な経験ですね……。

ケンカイ:その時に「一度すべてを辞めて、今の自分が一番やらなそうなことをやろう」と決めたんです。キャリアを重ねた作曲家が次に選ぶキャリアとして、Vライバー、しかも美少女のガワを被る「バ美肉」なんて、誰もやらないだろうと。そこで友人でありライバー事務所経験者のゆうこす(菅本裕子/ライバー事務所株式会社321の創業者)に相談したところ、「じゃあ本気で準備しよう」と協力してくれて。そこから自分のバーチャルライバー人生が始まったんです。

ーーこれまで向き合ってきたことができなくなったとき、あえて真反対のことを選ぶと。原口さんもABEMAの恋愛リアリティーショー(『彼とオオカミちゃんには騙されない』)に出演された際には、同じような感覚があったのではないでしょうか。

原口:全く同じ流れですね。元々何度かオファーはいただいていたのですが、人生で一番メンタルが落ちていた時期にあえて出演することを決めたので。

ケンカイ:中学生の頃から知ってますけど、どう考えても恋愛リアリティーショーに出るような性格じゃなかったですからね。そういう「自分を破壊したい」みたいな気持ちがないと、できないことってありますよ。

ーーご自身の殻を破るために、全く違う世界に飛び込んだと。ケンカイさんはVライバーを始めるにあたって、事前にシーンの研究などはされたんですか?

ケンカイ:それが、ほとんどしていないんです。もともと楽曲提供をする時から、VTuberさんの配信を熱心に見ることは避けていて。あまりに詳しくなりすぎると、ファンの解釈に寄り添った「解釈一致」のアイデアしか出なくなってしまう気がして。だから、ご本人としっかりミーティングをして、どんな想いで活動しているのか、創作の魂の部分、つまり「核」の部分を深く理解することに徹していました。配信などの「表層」はあえて見すぎないようにしていたんです。その「核」だけをインストールした状態で、表層は何も知らないまま、「じゃあ俺がVライバーをやるとしたら何をやるんだろう」という挑戦でした。

ーー非常に特殊な入り方ですね。数あるプラットフォームの中からIRIAMを選んだのはなぜだったのでしょう?

ケンカイ:ゆうこすが勧めてくれたからです。あわせて「まずは1カ月リスナー活動(リスカツ)をして、ギフトも投げてみなさい」と言われて、その通りにしました。そこで夢美るうさんというSランクのライバーさんに出会い「めっちゃ可愛い、天使じゃん!」と衝撃を受けて。彼女のパフォーマンスを見ているうちに、「俺も美少女になりたい」と思うようになったんです。

ーーそこでバ美肉願望が芽生えたんですね。

ケンカイ:そうです。先ほど挙げたるうさんの「エンターテインメント性」と、もう1人よく見ていた柘榴シロさんの「カオスな状況にも対応できる地力の高さ」を融合させたキャラクターをやりたい、と。あと、当時のIRIAMの空気が、僕が体験した黎明期のニコニコ動画の“文化祭みたいな雰囲気”にすごく似ていて。プレイヤーと視聴者が入り乱れている感じがたまらなく楽しかったんです。

ーーリスナー活動を経て、ご自身がライバーになってみて、いかがでしたか?

ケンカイ:「楽しすぎて危険」って感じですね。作曲家として楽曲が5000万回再生されても、リスナーとの距離ってあまりリニアじゃないというか……実感がないんですよ。沙輔くんもそうじゃない?

原口:わかります。僕も「人マニア」が5000万回以上再生されているという感覚はないです。誰に話しても知ってくれているとか、友達のお母さんが好きだと言ってくれるとか、そういう時に「ああ、流行ってるんだな」とようやくわかるくらいですから。

ケンカイ:そうだよね。ただ、IRIAMは接続しているのが10人や20人でも、ものすごいリニアな反応が返ってくる。それで”脳汁”が出ちゃうんです。特にイベントはその最たるもので。みんなで一つの目標に向かって、最後の数秒で数十のギフトが飛び交って逆転劇が起きたりする。あの熱気は、高校の文化祭と同じくらい楽しかった。やっていて感動して泣けてくるんですから。

ーー原口さんはリスナーとして、そういった熱狂をどのようにご覧になっているんですか?

原口:僕は、曲作りをしている間ずっと色んな配信やプラットフォームを立ち上げているんですが、その中の一つがIRIAMなんですよ。なのでラジオ感覚で楽しんでいる感じですね。特定の誰かを推すというよりは、新しいサービスが始まったらとりあえずダウンロードしてみて、その日の気分でいろんな人の配信をザッピングしているというか。

ーー作業用BGMに近い感覚ですか。

原口:そうですね。元々ラジオが好きなんです。中高生の頃は、radikoの選局をランダムに目押しして、当たった番組を聴いたりしていたくらいなので(笑)。IRIAMも「面白い瞬間が見れないかな」と思って色々な配信を回遊している感じです。誰が配信しているか、というのはあまり気にしていなくて、たまたま見た配信で面白いハプニングが起きたら、応援してみようかな、となる。

ーー面白い感覚ですね。

原口:ライブカメラを見に行く感覚に近いかもしれません。あるいは、喫茶店で隣の席の人の会話に聞き耳を立てる感覚。顔は見ずに声だけで「あ、面白い話してるな」と思っていて、店を出る時に「ああ、こういう人たちだったんだ」とわかる、あの感じですね。だから、アイドル的な推しを探しに行くのとは違います。

ーーお二人のスタンスが全く違っていて興味深いです。リアルでは友人でありながら、IRIAMではライバーとリスナー。不思議な関係性ですよね。

ケンカイ:面白いですよね。僕がIRIAMを始める時、急に沙輔くんに電話して「俺、IRIAMやろうと思うんだ」って1時間半くらい喋ったんですよ。彼は仕事中だったのに(笑)。

原口:何回その話を聞いても、どんな話をされたか全く覚えてないんですよね。自分が元々IRIAMを見ていたから話したくなったんだと思うんですけど(笑)。

 その話があってから、定期的にIRIAMでケンカイさんの配信も見るようになって。本人にも「見てますよ」と伝えているんですけど、いまだに僕のアカウントがどれかは知らないはずです。

ケンカイ:知らぬ間に沙輔くんのおかげでランキングが上がっているかもしれない(笑)。

ーーVライバーとして配信することのメリットとして「現実の肩書きや見た目といったフィルターがかからずフラットに見てもらえる」という点があると思います。そのあたりは実感されていますか?

ケンカイ:それはめちゃくちゃ有効だと思います。すごく逆説的で面白いんですが、僕みたいな人間が自分っぽいルックスの男性アバターでやるよりも、19歳の美少女のガワを被って配信する方が、かえって素の自分になれるんです。見た目の情報が、僕という人間のコンテクストから完全に切り離されているからでしょうね。これが顔出し配信だと、「ケンカイヨシはこういうことを言うだろう」という期待に応えなきゃ、と考えてしまう。

ーーとても面白い観点です。バーチャルライブ配信のプラットフォームも複数ありますが、IRIAMならではの良さもあるのでしょうか。

ケンカイ:IRIAMの発明は「1枚絵で配信できる」こと。これが非常に大きい。Live2Dで滑らかに動くVTuberだと、それはそれである種のパブリックイメージができてしまう。でもIRIAMは良い意味で「ただのイラスト」なんですよ。この距離感が緊張しすぎず、かつ突き放されてもいない、一番ちょうどいいように感じるんです。顔出し配信だと、コメントを拾われるだけで緊張してしまうけど、IRIAMなら「イラストだしな」という安心感がある。だからリスナーも初対面から「上司が最悪でさ……」みたいな本音を話せる。コメント欄でリスナー同士が自然に仲良くなるのも、他のプラットフォームではあまり見ない光景ですね。

原口:その感覚、すごくわかります。僕らみたいに顔と名前を出して活動していると、発言に対する責任感がすごいんですよ。「原口沙輔」として喋る以上、思いついたことを全部は話せない。その点、IRIAMはライバーもリスナーも、いい意味で無責任になれるんだろうなと思います。リスナー同士が仲良くなっても、YouTubeみたいに派閥ができて喧嘩して、それが配信者にまで影響する、みたいな大事にもなりにくい。お互いに距離が取れるから、健全な関係が築きやすいんだと思います。

ーーなるほど。その「無責任さ」がむしろ心地よいコミュニケーションを生んでいると。

ケンカイ:そう思います。だから、ストレスが溜まっている人には「収益化とかしなくていいから、みんな一度IRIAMで配信してみてほしい」と言いたいですね。実際にあった話なのですが、僕の中学時代の同級生が僕の配信を見てIRIAMにハマったみたいで。そこから自分でも配信を始めるようになって、めちゃくちゃ明るくなったんです。本人に話を聞いてみると「もともと持っていたコンプレックスから解放された」と話してくれました。そういう意味で、IRIAMには本当に人生を変える力があると本気で思っています。

ーー「人生を変える」という意味では、ケンカイさんが音楽活動を再開するための理由にもなったと思います。実際に復帰後の創作活動においてIRIAMでの経験は活きましたか?

ケンカイ:めちゃくちゃありました。それまでの僕は、いわゆる「推し活」でファンが熱狂する感覚が理解できなかったんです。もちろん好きなアーティストはいますけど、一人でひっそり過去の雑誌を買い集めるような応援の仕方しかしたことがなくて。でも、自分がIRIAMライバーになってファンに応援されたり、自分自身が特定のライバーさんを本気で推したりする中で「ああ、人の心ってこういう風に動いて、それが大きな支えになるんだな」ということを学べた。これは、ここ5年で一番の勉強でしたし、その後の作曲活動に間違いなく影響しています。

ーーそんな経験を踏まえたいま、ケンカイさんにとってIRIAMはどのような存在ですか?

ケンカイ:いまのIRIAMは僕にとって“もう一つの実家”みたいな、いつでも帰れる場所になっています。さらに、リアルな友人関係もアップデートされた感覚があります。中学時代からの友達とずっと会っていると、お互いに「あの頃のキャラ」を無意識に演じてしまうことがあるじゃないですか。でもIRIAMという別の場所ができてお互いのことを違った形で知れたことで、その関係性がリセットされて、よりフラットに付き合えるようになったんです。

ーーIRIAMのキャッチコピーに「自分でいるより、自由になれる。」というものがありますが、まさにお二人のお話そのものだと感じました。

ケンカイ:そんなフレーズがあったんですか!? 今さらですが120点の言葉だと思います(笑)。どんな仕事をしていても、人は社会的な役割を演じなければならない瞬間がある。IRIAMはその「どれでもない自分」にいきなりなれる場所。それがすごく健康的で画期的なことですから。

ーー原口さんはここまでのお話を踏まえて、どのように感じましたか?

原口:頭で考えていることと外に出す言葉は誰だって違いますが、IRIAMは頭で考えたことをそのまま話せる場所にもなってくれる。それはすごくスッキリするし、気持ちがいいですよね。普段なら「自分はこういう人間だから、こんなことは言えない」とブレーキをかけてしまうことも、違った姿形をしていることで遠慮なく話せる。それが新しい発見につながるんだなと改めて感じました。

■関連リンク
IRIAM公式サイト:https://iriam.com/
IRIAM公式X:https://x.com/iriam_official
IRIAM公式YouTube:https://www.youtube.com/@iriam_official
IRIAMダウンロード:https://app.iriam.com/7oGF/3ac7af2

壱百満天原サロメが語る、1stライブと『IRIAM』体験の“共通項” リアルタイム性から生まれる「特別な体験」とは

にじさんじ所属VTuber 壱百満天原サロメ。お嬢様口調に、見事な縦ロールを持つ「本当のお嬢様」……に憧れる、一般女性だ。しかし…

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる