ドラキュラからレジスへ――ゲームの中に生きる「吸血鬼」を追いかける

ゲームの中に生きる「吸血鬼」を追いかける

 多種多様な販売形態の登場により、構造や文脈が複雑化し、より多くのユーザーを楽しませるようになってきたデジタルゲーム。本連載では、そんなゲームの下地になった作品・伝承・神話・出来事などを追いかけ、多角的な視点からゲームを掘り下げようという企画だ。企画の性質上、ゲームのストーリーや設定に関するネタバレが登場する可能性があるので、その点はご了承願いたい。

 第21回はあらゆるゲームに登場する「吸血鬼」について調べてみた。

吸血鬼とは何なのか、どこから来たのか?

 吸血鬼(ヴァンパイア)は、死後に蘇り、生きた人間の血を吸うとされる架空の存在である。古代より世界各地に似たような伝承が存在し、スラブ圏では「ストリゴイ」や「ヴルコラック」などの名で語られてきた。こうした存在は、死者が墓から這い出し、家族の血を吸って衰弱させるという形で恐れられていた。

 元を辿れば、古代エジプトにも血を吸う怪物は現れ、聖書に登場するリリスも乳飲み子の血を吸い、夜を象徴する名を冠している。世界各地にある吸血鬼伝説は、やがてゴシック小説や演劇を通じて、都市的・文学的な存在へと変貌を遂げていく。

 世界で最も有名な吸血鬼文学は、やはりブラム・ストーカーが書いた1897年の小説『吸血鬼ドラキュラ』だろう。本作では、トランシルヴァニアの貴族であるドラキュラ伯爵がロンドンに現れ、若い女性たちの血を吸い、自らの影響力を広げようとする。ドラキュラ伯爵に立ち向かうのが、ヴァン・ヘルシング教授をはじめとする登場人物たちである。物語は日記や書簡の形式で構成され、当時の英国社会が抱えていたテーマ――移民の増加、病の蔓延、女性の自立、科学と宗教の対立――などを背景にしつつ、人と吸血鬼との戦いを描いていく。

吸血鬼ドラキュラ(ウィキペディアより)

 小野俊太郎『ドラキュラの精神史』では、ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』における身体性や精神性、さらには政治的・性的な含意までが読み解かれており、吸血鬼が単なる怪物ではなく「近代」のさまざまな不安を凝縮した存在であることが指摘されている。『吸血鬼ドラキュラ』の副読本として非常に面白い一冊だった。

代表的な吸血鬼

 まず、最も有名な存在は『ドラキュラ』のドラキュラ伯爵である。彼のモデルとされるのが、15世紀のワラキア公ヴラド3世、通称「ヴラド・ツェペシュ」である。敵兵を串刺しにする残虐な行為から「ドラキュラ(竜公・悪魔公)」の異名を取り、後世の吸血鬼像に影響を与えたとされる。

ヴラド・ツェペシュ(ウィキペディアより)

 他には、ルーマニアには「ストリゴイ」と呼ばれる吸血鬼が存在する。赤毛で、青い目、ふたつの心臓を持ち、自分の親族を襲う吸血鬼だ。ストリゴイになりかけている死体を見分けるには、左目が開いているかどうかを確認するのが重要であり、起き出してきたら口を利かずにウィスキーを差し出せば攻撃されないのだという。こういった具合に、風土ごとに吸血鬼への解決法がそれぞれに用意されているのが面白いところだ。

 ギリシアのヴリコラカス、スロバキアのネラプシ、ハンガリーのヴァムピールなど、吸血鬼の種類は枚挙に暇がないが、公に認められた吸血鬼として、ペーター・プロゴヨヴィッツという男がいる。彼は1725年にオーストリア帝国支配下のセルビア・キセイェヴォ村にて没した人物なのだが、彼の死後に9人の村人が急死し、死者が彼の名を叫んだという証言が上がった。

 村人たちは司祭が見守る中でプロゴヨヴィッツの遺体に杭を打ち込むと、死後十週間とは思えないほどの鮮血が飛び散ったという。この事件で初めて「ヴァンパイア」の名が公に知れ渡ったことになり、ヨーロッパ全土で似たような事件が多発した。

ゲームに出てくる吸血鬼

 多くのゲームに登場する吸血鬼だが、筆者が紹介したいのは『ウィッチャー』シリーズだ。特に『ウィッチャー3 ワイルドハント』のDLC『血塗られた美酒(Blood and Wine)』では、吸血鬼との関係が物語の核となっている。

 本作に登場するデトラフやレジスといった「上級吸血鬼」は、作中にザコ敵として出てくる下級吸血鬼と異なり、高い知性と文化を持ち、人間社会に紛れて生きている。不死性や変身能力、テレパシー、透明化、霧状になるなどの能力を持ち、銀製の武器以外では殺すことができない。彼らはただの怪物ではなく、自らの倫理観や誇りを持ち、ときには人間以上に人間らしい葛藤を見せる。

GWENT

 また『ウィッチャー』シリーズでは上級吸血鬼は下級吸血鬼と違って不死の存在であり、陽光や聖水といったお決まりの退治法は一切効かず、血を飲むことすら不必要であり、趣味として行うだけなのだ。痺れるほどかっこいい設定である。

 クラシックなところで言えば『悪魔城ドラキュラ(キャッスルヴァニア)』シリーズは、ゲームにおける吸血鬼像の礎を築いた作品だ。ドラキュラ伯爵とその末裔たちは、クラシックなゴシックホラーを背景に、数々のハードで存在感を放ってきた。メジャータイトルからインディーゲームまで、多くの作品が『悪魔城ドラキュラ』の影響下にある。

Castlevania Dominus Collection

 ベセスダ・ソフトワークスの『スカイリム』では、自らが吸血鬼になることで特別な力を得られる。その一方で、日光によるデメリットや周囲からの差別も受ける。DLC「ドーンガード」では、吸血鬼の一団「ヴォルキハルクラン」と、吸血鬼ハンターであるドーンガードとの対立も描かれ、プレイヤーはベセスダ製のゲームらしい二者択一の選択を迫られる。

スカイリム

 吸血鬼とは、単なる空想上の怪物ではない。人間が「死」を恐れ「永遠の命」に憧れ、規範からの逸脱に不安を抱くとき、その象徴として立ち上がってくる存在である。多くのゲームでも、その象徴を上手く利用し、創作に昇華していた。

参考文献:
森野たくみ著『ヴァンパイア 吸血鬼伝説の系譜』(新紀元文庫)
小野俊太郎著『ドラキュラの精神史』(フィギュール彩 77)

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