ゲームの元ネタを巡る旅 特別編
『バルダーズ・ゲート』シリーズの元ネタにしてRPGの始祖『ダンジョンズ&ドラゴンズ』を遊んでみた

多種多様な販売形態の登場により、構造や文脈が複雑化し、より多くのユーザーを楽しませるようになってきたデジタルゲーム。本連載では、そんなゲームの下地になった作品・伝承・神話・出来事などを追いかけ、多角的な視点からゲームを掘り下げようという企画だ。企画の性質上、ゲームのストーリーや設定に関するネタバレが登場する可能性があるので、その点はご了承願いたい。
今回は筆者がTRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(以下『D&D』)をプレイしたので、その模様をお届けしつつ『D&D』について解説していこう。
『ダンジョンズ&ドラゴンズ』が生まれるまで
『ダンジョンズ&ドラゴンズ』は、世界初のTRPG(テーブルトーク・ロールプレイングゲーム)であり、RPGの始祖でもある。
1970年代初頭、アメリカではウォー・ゲーム(ミニチュアを使った戦争シミュレーションゲーム)が盛んであった。幼い頃からファンタジーやサイエンスフィクションに傾倒していたゲイリー・ガイギャックスは、1971年に『チェインメイル』という中世を舞台にしたウォー・ゲームを発表した。翌年『チェインメイル』の第2版を作成するために、彼が親しんできたJ・R・R・トールキンなどのファンタジー要素を盛り込むことを決めた。
ゲイリーのスタジオにいたデイブ・アーネソンはこれに「ブラックムーア」という変更ルールを加えたキャンペーンを発表。ここでふたりはロールプレイングゲームの可能性を見る。そして、1974年、彼らは『ダンジョンズ&ドラゴンズ』を発売することになる。

TRPGとは?
『ダンジョンズ&ドラゴンズ』は世界初のTRPGなのだが、そもそもTRPGがどういう遊びなのか簡単に解説しておこう。
プレイヤーはまずキャラクターを作成する(プリセットのものを使用してもいい)。人間の戦士や、ドワーフの僧侶など、出自も種族も様々だ。『D&D』において特徴的なのは、キャラクターを規定するアライメント(属性)の概念だ。善・悪・中立と、秩序・混沌・中立という軸があり、どんなキャラクターもそれぞれを組み合わせた9種類の道徳観(例:秩序にして善、悪にして中立など)のいずれかに則ることとなる。プレイヤーは自分が演じるキャラクターがイベントに直面した際、このアライメントを元にして行動を決定するのだ。

ゲームはダンジョンマスター(DM)が進行役を担う。DMはルールブックやシナリオブックを読み込み(自分でシナリオを作ることもできる)プレイヤーが作ってきたキャラクターたちにさまざまなイベントを押し付けていく。
イベントは会話を主体に展開していくが、DMが用意した困難に対して、キャラクターの持つ能力値を参照しつつ、ダイスを振ってアクションの成否を判定していくのだ。たとえば、固いドアをこじ開けるために15点が必要であるイベントがあったとして、20面ダイスを一度振り、出た目に筋力の修正値を追加して、15点を上回っていれば解決する……といった感じである。
こういった処理を繰り返しつつ、DMの語る物語に浸りながら、大きな目標を達成するのだ。

実際に遊んでみよう――スターターセット「竜たちの島ストームレック」
それでは実際に遊んでみよう。
今回使用したのは『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(第5版)スターターセット「竜たちの島ストームレック」だ。他に必要なものはなく、これ一本でプレイすることが可能である
ちなみに第5版というのは、ウィザーズ・オブ・ザ・コーストが公式で2014年以降に発売した製品すべてを指しており、世界中でヒットしたRPG『バルダーズ・ゲート3』も第5版を基に作られている。
DMひとり、プレイヤー複数人に分かれ、まずはキャラクター作成から行う。ルールに従ってじっくりとキャラクターを作っていくのも良いが、今回はスムーズにゲームに入るためにプリセットのキャラクターを使用した。

筆者はパラディンのヒューマン、友人のH氏はウィザードのハイ・エルフ、そして友人のO氏はローグのライトフット・ハーフリングを操ってのプレイとなった。

初心者向けのシナリオの通り、特に難しい知識は要らず、それぞれが自分の目的をもって「竜のやすらぎ」という島にやってきたところから始まる。
上陸とともに早速アンデッドが襲い掛かってくる。チュートリアル代わりの戦闘だ。
今回はDMも初挑戦ということもあり、細かい処理において難儀する点が多かったため、ノートPCを併用してChatGPTに聞きながらプレイしてみることにした。さすがに英語圏のAIということもあり、ネット上のさまざまなプレイ履歴やウィキなどを参照し、我々の疑問に答えてくれるので、かなりスムーズにプレイすることができた。とはいえ、もちろんすべて正しいことを話すわけではないので、違和感を覚えたらちゃんとルールブックを読み返す必要はある。

また、マップなどはDM側の資料にしかないため、こちらもノートPCをモニターに繋ぎ、有志の作ってくれたマップを表示して進めるなど、工夫を凝らすことでさらに没入感を高めることができた。紙とペンとサイコロだけで遊ぶゲームではあるが、それゆえに自分たちの工夫や有志の力を借りることで、如何様にもゲーム体験を変化させられるのが魅力だ。
DMの拙さもある意味では魅力であり、語り方やアドリブ力でシナリオに対する味わいも変わってくる。半日かけて2章分しか進まなかったが、それぞれに見せ場があり、楽しいセッションになった。
街での交渉、クエストの解決、モンスターとの戦いなど、のちに『ウィザードリィ』や『ドラゴンクエスト』シリーズに引き継がれるような要素の多くは『D&D』に見られ、改めてRPGの歴史を奥深く知ることができた。普段はアナログゲームを遊ばないという人でも、ぜひとも触れてみてほしい。





















