堀江晶太が語る、周囲からの信頼に驕らないための「メンテナンス」 『VRChat』のいち住人として得られた“得がたい経験”とは

バーチャルの世界でも、得られる体験は本物
――『VRChat』をプレイする中で、“堀江晶太として”だとなかなか言えないけど、野良でなら言える、といった感覚もありますか?
堀江:ありますね。言いづらい話や、悪口じゃなかったとしても、わざわざ言わなくてもいいことってあるじゃないですか。特に、仕事現場とかでは時間も有限ですし、自然と話すべきことが会話の多くを占めてきます。逆に、そうした他愛のないことは『VRChat』の友人の前のような、肩の力を抜いてもいいところでなら話そうと思えます。
一方で、『VRChat』の面白いところは、何気ない話から次につながることがあるんですよね。リアルではお金や時間がハードルになることも、『VRChat』なら誰かがササッとワールドを作り、思わぬ角度から実現することがあるんですよね。
冗談で話したことが、一週間で実現してしまうことだってあります。そういう意味で、「迂闊にポロッと言っていい場所」でもあるなと思いますね。
――逆に、何気ない会話からなにかが生まれたり、いろんな人や文化に出会える『VRChat』で得たものが、ご自身の普段の制作などに還元されている感覚はありますか?
堀江:とてもあります。自分の場合は音楽への還元が多いですが、ステージ作りや、直接楽曲制作に関連しない技術的な話をするときの引き出しに還元されることなどもあります。
そこで見たものや、発信する人たちの感覚、技、表現を、自分なりにアレンジして反映できる。これは『VRChat』だけでなくYouTubeなどでもあるし、海外へ行った時にもあることですが、『VRChat』の場合はその制作している裏側を間近で、しかもすぐに見ることができるんですよ。
「スタジオの音を聴いてこい」とか「クラブでウーファーから音が鳴るフロアに一度行け」といったことは音楽業界ではよく言われますが、実際にやってみるのってハードルがありますよね。でも、『VRChat』ならば「いまセッションしようよ」「いま見せてよ」が、すぐにできるんです。
「オンラインで得られるものなんてたかが知れてるでしょ?」と自分も最初は懐疑的でしたが、実際に体験してみると、問題なく普通にわかるんですよね。真横で見せてもらうだけで、いままで知識としては知っていたが、そこに至るまでの思考の流れなどが、すぐにわかる。インプットの質が濃厚ですし、体験の場として非常に優秀だと感じます。
――そこからアウトプットする時も、例えば、ステージのサイズ感や、柱などのオブジェクト位置も、見ながら調整できる素早さが魅力的ですよね。ポストプロダクション的なチェックがものすごく早く、やりやすい。
堀江:やってみるまでがあっという間ですよね。リアルだったら、業者に発注してから2ヶ月後くらいに納品されるスケジュール感だけど、「今調整しちゃうね」と言ってすぐにできる。ライブイベントだと、ゲネプロどころか、本番当日までステージを調整していることもありますからね。
“ままごと”ではない世界で一歩を踏み出す人たち
――そういったことを『VRChat』で繰り返していると、知識量も変わっていきますよね。やはり手作りのものが多いので、例えば照明について詳しい人から話を聞かせてもらえば、その知識をもとに自分だけのステージを作ることもできますし、インプットだけでなくアウトプットの場としても優秀な印象があります。
堀江:実際、自分の友人には、もともと照明スタッフをやっていて、『VRChat』上でも好きでやっている人もいれば、これから照明や音響スタッフ、PAになりたい学生さんもいますね。特に後者は、これから専門の学校で勉強しようと思いつつ、『VRChat』で実際にチャレンジしている人もいます。
人によってはそれを“ままごと”と思うかもしれませんが、僕は決してままごとではないと思います。なぜなら、結果が一緒だからです。扱ってる機材やシステムが現場で使うものではなかったとしても、それを使った結果が「お客さんにどう伝わっているか」というフィードバックを得られる時点で、やっていることは本物だと思います。
そうした体験を少ないコストでできる場として考えると、『VRChat』は本当にものすごいところだと思います。ちゃんと蓄積する経験、ノウハウもありますし、ある種の社会見学、職業体験の場としても価値があります。その経験が実践にまでつながると思えば、ものすごく可能性に満ちた場所だと感じますね。
花開くべきもの、オーディエンスの価値――堀江晶太が伝えたい『VRChat』の世界
――今回のインタビューだけでも、堀江さんの『VRChat』愛が伝わってきました。最後に、今後この連載を通して伝えたいこと、あるいは話を聞いてみたい人などを教えてください。
堀江:やはり、『VRChat』がすごく面白いところであると皆さんに伝えたいですね。いろいろな文化を渡り歩いて来た身としても、自分が今一番推したい文化なのは間違いないので、「乗るなら今ですよ!」とおすすめしていきたいです。
そして、もっと花開いてほしい人やイベント、場所もたくさんあるので、そこに何かのきっかけが与えられたらいいなと思います。僕以上にこの世界で時間と情熱を捧げている人は、たくさんいますから。
特に、いろいろな事情でできなくなってしまったことを、この世界でもう一度トライしている人って、結構いるんですよね。一度諦めてしまったことに再び取り組む姿は美しいですし、自分もそんな人をすごく応援したいし、実際そんな人が生み出すものって面白いものが多いです。そういう人たちを、たくさん紹介したいなと思います。
一方で、誤解されたくないのは『VRChat』は何もしなくていい場所でもあるということです。ただ話をしに行ったり、なにかを見に行ったりするだけでも面白い。表現者がいて、オーディエンスがいる構造はリアルと一緒なので、オーディエンスとしているだけでもこの世界に立派に貢献しているんだよと、伝えていけたらいいですね。


























